なぜ資生堂は「文化」を重視するか2(中畑 陽一)

2.社史は企業文化を受け継ぐバイブル

福原義春氏は、人と同じく企業も徳を持つべきとし、広く文化支援を行いました。その義春氏が「経営のバイブル」として非常に重要視しているのが社史です。「孤独な経営の現場で経営者が対話できるのは、唯一会社の歴史であり、過去の経営者が、社会環境が激変したり、あるいは政治状況が激変したり、そして経営の危機が起きたときに、どのように判断し、決断してきたかを知り、経営判断に役立てる材料は、社史以外にない。」と述べ、企業文化を伝えていく極めて重要なものとして社史を挙げています。

さらに、「部族や集落と同じように、企業にも特有の物語がある。しかも、それは、書かれた経営のマニュアルに劣らない価値があるもので、企業にもそれを伝える語り部が必要だ」と述べています。語り部を雇うのはなかなか大変ですが、企業文化を象徴する社史に立脚した広報活動を行うことで、物語を紡いでいくことができるのではないでしょうか。

また、「自分たちの固有の文化、伝統というものが、共同体にとって大事なことは誰でも知っている。 が、それらがどういう本質と歴史をもつか知らなくては、次代に伝えるべき 新しい理念も生まれ得ないであろう」とも伝えています。このように、社会や従業員を感動させる企業理念やそこから織りなされるストーリーを創り、新たなる価値を創造していくには、自社の歴史・文化を知る必要があります。そもそも、「古いもの」を知らずして「新しいもの」は創れないのですから。

資生堂が培い、受け継いできた価値観や文化。第一線で文化を育ててきた企業だからこそ持てるその信念と歴史に学べるものは多いと思います。

昨年開かれたフランスのパリで日本の文化の魅力を発信する「ジャポニスム2018」への寄稿で福原義春氏は、「もはや経済が人間に優先する時代は終わった。人類の発展は、文化を抜きにして語れない。世界のどんな民族・国家も、いまこそ文化の重要性をもっと認識し、文化を中心に据えて未来社会をデザインすべきだ。」と述べ、フランスがそれを最もよく理解していると述べています。

資生堂の始まりに深く関わった初代社長信三氏。彼のパリでの深い文化へのかかわりが、資生堂の原点となり、受け継がれ、価値創造の源泉となり、100年を経た今も広がりを見せています。

参考
*資生堂WEBサイト https://www.shiseidogroup.jp/company/philosophy/
*資生堂百年史
*資生堂企業史料館
*『企業は文化のパトロンとなり得るか』福原義春 1990
*帝国データバンク史料館 企業史料協議会創立30周年記念「ビジネスアーカイブズフェア」 http://tdb-muse.jp/lecture/2011/11/post.html
*社史の状況 https://www.diamond.co.jp/_itempdf/0201_biz/34021-8.pdf

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中畑 陽一(オルタナ総研フェロー)

静岡県立大学国際関係学部在学時、イギリス留学で地域性・日常性の重要性に気づき、卒業後地元の飛騨高山でタウン誌編集や地域活性化活動等に従事。その後、デジタルハリウッド大学院に通う傍らNPO法人BeGood Cafeやgreenz.jpなどの活動に関わり、資本主義経済の課題を認識。上場企業向け情報開示支援専門の宝印刷株式会社でIR及びCSRディレクターを務め関東・東海地方中心に約70の企業の情報開示支援を行う。その後、中京地区での企業の価値創造の記録としての社史編集業務を経て、現在は太平洋工業株式会社経営企画部にてサステナビリティ経営を推進。中部SDGs推進センター・シニアプロデューサー。

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