なぜ資生堂は「文化」を重視するか(中畑 陽一)

1.資生堂のDNAに見る「人」重視の経営

ミッションに「世界で最も信頼されるビューティーカンパニーへ」を掲げる資生堂は、それを実現する6つのDNAを提示しています。ダイバーシティや、サイエンス&アート、品質、おもてなしなど、資生堂を割支える重要なテーマが並びますが、最初に記されているのは ”PEOPLE FIRST” です。これはお客様のみならずすべてのステークホルダーへの感謝と尊重を意味しています。

このステークホルダー重視の企業姿勢は、その歴史に深く根差していることが『資生堂百年史』を読むとわかります。百年史の冒頭には「資生堂の五大主義」として「一 品質本位主義」「二 共存共栄主義」「三 消費者主義」「四 堅実主義」「五 徳義尊重主義」が掲げられています。発刊時6代目の社長だった岡内英夫氏は、この経営理念こそが企業を支えてきたと伝え、事実に基づき、広く公共に供するために100年史を発刊したとあります。

百年史を読むと、中でも「一貫して品質主義で廉価主義をとらなかった」という言葉が心に残ります。DNAの品質重視につながりも見出せますが、中でも「共存共栄主義」こそがその根底を成していることが分かります。資生堂はまだ個人経営から脱したばかりの戦前、大資本が資本の論理にものを言わせ、乱売戦で中小の競合をつぶして独占的地位を築いた後、値上げで独占的利益を得る手法を目の当たりにします。資生堂はこの顧客をないがしろにした資本の論理に対抗すべく、「資生堂連鎖店制度」いわゆるチェーンストアシステムを作り出しました。資生堂は大資本の理論で顧客、メーカー、卸売など誰も幸せにならない状況に対抗するべく、「共存共栄主義」を信念として戦ったのでした。問屋も巻き込み、適正利潤を設定したのみならず、従業員にその理念を徹底し、その後小売店、消費者への教育などへ広げていきました。このように、現在の資生堂の企業理念には、その歴史を通して裏付けられるストーリーがあるのです。

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中畑 陽一(オルタナ総研フェロー)

静岡県立大学国際関係学部在学時、イギリス留学で地域性・日常性の重要性に気づき、卒業後地元の飛騨高山でタウン誌編集や地域活性化活動等に従事。その後、デジタルハリウッド大学院に通う傍らNPO法人BeGood Cafeやgreenz.jpなどの活動に関わり、資本主義経済の課題を認識。上場企業向け情報開示支援専門の宝印刷株式会社でIR及びCSRディレクターを務め関東・東海地方中心に約70の企業の情報開示支援を行う。その後、中京地区での企業の価値創造の記録としての社史編集業務を経て、現在は太平洋工業株式会社経営企画部にてサステナビリティ経営を推進。中部SDGs推進センター・シニアプロデューサー。

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