温暖化対策の「目標」 欧州と日本の違いとは

皆さんは「ゴール」と「ターゲット」という言葉の違いをご存じでしょうか。日本ではあまり使い分けられていませんが、英米ほか欧州では明確に分けて考えられています。(オルタナ副編集長・松田慶子)

ゴールはいわば「あるべき姿(こうありたいという理想の姿)」、ターゲットは「ゴールを達成するための必達目標」です。

EUの欧州委員会は7月14日、「2035年にハイブリッド(HV)車を含むガソリン・ディーゼル車の事実上禁止する」「脱炭素の取り組みが不十分な国からの輸入品に関税を課す」(国境炭素税)などの大きな方針を発表しました。地球温暖化対策の目標が矢継ぎ早に更新され、取り組みへの強い姿勢を感じます。

報道では、ガソリン・ディーゼル車の禁止に欧州自動車工業会が反発しています。これは現実的な懸念だと思います。電動化が進んでいると言ってもそれは市街地が中心で、充電インフラの整備が整わない地域も多いのです。

補助金が出てもガソリン車との価格差はあり、電動車以外を禁止すれば車を買えない層が出てくる可能性もあります。EVでアウトバーンを走れるかといった課題も残ります。

再生可能エネルギーが普及し、政府とメーカーが総出で進めているようでも、課題は多いのです。

ただ、欧州の自動車開発支援会社の日本法人社長は「禁止といっても現実にエンジンを手放すのはもう少し先になるのでは」と見ます。「まず目標を設定してみんなで進む姿勢を示している。EUもメーカーに相当の支援をし、メーカーもある程度ついてくる。最後は微調整もあるのでは」と。

日本はそうした手法は苦手です。「不言実行」を旨とする日本企業は、達成できない目標を立てるのは無責任とし、目の前の細かな改善を積み上げて形にしてきました。この実直さが自動車のみならず日本製品の高い品質を作ってきたとも言えるでしょう。

一方、達成できないことを恐れ、目標を立てることを躊躇う傾向もあります。背後には達成できない場合、目標を設定したこと自体を社内で責められかねない雰囲気も含まれます。これでは大きな変革は難しいでしょう。

先週、オルタナで書いたSBTiの取材でも、認定取得済企業の元役員が「まずは大胆な目標設定が必要」と話し、別の関係者からは「目標を達成できなくても罰則があるわけではないので、踏み出してくれるとよいが」と指摘する声もありました。

SBTiの事務局に「目標が達成できなかったらどうなるのか」と聞いた企業もありました。事務局は「あなたの会社が信用されなくなるだけだ」と答えたそうです。

気候変動問題は、期限が見えています。なりふり構わず取り組まなければ、地球も子供たちの未来も終わってしまいます。日本企業もいつもの実直さは少し横に置いておき、未来起点の思考「バックキャスティング」の考えを取り入れ、大きな目標を打ち立てることが必要な時期に入っています。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #SDGs#脱炭素

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