「ワーケーション」という働き方(原田 勝広)

ノマドワークセンターは、同時に、地元の若者の起業を助けるインキュベーション機能も備えている。都会と地方はコインの表と裏だ。人が都会に集中して過密化しストレス社会になっている一方で、田舎は少子高齢化が進み、過疎が深刻化している。一見ゼロサムの関係にみえて、実は双方が様々な社会課題を抱えているのである。

東日本大震災では、東京の多くの若者が東北の被災地に入り込み、起業や自治体支援で復興の一翼を担った。そのことで若者は社会に貢献し、地方は活性化した。こうした協力は可能なのだ。いま地方は都会の癒しの場としてのみ存在するのではなく、疲弊から何とか抜け出したいと思っている。それができなければ、豊かな自然を守る事さえできなくなってしまうだろう。お互いのために、都会と地方は連携することが不可欠になっている。インキュベーション機能を持つのはそうした理由からだ。

都会と地方の連携に新しい視座を持ち込んだのはNPOだ。例えば、山梨県北杜市で農村と都会の企業の橋渡しをしている曽根原久司さんが代表をつとめるNPO「えがをつなげて」は三菱地所と組んで、東京のマンション居住者に山梨の耕作放棄地で稲を育ててもらい、そこで穫れた米でつくった日本酒を丸ビルで売ってもらうなど新手の交流も生み出した。自然の中で都会人のストレスは癒され、耕作地は増加、企業のビジネスにも役立った。

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原田 勝広(オルタナ論説委員)

日本経済新聞記者・編集委員として活躍。大企業の不正をスクープし、企業の社会的責任の重要性を訴えたことで日本新聞協会賞を受賞。サンパウロ特派員、ニューヨーク駐在を経て明治学院大学教授に就任。専門は国連、 ESG・SDGs論。NPO・NGO論。現在、湘南医療大学で教鞭をとる。著書は『国連機関でグローバルに生きる』など多数。執筆記事一覧

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