国連人材「第2のサダコ・オガタ」発掘を

コロナ騒動ではWHOのテドロス事務局長の中国寄り姿勢が日本でも批判されたが、中国はその前の事務局長に香港出身のマーガレット・チャンを送り込み、影響力を強化した。ちなみに、この時、選挙で彼女に敗れたのが、テレビでお見掛けすることの多い政府コロナ対策分科会の尾身茂会長である。

国連を動かすにはしかるべき人材を育て、送り込むことが重要である。批判するだけでは犬の遠吠えと変わらない。中国は国連食糧農業機関(FAO)など4つの国連機関でトップを占めている。第8代国連事務総長に潘基文を就任させた韓国が世界貿易機関(WTO)事務局長選に候補者を立てたのも記憶に新しい。

日本も、かつて国連には事務次長や国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)代表を務めた明石康氏、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)トップの緒方貞子氏ら「スター」がいた。前述の通り、残念ながら、国連機関のトップはゼロだが、希望がないことはない。実は日本人の国連職員自体は急増しているのだ。現在、912人で、2000年当時が468人だから、20年でほぼ倍増のペースである。そのうち女性は2006年に男女比が逆転、現在6割を占める。政府は2025年までに1,000人の大台に乗せたいとしているが、達成は確実といえる。国連事務局の日本人最高位も軍縮担当事務次長の中満泉氏である。女性の活躍ぶりは心強い。

職員の増加に合わせて、国連機関のトップに日本人を送ることが必要だ。政府は語学力や専門知識を持つ人材を育成し、霞が関各省の国連機関トップ候補を育成する一方で、各機関のポストの空き具合をチェックしながら戦略的にトップ就任を後押しする体制づくりを考えているようだが、苦戦している。世界各国は閣僚経験のある大物を候補者に推す傾向が強いからだ。これまでのようなシニアの官僚経験者優先では戦えないのかもしれない。緒方氏は学者出身だ。学界や企業からの抜擢があってもよいのではないか。特に女性だ。グローバルに通用する能力を持つ「第2のサダコ・オガタ」を発掘してほしいものである。     (完)

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原田 勝広(オルタナ論説委員)

日本経済新聞記者・編集委員として活躍。大企業の不正をスクープし、企業の社会的責任の重要性を訴えたことで日本新聞協会賞を受賞。サンパウロ特派員、ニューヨーク駐在を経て明治学院大学教授に就任。専門は国連、 ESG・SDGs論。NPO・NGO論。現在、湘南医療大学で教鞭をとる。著書は『国連機関でグローバルに生きる』など多数。執筆記事一覧

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