JCB復興支援、「障がい福祉」の新たなモデルづくり

■ 地域の一員として支え合う仕組みを

利用者のアートを使ったポラリスのポスター

震災から4年が経ち、復興支援が徐々に減っていくなか、田口さんは2015年3月に社協を退職し、新たな挑戦を始めた。

山元町には精神科がないからこそ、コミュニティで支えることが重要だ。障がいがある人が町の復興に貢献することで、地域の受け入れ方も変わってくるのではないか――。

そこで、障がい者自身を地域の担い手にしようと、NPOのポラリスを設立し、「障がい者支援」「心のケア支援」「地域コミュニティ創造」の3つの事業を開始。これらの活動に「アート」を取り入れているのも特徴だ。北極星を意味する「ポラリス」には、「素敵な生き方はたらき方」の道標になりたいという思いを込めた。

宮城県山元町の清掃活動の一環で、被災した米ハーレーダビッドソン社製のオートバイ2台を展示する「TSUNAMIハーレー展示館」の窓と展示パネルをきれいにした

ポラリスの活動は、県境を越えて福島県新地町にも広がっている。山元町に隣接する新地町は被災によって人材とノウハウが不足し、障がい福祉が進まない状況があった。ポラリスの活動を知った当事者たちが声を上げ、新地町の職員がポラリスを視察することになり、連携が始まった。

2018年10月には、『「5」のつく日。JCBで復興支援』の寄付を受けて、山元町に隣接する新地町で障がい者の個別相談を受ける「相談支援室ポラリス」を創設した。

「障がいがある本人もその家族らも相談する場がなく、取り残されている人たちがいると思った。気軽な気持ちで行ってみたいと思ってもらえるように、可愛らしいフライヤーのデザインにもこだわった。新たな相談室の開設はこれからのポラリスを支える人材育成にもつながるのではないかと考えた」(田口さん)

相談支援室ポラリスでは、福祉サービスの利用援助や専門機関の紹介、サロン事業などを行っている。山元町のポラリスメンバーも、同じ立場で話し相手になったり、アートで交流したりする「ピアサポート」活動に取り組む。「当事者同士で話ができるのは心強い」と評判だ。

福島県新地町では、2019年9月に初めての障がい福祉のフォーラム「ANDANTE」を開催。95人が参加し、障害のある人もない人もともに支え合って生きる地域づくりの一歩となった

この事業は2018年11月から「新地町障がい児者相談支援事業」という形で新地町から業務委託を受けることになった。2018年4月から「新地町の障がい福祉は、個別相談支援業務と当事者対象のニーズ調査から進めていくことが必要である」と、行政と繰り返し意見交換を行い、互いの信頼関係を築くことで連携に至った。

田口さんは「新しい試みは行政の理解を得にくい。だからこそ、民間であるJCBの支援を受けて試行的に事業を展開できたことで、行政に実績を見せられた。それが町の事業として認められ、これからはオフィシャルに動くことができる。より多くの人も巻き込めるようになれば、さらに可能性も広がる」と意気込みを語る。

南相馬市など福島沿岸北部の自治体やNPOとの連携も進んでいる。「行政区域を越えての活動は、社協の職員では実現できなかった。NPOを起業したからこそ成し遂げられた」(田口さん)。

いつかまた災害が起きるかもしれない。そうなったときに、誰と助け合えば良いのか。障がいがあっても社会性を育み、その人の好さを地域に知っていてもらえれば、助け合えるコミュニティができるのではないか――。

「震災で多くの人が犠牲になったが、私は生き残った。そして、たくさんの支援を受けてここまでくることができた。私たちの生きる力を使って、障がい福祉と地域の新しいモデルを作っていくことが、一番の恩返しだと考えている。小さな事例だが、エンパワーメント(力を与える)できるようにこれからも活動を続けていきたい」(田口さん)

『「5」のつく日。』を担当するJCB広報部CSR室の佐藤貴之室長は、「『「5」のつく日。JCBで復興支援』では、のべ約200団体へ5億円強を寄付し、震災などの自然災害で被災された方々への緊急支援や、顕在化した社会課題への取り組みに活用いただいた。ポラリスには地域社会と団体、両者の未来を見据え、両者にとって長くメリットが生じるように寄付金を活用いただいた。『「5」のつく日。』の寄付が一時の支援に留まらず、未来につながるように活用され、大変に嬉しい。ぜひともポラリスの取り組みが成功し定着してほしい」と期待する。

『「5」のつく日。』は現在実施中の第10回をもって終了するが、引き続きJCBは「公益信託JCB東日本大震災に負けない子どもたちの未来を応援する奨学基金」を通じて、東日本大震災で両親を亡くした子どもたちが大学・専門学校等を卒業するまで、就学を支援していく。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #CSR#NGO#NPO#SDGs#障がい

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