コロナは働く意識や働かせ方にどう影響を与えたか

日本企業は、これまで右肩上がりの高度経済成長を背景に、会社の在籍期間年数と比例し、個人の能力が習熟していく終身雇用を前提とした「メンバーシップ型」といわれる「職能主義」からの脱却を意味する。

しかし、いま、新型コロナの影響により、日本企業が一斉に導入をしようとしている欧米型の成果主義を前提としたジョブ型は、欧米とひとくくりにはできないが、契約社会をベースとした個人主義にフィットする仕組みであるともいえる。

ジョブ型はある意味、ドライな世界である。

他方、全体主義の国民性も背景として、メンバーシップを重視してきた個々の日本人は、やはり「つながり」を必要とする。そして、そのつながりの上で貢献意欲が高まっていく性質がある。

そのため、企業側が推し進めようとするジョブ型は、ややもすると、日本企業が培ってきたトヨタに代表されるものづくりの「擦り合わせ力」を失わせかねないのだ。

我々は、いわば、GAFAを中心としたクラウド上の空中戦の戦いに対して、重さのある製品をつくってきたものづくり立国としての地上戦の強みをすてて、空中戦に挑もうとしているのではないか。

成果を求める組織とつながりを求める個人の間で、ボタンの掛け違いが生じる可能性があると考える。

その組織と個人をつなぐのはそれぞれのパーパス(存在意義)であり、新型コロナを契機として、そこが問われ始めたことも新型コロナが個人側と組織側双方にもたらした変化の一つである。それと同時にそのつながりこそが、ボタンの掛け違いを補正する。

ソーシャルディスタンスは2メートルとなり、新型コロナを契機として在宅勤務が導入され、さらにジョブ型の成果主義により、企業と個人の物理的な距離はさらに広がっていった。しかしながら、いまこそ、企業と個人のエモーショナルディスタンスをこれまでの2倍縮め、これまで以上に心理的安全性を担保し、組織と個人の持続的なつながりをそれぞれのパーパス(存在意義)を軸につなぎ合わせる必要がある。

それができれば、欧米をそのまま真似るのではなく、日本型企業の良さを継承した、メンバーシップを高めたジョブ型の働き方で組織も個人も持続的な関係性が生まれるであろう。

むしろ、グーグルはWhat(成果)よりも、そのHow(プロセス)として、いかにメンバーと協働して成果をあげたかを問い始めている。一周回って、彼らのほうが日本の良さであるメンバーシップ型を取り入れ、そして、あとを追うように、日本企業はこぞって、彼らの後を追うようにジョブ型を追い求めている。ジョブを整理することは必須であるが、日本企業はメンバーシップも忘れてはならない。

◆西村 英丈(OneHR共同代表/HRテクノロジーコンソーシアム理事/東京ビエンナーレ2021 エリアディレクター)

1300名のコミュニティを有する人事業界有志団体「OneHR」にて、「組織」と「個人」のサステナブルな成長を両立させる「HR版SDGs」を策定。昨年、発表をし、大きな反響を呼ぶ。また、HR版SDGsを実行する「次世代令和型人事部モデル」を経産省メンバーとともに大企業からスタートアップ企業の幅広い企業群の人事・SDGs推進者と策定。共著「トップ企業の人材育成力」(さくら舎)サステナブルブランドジャパン コラム連載「次世代の人事部モデル(サステナブルな人事部門への変革について)」など。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #新型コロナ

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