「大切な物は」子供の絵で問いかけ

「あなたの大切な物は?」。世界各国の子どもたちに問いかけ、それをテーマにした絵を書いてもらう活動をするユニークなNPOがある。医師で写真家、そして「国際協力師」と名乗る山本敏晴さんが運営する「宇宙船地球号」(東京)だ。

山本さんの著書『ルーマニア どこからきてどこへいくの』(小学館)

これまで70カ国から3万枚以上の絵を集めた。戦争、貧困、差別、食料や水の不足、貧富の格差など、子どもたちが見たその国や地球社会の問題が絵に現れる。山本さんは「こうした絵を題材にして地球を考える教科書を作りたい」と夢を抱く。

山本さんの写真展「ルーマニアの記憶…大切な物は何?…」が3月20日まで東京の調布市文化会館で開かれている。この国では、社会主義体制と独裁を続けたチャウシェスク大統領が1989年に処刑。資本主義に移行したものの、今は貧富の差が拡大して多くの人々が不満を抱く。経済活動と伝統社会との間の衝突が現れた場所だ。

山本さんは2009年までに4つの学校を訪ね、200枚ほどの絵を書いてもらった。そして17人の絵と関連する写真を『ルーマニア どこからきてどこへいくの』(小学館)という本にまとめた。『あなたのたいせつなものはなに?』という連作写真集の一つだ。

「子どもたちの絵から、世界の共通の問題、そしてこの国独特の問題が見える」と山本さんは話す。どの国でも家族、そして環境を大切にしたいとする子どもが多い。ルーマニアでも環境保護をテーマにする子どもがいた。この国では開発でドナウ川が汚染されるなどの問題が生じている。

16歳のルーマニア人少女カルプさんの肖像と彼女の書いた祖母の絵を案内する山本敏晴さん。NPO宇宙船地球号 http://www.ets-org.jp/

そして、この国には他国では例のない「歴史」「伝統」「先祖」という題材を取り上げる子どもがいた。例えばカルプ・マリア・アンナという16歳の少女は大切な物に「お婆さんから聞く話」を挙げ、祖母の絵を描いた(写真)。「大切なことは自分がどこからきて、どこへ行くのか、それを忘れないこと」と彼女は話したそうだ。

「ルーマニアでは年配の人の中には昔の平等な社会を懐かしむ声がありますが、若者は誰もが資本主義社会を肯定しています。それなのに子どもたちが過去に目を向ける姿が興味深かったです。流血と侵略が繰り返された複雑な歴史も影響しているのかもしれません」(山本さん)。ちなみに日本では他国ではあまり例のない「ゲーム」「お金」などを大切とする子どもがいたという。

子どもたちの笑顔、そして環境破壊などの厳しい現実など、ルーマニアとそこから見える地球の現実を山本さんの写真は多面的に、そして淡々と伝える。山本さんは写真に込めた願いを「それぞれの国の子どもたちの未来を、日本の皆さんが考えるきっかけにしてほしい」と話している。(オルタナ編集部=石井孝明)2011年2月15日

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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