「固定価格買取制度」を成功に導く12の条件

風力発電は自然エネルギーの一つ。固定価格買取制度で今後の拡大が期待される(C)WWFジャパン

「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(再生エネ買取法)」が8月に成立し、ようやく日本にも、自然エネルギーの「固定価格買取制度」が導入される。自然エネルギーの普及に向けて、この制度をより有効なものにするには何が重要か。国際的な環境保護団体WWFジャパンの自然保護室気候変動・エネルギーグループリーダー山岸尚之氏に寄稿して頂いた。

 

再生エネ買取法の基本的な仕組みは、自然エネルギーによって個人や事業者が発電した電気を、電力会社が決められた価格で買い取ることを義務づける、というものです。

この制度は、すでに欧州各国や中国などで導入され、普及に大きな実績をあげています。今後日本でも、この制度が真の効果を発揮するには、きちんとした制度設計が必要です。

WWFは、自然エネルギー促進の立場から、各国での制度の導入を支持してきました。ヨーロッパでの経験を踏まえ、この制度を有効なものにする「12の条件」を指摘しました。

「固定価格買取制度」を成功に導く12の条件

1. 自然エネルギー全体の目標が設定され、その達成手段として位置づけられている

本来は、自然エネルギーの明確な導入目標が設定され、その達成手段として位置づけられるべきですが、再生エネ買取法には目標は書かれていません。

昨年改訂された「エネルギー基本計画」には、電力について、自然エネルギーを2030年までに20%に引き上げることが事実上の目標として掲げられています。今後白紙から見直される予定のこの「計画」の中に、最低限、2011年5月の仏G8サミットで菅前総理が発表した「2020年代のできるだけ早い時期に、少なくとも20%を超えるレベル」を正式な目標に設定する必要があります。

2. 電力網の強化・拡大とスマートグリッド化を同時並行で進める

中長期的に自然エネルギーを重視した電力システムを作るためには、電力網の強化と拡大が必要です。更に需要と供給のバランスをより適切かつリアルタイムにとることができるスマートグリッド化が必要です。今後、発送電分離の問題と共に、確実に議論が必要な分野です。

3. 環境影響評価が整備されている

風力発電設備の建設、地熱発電設備の開発、バイオマスの利用などの中には、環境・社会・経済に負の影響を与えうるものもあります。環境への負の影響を最小にしつつ、素早く自然エネルギーを展開できる仕組みの整備が必要です。再生エネ買取法による経済的な面での後押しに加え、導入しやすくする制度や規制環境を周辺に、早急に慎重かつ迅速に整えていく必要があります。

4. 優先接続が保証されている

自然エネルギーの着実な普及には、優先的に電力網に接続できることを保証する必要があります。またその際に、系統安定のための設備投資の費用負担などを業者に過度に強いるなど、事実上の接続拒否がないように制度設計する必要があります。フランスでは、制度導入初期にきちんとこれが保証されていなかったことが普及の障害となりました。

再生エネ買取法では、電力会社に課す買取と接続の義務に、例外規定が設けられ拒否できるようになっています。例外規定が乱用され、拒否が続出すれば、自然エネルギーの普及を社会的に妨げることになります。

5. 費用は全ての電力消費者によって負担される

自然エネルギーの安定的な普及のためには、買取の負担を電気料金値上げ等の形で全ての電力消費者が広く薄く負担するのが良いと、経験上分かっています。スペインは当初、国が費用負担を担う仕組みであったため、国の財政事情が悪くなると買取価格が下げられ、普及の速度が落ちました。

再生エネ買取法では、賦課金(サーチャージ)という形で、買取費用が電気料金に上乗せされる仕組みになっています。ただし、当初はこの賦課金に「kWh当たり0.5円」という上限を設ける案が出されていました。今回、法律の条文にそれが書き込まれることは回避できましたが、今後も制度の運用の中で使われる可能性があります。普及を目的としながら上限を課すのは、最初から制度の手足を縛って走らせるようなものであり、避けなければなりません。

また、電力を多く使用する産業向けに負担を軽減する措置が設けられましたが、これが悪用されて、制度の効果そのものが限定されることを防ぐ必要があります。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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