「日本初のワイン」は福岡?(中)

■「他藩でもワイン製造の可能性」

これで、日本初のワインは福岡ということで決まりかと思いきや、後藤研究員からは意外な答えが返ってきた。

「福岡が日本初のワインとは思っていない。大航海時代の末期、どこの大名家でも同じように葡萄酒を造っていた可能性は否定できない。私たちが思っている以上に当時は、藩同士の情報交換は盛んなものだった。仙台でも伊達政宗の時代、仙台城内でワインを製造していた可能性があると仙台市文化財課の人から聞いた。慶長期にローマに使節団を送っていた伊達家だからありうる話だと思う。ただ残念なことに記録が残っていない。そんな中で、細川家だけは永青文庫が貴重な1次史料を残していたということ」

正確に言えば、小倉藩のワインが日本初ということではなく、日本ワイン製造に関する最古の記録が小倉藩に残っていたということのようだ。

自治体の「日本初」合戦に使われることは悲しい。そう語る後藤さんの言葉からは研究者としての強烈な矜持が感じられた。

次回では、後藤論文に対する専門家の反応を探る。(続く)

harada_katsuhiro

原田 勝広(オルタナ論説委員)

日本経済新聞記者・編集委員として活躍。大企業の不正をスクープし、企業の社会的責任の重要性を訴えたことで日本新聞協会賞を受賞。サンパウロ特派員、ニューヨーク駐在を経て明治学院大学教授に就任。専門は国連、 ESG・SDGs論。NPO・NGO論。現在、湘南医療大学で教鞭をとる。著書は『国連機関でグローバルに生きる』など多数。執筆記事一覧

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