聴覚障がい者ら「コロナ会見で手話通訳を放映して」

■「音声、手話、文字」の3つが重要

一部で「ネットニュースやSNSを見れば済むのでは」という意見もある。だが、高齢者やインターネットを使わない(使えない)人などは容易にアクセスできない。さらに、生まれつき耳が聞こえないなど、手話を第一言語にしている人は、第二言語となる日本語を読めないことも多い。日本人にとっての英語のような感覚だ。

視覚障がいやディスレクシアなど文字を読めない人も一定数いるため、伊藤さんは「情報を伝えるには、音声、手話、文字の3つがそろっていることが重要だ」と訴える。

内閣府の調査によると、日本で障害者手帳を持つ聴覚障がい者数は約35万人だが、難聴や高齢者など聴覚に障がいを持つ人を含めると、その数は約1400万人(人口の11%)に上る(日本補聴器工業会調べ)。

「このままでは、感染リスクや予防方法など、情報が十分に行き届かず、感染防止を十分に行えない恐れがある。コミュニケーションに困難を抱える人は、テレビから情報を得ていることが多い。だからこそ、テレビで手話通訳や字幕をつけて放送することは非常に効果がある」(伊藤さん)

新型コロナウイルスはどういう病気なのか。コロナウイルスへの感染が疑われる状態になったらどうすれば良いのか。仕事や買い出しに行っても大丈夫なのか――。

多くの人が不安を抱え情報収集に努めているなか、情報にアクセスできないことがどれほどのストレスになるか想像に難くない。

伊藤さんは「聴覚障がいがあると、電話で話すこともできない。現状では外出して人と情報交換することもかなわない。閉ざされた環境で情報にアクセスできないことは死活問題」と吐露する。

■ NZや台湾では手話が公用語に

ニュージーランドでは2006年、世界で初めてNZ手話を英語、マオリ語に続く公用語とする法律が成立した。手話通訳を義務付ける強制力はないものの、カンタベリー地方で起こった大地震(2010、2011年)、クライストチャーチのモスクでの銃乱射事件(2019年)、新型コロナウイルスの感染拡大(2020年)を受けて、それぞれの政府の会見や発表には必ず手話通訳が付いているという。

台湾でも2018年、北京語以外の多様な言語を平等と位置付ける「国家言語発展法」が可決され、台湾手話もそのなかに含まれた。

伊藤さんは「日本でも手話を公用語にしようという動きがあるものの、実現には至っていない。なかなか認知されにくい課題だが、これからも情報発信を続けていきたい」と語った。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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