原田勝広の視点焦点:社会起業家の現在地

もう1社、注目したいのは、ヘラルボニー株式会社です。知的障がいのある作家のためのアーティストエージェンシーです。広告代理店に勤めていた崇弥さんとゼネコン勤務の文登さんという双子の松田兄弟が立ち上げた企業です。

「4つ上に兄がおり、自閉症だった。家族で、障がい者の集まりやキャンプに同行した。小学生の時、作文に『障がい者はかわいそうな人じゃない。同じ人間だ』」と書くほど、周囲の冷たさを感じながら幼少期を過ごした」と崇弥社長。

文登副社長も「ある時、障がい者アートとの出合いがあり、感動的な緻密な絵、見たことない世界観がそこにはあった。知的障がいを前面に出しながら、アートで世界を変えたいと思った」と振り返ります。

アール・ブリュットというのが、知的障がい者や精神病患者、降霊術師、囚人や独居老人などによる芸術をさす言葉で、フランス人、ジャン・デュビュッフェは「完全に純粋で、なまで、再発見された、作者による芸術活動であり、作者固有の衝動だけから出発している。自発的な創意工夫に富んでいるのが特徴」と説明しています。

会社を設立したのは、2018年。活動内容は、

①原画と複製画事業

②アパレル事業―アート作品をネクタイ、ハンカチ、バッグなど製品に落とし込み、クリエイティビティをブランディングすることで新しい価値を提案

③ライセンス事業ー全国の社会福祉法人200とアートライセンス契約を締結。障がい者アーティストの作品を預かり、使用したら、料金を支払う。

企業との連携には力を入れています。大手企業がSDGsの観点から関心を示しており、既に以下のような実績があります。

  • 東急不動産との共創―渋谷再開発工事の仮囲いを利用したソーシャル美術館「超福祉×全日本仮囲いアートミュージアム」
  • みずほ銀行とのの共創―大手町の本店ビル建て替え工事の仮囲いでソーシャル美術館
  • JRの駅舎ラッピング―花巻駅、吉祥寺駅
  • 高輪ゲートウエイ駅―アート仮囲いをアップサイクルでトートバッグにという循環型社会に向けた実験
  • パナソニックの待合室でアートを展示する「福祉×アート」

SIIFでは、「チャリティーらしい事業だが、企業と組む営業力、デザイン力には卓越したものがある」と期待を込める一方で、「ビジネスとしてちゃんと回すには、しっかりしたロジックモデルを作り上げる必要がある」と指摘しています。

両社を見て、これまでなら企業の中に取り込まれていた人材がソーシャルビジネスの世界に入ってきているのを実感します。環境や福祉一筋などNPOとは違うビジネスセンスを持っているのも強みです。ITも駆使しており、社会を変えてくれるか?

問題はやはりビジネスとして、どこまで完成させるかでしょう。その点はやはり、昔も今も変わりません。資金循環をつくらない限り、どんな立派な事業も長続きしないのですから。
(完)

harada_katsuhiro

原田 勝広(オルタナ論説委員)

日本経済新聞記者・編集委員として活躍。大企業の不正をスクープし、企業の社会的責任の重要性を訴えたことで日本新聞協会賞を受賞。サンパウロ特派員、ニューヨーク駐在を経て明治学院大学教授に就任。専門は国連、 ESG・SDGs論。NPO・NGO論。現在、湘南医療大学で教鞭をとる。著書は『国連機関でグローバルに生きる』など多数。執筆記事一覧

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