残念なことに、国連の現状を見ると日本の影は薄いと言わざるをえません。例えば国連分担は、かつては米国に次ぐ第2位でしたが、経済の低迷で今では中国(12.00%)に追い越され8.56%で第3位です。職員数も適正とされる186~252人には遠く及ばす、カンボジアPKOで活躍した明石康さんや国連難民高等弁務官を務めた緒方貞子さんのようなスターも不在です。
思い出すのは、いま日本政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の副座長をつとめている尾身茂さんのことです。彼は慶応大学法学部に入学しましたが、人の役に立ちたいという思いから自治医科大へ進み、東京都衛生局の医系技官として伊豆七島の僻地医療に従事した経験を持つ高潔な人です。WHOでも西太平洋地域事務局長として小児麻痺の根絶やSARS(=サーズ,重症急性呼吸器症候群)収束に尽力しました。
熱意と経験豊富なことからWHO事務局長の有力候補でしたが、2006年の選挙で中国が推挙したマーガレット・チャン氏に敗れました。日本政府の力不足が残念だし、もし尾身氏のような人がいまWHOのトップだったらと考えてしまします。
国連創設50周年の1995年に日本は安保理の常任理事国になれる可能性があったのですが、不幸にも、自社さきがけ連立政権の時代、「大多数の国が常任理事国になってくれというのであれば受ける」といういわゆる「推されてなる」論でチャンスを逃してしまいました。国際政治というのは表面が美辞麗句で彩られているのとは裏腹に、利権と金、コネが幅を利かすものです。国連も血みどろの国益のぶつかり合いの場といえます。
日本は国連外交を再構築する必要があるでしょう。90年代、中国の分担金は0.77%でした。それが経済成長とともに負担も増え「金を出すが口も出す」姿勢を強めています。このままでは、日本の主張が世界に届かなくなります。
国連は理想的な組織ではない、日本はお金だけ取られている、といって絶望することは愚かです。コロナ被害を機に世界のために、また日本のために国連を有効に活用するすべを探ることが求められます。 (完)