作って、食べて、心を充実させる食を提案

フードニスタの浜田峰子さん

■被災地に役立つ伝統食の知恵

「寒くてひもじい」。悲痛なメールが東日本大震災の直後の3月12日、宮城、岩手、福島など東北の被災地の知り合いからフードニスタの浜田峰子さんに届いた。「今できる限りの情報を送ります」と返事した。自分の持つ食の知恵を生かすべきと、考えた。

浜田さんは「自家製」「手作り」「ハーブ」をテーマにした料理教室を主催し、本の執筆やテレビ出演などでも活躍する。「フードニスタ」とは彼女の「食を心から楽しく」という思いを込めた造語で、食(フード)と祭典(フェスタ)を合わせた。料理の作り方を教えるだけではない。「美味しい・楽しい・きれい」をコンセプトにして、健康、食育、エコなどさまざまな情報を合わせ提供する。

「電気もガスも水道も止まり調理ができない」。その困惑に冬に野菜を干して作る東北の伝統食「寒干し」を教えた。「おなかの調子が悪い」。それを聞き牛乳からヨーグルトを作り食べることを提案した。こうした「災害レシピ」は被災地の人に感謝され、口コミやラジオで広がった。「食は命をつなぎ、心を支える」。当たり前だが忘れがちであるこの事実を浜田さんは改めてこの体験から学んだという。

■生活のすべてにつながる食

浜田さんの料理教室は東京・目黒区のマンションの一室にある。都会の真ん中にありながら、ベランダには10種のハーブ、15種のミニ野菜が植えられ、その緑が目に心地よい。これらの植物は食材にもなる。講座の内容も参加者が「わいわい」と一緒に楽しく作り、食をめぐるさまざま情報を提供する。

「食のルーツや歴史など、どんな料理にも作り方以外の大切なストーリーがあります。それを学んで作り、食べると、一段とおいしくなるし、料理を大切に感じられます」。こうした考えが、反映されている。浜田さんは学んだ人が、さらに周囲に知識を伝えることを期待する。この料理教室は食育の場でもある。

フードニスタの仕事は今までの浜田さんの経験と結びつく。幼いころから家族そろって料理を作り、三世代が集う食卓はつねににぎやかで楽しかった。社会人として商社で食材の輸入を担当した。「もっと食を知りたい」と、会社を辞めてフランス、イタリアで料理とワインを学んだ。

スローフード運動の盛んなラテン系の二つの国では、食を楽しみ人生を謳歌する人々の生活を知った。「マンマの作る料理は世界一おいしい」「故郷の食材ほどすばらしいものはない」と誰もが話した。食への愛着は家族や郷土への愛ともつながっていた。

■「食の温故知新」を広げたい

「食から日本の地方を元気にしたい」と留学中に考えていたところ、05年に愛知万博で中部地方の食材を使ったイタリア料理を教える講師の仕事を依頼されて引き受けた。それが好評で料理教室の講師、メディア出演の話が次々にやってきた。食品の偽装や農業の衰退など、食をめぐる問題が続く。それとは真逆の「良いものを大切に育み、食べ、心から楽しむ」という浜田さんの姿勢が、食を考え直したいという人々の支持を集めたのだろう。

大震災の復興で浜田さんは、食と緑を使った支援を始めた。通販大手のアイリスオーヤマ(仙台市)などと組んで、ハーブの育て方とそれを使った料理を被災地の仮設住宅で暮らす人に教える講習会を行った。「食と緑は地域コミュニティを再生するきっかけになる」と期待するためだ。

そして食の「温故知新」を今後は目指したいという。日本の食材のすばらしさを発掘し、今の社会に合った形にして提案し広げることだ。「仲間や家族と食卓を囲むとき誰もが笑顔になります。食の質を高め日本中の食卓を心豊かになるものにしたいと考えています」。こんな志を持ちながら、食の大切さを伝え続ける。(オルタナ編集部=石井孝明)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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