香港のNPOが中国で社会起業家を支援――プログラム参加体験記

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NOMAD global代表 辰野まどか

2008年8月16日~28日までの2週間、Global Institute for Tomorrow(本部:香港)主催の「Global Young Leaders Programme(YLP)」に参加した。

8月16日に北京入りして、一週間座学。その後、中国の最貧困地域のひとつである寧夏省に移動。22名の多国籍、多企業の参加者たちと、寧夏 回族自治区にいる社会起業家のコンサルティングを行い、最終的には投資家にプレゼンをし、投資を募る。

2週間の短期集中型で、座学とフィールドワーク、ビジネスプラン作りを行った。グローバリゼーション・アジアの役割、市民社会、政府の役割・ 企業倫理・多様性・CSR等を頭と体験で学んでいくのである。学ぶだけではなく、地域活性に貢献するプランも作り出す。MBAの社会貢献系実践バージョン ともいえるだろう。

このプログラムのユニークな点はアジア発の人材育成プログラムということと、企業のマネージャーを対象にしているということである。参加者 は、このコンセプトに共感した企業から2週間派遣される(過去参加企業:JPモルガン、クレディ・スイス銀行、キャセイパシフィック航空、スタンダード チャータード銀行など)。このプログラムは、途上国で一斉に植林をするようなボランティア活動とは違う。ビジネスパーソンとして日ごろ培っているスキルを 使いながら、途上国で持続可能なビジネスモデル作りをサポートし、それを動かす投資を入れていくものなのである。

プログラム概要

【プログラム名】
Global Young Leaders Programme Learning through Other’s Eyes

【プロジェクト名】
(年4回開催。プロ ジェクトは毎回異なる) 砂漠化防止・地域貢献ビジネスプロジェクト(中国/寧夏)

【場 所】
・北京(座学中心)
・寧夏回族自治区(フィールドワーク中心)

【参加者】
アジア圏を中心としたビジネスマネジャー等 22名

【3つのモジュール】

-モジュール1
学術的なクラスとリーダーシップ・デベロップメントを中心に運営。グローバリゼーション・市民社会・政府の役割・企業倫理・多様性・CSRをテーマとして 扱う。(今回はスペシャルトピックとして、砂漠化、エコツーリズム、ワイン産業についても扱う)

-モジュール2
体験型学習を中心に運営。環境問題や文化尊重に関して妥協せず、貧困を軽減させられるような社会起業に基づいた持続可能なビジネスプランを作り出す。

-モジュール3
投資オプションを提供。コミュニティとビジネスセクター、NGOと連動し、投資者と行動プランを模索していきながら、ビジネスプランを見直していく。

【共 催】
Yinchuan Jinhu Eco-agriculture Tourism Company Ltd.

【主 催】
GIFT (Global Institute for Tomorrow)

体験談

■1日目:YLPプログラム@北京(付近)開始!

北京滞在と書きたいが、実際は、北京から車で1時間ほどの所が舞台。オリンピックで規制が厳しいので、研修に適したより便利な 場所にしたそうだ。紫禁城を模したといわれるホテルは、徒歩では簡単に回りきれないほど広く、中国のダイナミクスや文化を味わうには最高である。夜中に到 着したので、外から入る時は本当にお城に泊まるのかと思ってしまうほど。集まったメンバーは、マレーシア、香港、台湾、中国、カメルーン、アメリカ、オー ストラリア、ニュージーランド、インド、そして日本の10カ国、22名。バンカーやコンサルタント、マネージャーにシニア・エグゼクティブ、大学院生 (MBA)、NGOスタッフなどバックグラウンドは様々。

参加者紹介を通して、彼らのプレゼンスを見るが、なるほどこれは、社内で選ばれた人たち。語学力はもちろん、プレゼンスタイ ル、アティテュード、ユーモアのセンスまで、 彼らの優秀さがひしひしと伝わってくる。

■2日目:グローバリゼーションとは?

