JCB復興支援、石巻を持続可能で豊かな地域へ

■被災した蛤浜の暮らしを守りたい:一般社団法人はまのね

「はまのね」代表理事の亀山貴一さん

「はまのね」は林業以外に、蛤浜の水産業、狩猟の6次産業化などにも取り組んでいる。代表理事の亀山貴一さんは、「団体名の『はまのね』には、浜に『根』差し、『音色』のように共鳴して広げていきたいという思いを込めた」と話す。

東日本大震災発生当時、水産高校で教師をしていた亀山さんは、妻と間もなく産まれるはずだった子どもを津波で亡くした。震災の影響で生まれ育った蛤浜を離れていたが、久しぶりに訪れた蛤浜の美しい海を見て「蛤浜での暮らしを守ろう」と決意。教員を辞めて「蛤浜プロジェクト」をスタートした。

2013年3月には、ばらばらになった人たちが集まれるようにと「café はまぐり堂」をオープン。瞬く間に年間2万人が訪れる観光スポットになり、宿泊施設などを併設するために事業拡大を進めた。ところが、地元の人からは「蛤浜が変わってしまう」「こんなはずではなかった」という声があがりはじめた。

亀山さんは「何もなくなってしまった地域に、雇用を生むこと、交流人口を増やすことが、地元のためになると思っていた。そこに住む人たちが幸せに暮らせるように、本当の豊かさを追求することを心に決めた」。そうして事業の拡大を見直すことになった。

鹿の食肉処理施設「はまぐりジビエ」の完成イメージ図。生き物と人との関わりを考えるひらかれた場にすることを目指す

亀山さんはこの9年、「正解が見えないなか、非日常のなかでとにかくがむしゃらに頑張ってきた」と振り返る。カフェ以外にも、増えすぎた鹿の駆除や鹿肉の活用を進めたり、蛤浜の山林の木を伐採して家具を作ったり、マリンレジャーを運営したりするなど、地域課題を解決する事業を手掛けてきた。

亀山さんは「自然が豊かな蛤浜は、動物との距離が近い。近年は鹿が増え、どうしても捕獲する必要が出てきた。せっかく獲るのであれば、肉を食べ、皮や角を利用して、命を生かしたい。自家消費には限界があるため、食肉処理業の許可を得た衛生的な食肉処理施設が必要だった」と説明する。

そうして『「5」のつく日。』の支援を受けて、鹿の食肉処理施設「はまぐりジビエ」づくりが始まった。施設は2020年5月に完成予定で、肉の販売だけではなく、ハンターの研修や調理技術の向上に向けた研修なども行う。

亀山さんは「食肉処理施設ができれば、猟を生業にしたり、副業にしたり、仕事が生まれる。JCBの『「5」のつく日。』をはじめ、これまでたくさんの支援を受けてきた。それらを無駄にしないためにも、小さくても持続可能な仕組みを構築していきたい」と意気込む。

JCBはこれまでのべ約200団体に約5億3千万円を寄付してきた。『「5」のつく日。JCBで復興支援』は、今年も2月から5月まで実施されている。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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