インド人もびっくりの大きなテーマ。「グローバリゼーションとは何か」。これについてほとんど1日かけて話し合う。経済、政治、文化、さまざまな視点か ら、10カ国それぞれが持っている現実をシェアし、この大きなテーマが一体何かを、立体的に形作っていく。

コンテンツだけではない。全体ディスカッション中にインド人参加者たち5人が、他の17人を差し置いて議論を始め、止まらなくなった。噂には聞いていた が、インド英語とともに、まくしたてるように自分の意見を言い、それをほかのインド人が応え、というのはまるで、インド独壇場のトーク・ライブのようだっ た。

このインド人たちが近い将来、人口の最も多い国になり、世界中により散らばり、ITやネットワークを通して今以上に力を持っていくのである。これもまたグ ローバリゼーション。これから参加する人もいると思うので詳しくは書かないが、アジアという視点からもグローバリゼーションを形づけていくという時間があ り、それはより理解が深まるやり方であった。

その後、農業大学の教授が来週から訪れる地域の砂漠化の問題について講義してくれたが、グローバリゼーションの輪郭がわかった後に聞くと、他人事としては とても聞けなくなる。教授の話から何を持って帰れるか、聞くほうも必死になる。

すっかり頭を使った1日だったが、夜は、メンバーとホテルにある広大な体育館で、メンバーたちと卓球を して、すっきりした。多国籍のメンバーたちと瞬間瞬間に起きる化学反応がこれからどんな風に発展していくか楽しみである。

■フィールドワーク

「中国寧夏ワインは売れるのか」 そして、寧夏回族自治区へ。私たちが一緒にビジネスモデルを作るのは、地元で活躍する社会起業家。ノーベル平和賞のノミネートも受けたコミュニティの発展 の実現に向けて努力している女性、ヤン・ハイラン氏である。彼女は、都会生まれにもかかわらず、砂漠化した土地にやってきて、一本一本木を植えていった。 その結果、畑が生まれ、牧場が生まれ、ワイナリーが生まれたのである。

近くに流れている黄河の水を循環するシステムをつくり、それによって雇用を創出した。差別を受けていた少数民族の女性達も職を得ることができたのである。 これは少数民族の地位向上にも貢献している。今回のプロジェクトは、彼女の会社のワイナリー、エコツーリズム(エコロッジ)のビジネスプラン作りである。

エコロッジに着くや否や、ヤン氏は、畑で採れた新鮮な野菜、目が覚めるほどおいしいブドウやトマト、野菜がいっぱいの中華料理とともに寧夏ワインをサーブ してくれた。中国のワインに関しては、美味しいものを飲んだことがなく全く期待していなかったが、これが、意外に、なんとも、おいしかった。若いワインな のだが(なにせワイナリーは07年に始まっている)飲みやすく、後味も悪くない。

中国におけるワインの発展は、中国の近年の発展のような早さだったに違いない。15年前旅したときに飲んだものとは段違いである。

今日も24時近くまでビジネスプランについて、チームで話し合う。いったいどんなチャンスや脅威があるのか。利益率の高いワインビジネスを主軸とし、クラ イアントの企業だけではなく、そのコミュニティやNPO、政府までもWINWINになる方向性で作り上げていく。地域貢献型プロジェクトを目指しているか らだ。

銀行マンやNGOスタッフ、MBA受講生、経営者など、さまざまなバックグランドの人々がこのコンセプトにおける同じゴールに向かってビジネスプランを 作っている。

寧夏ワインは売れるのか。サステナブルモデルは作れるのか。5日後に投資会社、投資家たちにプレゼンをする。

■女性社会起業家ヤン氏の強さ

プレゼンの当日。北京にある有名なホテルのイベントルームを借りて、10時近くには30名ほどの投資家たちが集ま る。UNDP、世界銀行、JPモルガン、国際協力銀行(JBIC)、クレディ・スイス銀行、KPMG、フランスのワイナリー・オーナー、中国メディア、中 国のNGO、NPO、等々。

練りに練られたビジネスプランを美しくまとめたパワーポイントがスクリーンに映る。プレゼンを任されたルックスがよく雰囲気を明るくするアメリカ人と、 キャリアウーマンのシンガポール人、そして、ファイナンスに強いインド人が舞台に上がる。

昨日まで砂漠地帯にいた私たちも、この日ばかりは、ほぼ全員スーツ。昨日までのTシャツ、ジーパン姿からは見違えるようである。会場もまた、一流企業から 集まる投資家達が、 きちんとした身なりでプレゼンが始まるのを待っている。

そこで、今回のクライアントであるワイナリーとエコロッジのオーナーであるヤン氏が挨拶に舞台に上がる。そして、彼女が、白いポロシャツとトレパンで舞台 に乗ったことに気が付く。

マイクを両手で力いっぱい握り締め、彼女は「謝謝」といって頭を深々と下げた。そして何かを言おうともごもごした後に、緊張して言葉が出ない。もういい わっというような感じで、マイクを司会者に渡した。それを客席で見守る彼女の夫は、Tシャツとジーンズだった。「いやいや、何か言ってみて」と司会者にマ イクを戻され、彼女は、また両手でマイクを握り、こう言った。 「私は女性として女性のコミュニティ作りに尽力して来ました。コミュニティを考えて、環境を考えて、やってきました。90パーセント以上の西中国の女性は いい条件で働いてはいません。コミュニティを発展させることで、精神的にも身体的にも、サポートしていきたいと思っています」  そして、もうマイクはいいわ、という感じで司会者にマイクを戻して客席に戻った。その後、コミュニティ、政府、環境、マーケティング、マネジメント等な どが深く練られたプレゼンが、YLPメンバーからされていく。投資家らしい、つっこんだ質問に対して、ヤン氏は誠意をもって答える。

最初からずっと緊張しているようだったが、質問時間後半の、「このビジネスプランをどう思うか」という質問に「とってもワクワクしています」とイキイキと 答えた後は、いつもの彼女らしく、正直に思いや考えを会場に伝えられるようになった。

どこまでもキュートで、そして、誠意のある態度。メンバーの中には、ドリーマーとあきれる人もいたけれども、私は、人として大好きだった。この2週間、い つ会っても、言葉が片言しか通じないにもかかわらず、「謝謝」と言ってはニコニコ握手してくださる。息子が日本に留学したがっている、と息子を紹介してく ださり、二人で片言の中国語と日本語で会話をした。彼女はアメリカ人から「あなたの幸せを願っています」という英語を必至に学んで、ゆっくり片言の英語 で、何度か聞かせてくれた。コミュニティのインタビューで、少数民族の女性が、貧困に苦しむ生活を話し、胸がいっぱいになり、急に泣き出したときにも、気 が付いたら彼女は、その女性の横にいて、一生懸命励ましていた。

彼女は、精一杯投資家の質問に答え、北京という土地で、自分のコミュニティや女性たちに対する思いをスーツ姿の人々に伝えていった。

ようやく、プレゼンと軽い交流会が終わる。プレゼンデーは、プログラムの最後の日でもあったので、YLPのメンバー達は、同じ会場で大きな机を囲み、1時 間ほど、プログラムの振り返りをする。

ちょうどその振り返りが始まった頃、会場でヤンさんがしくしく泣き出した。どんどん激しくなり、しゃっくりを繰り返し、横にいる通訳の人に肩を抱かれなが ら、最後は、会場から飛び出していった。

メンバーは、それを横目にみつつ、2週間のプログラムの感想を一人一人が述べていく。

「多様なバックグラウンドを持つ参加者と共に働けたことが価値だった」

「CSRという概念のない自分の会社にまず、それを持って帰りたい」

「まったく職場では味わったことのない違う環境だったけど、自分の強みや弱みを改めて学ぶことが出来て本当に有意義だった」

そんな言葉が出てくる。そして、いつも強気で、最も意見を多く出すインド人の参加者が、こんなことを言った。 「確かに僕たちは良くやった。いいプランやプレゼンを作るために緊張だってしただろう。

北京オリンピックで聖火ランナーに選ばれたヤン氏(右)と香港からの参加者(左)

北京オリンピックで聖火ランナーに選ばれたヤン氏(右)と香港からの参加者(左)

でも、今回最も大きな緊張の中で、最も大きなプレッシャーと戦ったのは誰だと思う?ヤン氏だよ。こんな投資家達に囲まれ、こんな多国籍メンバーに囲まれ、 そしてこのプランを実行していくのは彼女なんだ。そのプレッシャーは想像つくかい?彼女が今、プレゼンがやっと終わって、泣けてきたのだと思うよ。でも、 彼女がこの2週間、僕達に見せてきたものは笑顔だけだったね」
会場が、しんとなる。確かにそうだ。少なくとも私は彼女の、にこっとした笑顔とありがとう、と深々とお辞儀する姿しかみていない。(もちろんインタビュー にはまじめに答えているけど)
中国が急激に発展する中、彼女のように本気でコミュニティや環境、女性、人の健康や教育にパッションを持っている人はいる。そして、それを笑顔と感謝で関 わっている人が。  私は、GIFTを通して、彼女に出会えたこと、夢の実現に少しでも関われたことが、本当に幸運だと思った。またパワーアップした彼女のワイナリーとエコ ロッジをいつか訪れたい。

■CSRでもフィランソロピーでもない。それが「GIFT’s WAY」

プレゼン中、会場から、様々な質問が飛んでくる。

「この内容を、他のコミュニティにコピーされても良いか?」 (他の発展も視野に入れているのかという意味) 「この成果をどのように評価していくのか?」などなど。

基本は、代表とYLPメンバーが答えるのだが、たまに、GIFT代表のチャンドラン氏が答える。

「これは、CSR事業でも、世界を救おうというものでもありません。営利組織を生み出すためのプロセスなのです。例えば、GIFTは学校づくりはしませ ん。寄付とか、フィランソロピーではなく、ビジネスプランをもってお金を生み出し、社会経済に貢献していくのです。立派な賞をもらうことは意外にカンタン なのですが、投資を得て、持続可能な組織にしていくのは難しいのです。この規模ですと、小さい額の投資となりますが、それによって、コミュニティ発展が自 立的なものになっていきます」

アジアの役割についてプレゼンするチャンドラン氏

アジアの役割についてプレゼンするチャンドラン氏

そう、これがGIFTのやり方。かわいそうだから、助けてあげなければいけない、という動機は受け付けない。クライアントに元々ある強みを引き出しなが ら、対等にパートナーになれるように様々な世界とクライアントをつないでいく。

だから私は、好きなのだ。今までNGOやNPO、国際機関で突破し切れなかった壁も、この対等に見ていくやり方で、一歩前に進んでいけると思った。

GIFTへのお問い合わせ

■ 次回のインドプログラム詳細(09年1月5日~16日)はこちら
http://www.jobweb.co.jp/company/content/view/504/9/

■ GIFTに興味のある方は、こちらが問い合わせ先です。
株式会社ジョブウェブ GIFT JAPAN事務局

TEL:03-5114-1271 MAIL: gift@jobweb.co.jp

■ 関連サイト:

GIFT:
http://www.globalinstitutefortomorrow.org/

株式会社ジョブウェブ GIFT JAPAN事務局ウェブサイト:
http://www.jobweb.co.jp/company/content/view/538/235/

GIFT-YLPについての詳細資料:
http://www.jobweb.co.jp/gift_ylp/gift-ylp_explain.pdf

■ 今後の予定

それぞれ2週間のプログラムを予定しています。

2009年1月 インド
2009年3月 カンボジア
2009年6月 中国
2009年9月 インド
2009年12月 インドネシア
※ 詳しくは株式会社ジョブウェブにお問い合わせください。

NOMAD global代表 辰野まどか
blog:グローバル日 記

2008年12月19日(金)12:34

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