企業活動は自然基盤に成り立つ ――トヨタの社会貢献活動の基軸は、森づくり

◆ 自然をベースにした資本主義に

――20世紀型の資本主義のさまざまな矛盾や問題点をどう修正し、21世紀のビジネスはどうあるべきかを考えることが、雑誌オルタナが生まれた経緯でもあります。2000年ころポール・ホーケンは、共著で『自然資本主義』を発表しました。まさに改めて自然をベースとした資本主義を考える時期に来ているのではないでしょうか。

世界人口は70億人になり、人間の経済活動がどれだけ自然資源に依存しているかを示す指標「エコロジカル・フットプリント」も1.5を超えています。つまり、今の経済活動を続けるには地球が1.5個必要だということです。

ですから、自然をベースとした資本主義に修正して行かなければ、一つの地球の中でみんなでシェアして暮らそうという発想にはなりません。結局、資源の奪い合いになり、戦争の道を歩まざるを得なくなります。

私たちは日本を含めて「先進国」と呼びますが、先進国は新興国のモデルになっているのでしょうか。「新興国が先進国になれば物理的(消費資源)に地球は終わり」というのが将来のあるべき姿なのでしょうか。

豊森なりわい塾で。地元の方に話を聞きながら地域を歩く

――2050年までに世界人口は90億人を超えるという推計があります。持続可能な社会を構築するには、経済活動だけでなくライフスタイルも見直す必要があるように思います。

「豊森」は、行政から見ると豊田市の「定住促進事業」という側面もあります。中山間地域の過疎への対策です。豊森だけでなく、そうした動きは各地に広まりつつあり、中山間地域に若い人が入り始めています。集落単位、小学校区単位でいうと、1000人の小学校区に毎年1家族ずつ若い人たちが移住すれば、小学校は維持できます。

「豊森なりわい塾」で学んだ後、実際に定住している人もいます。地元の高齢者たちは、そんな若者に対して、「行く末が無いと思っていたところに、若い人たちが来てくれてとても嬉しい。でも本音を言えば、コンビニや映画館なども欲しいのではないか」と聞きますが、若い人たちの答えは決まって「ここでの生活は何にもないけれど、生きていることが全て自分の人生の積み重ねになる」と言うのです。お金で買えば単なる沢庵も、隣のおばあちゃんが漬けた沢庵ならご馳走になるように、中山間地域では、人と人とのつながりが価値になっていくのです。

こうして価値観が毎日変化していくことが楽しくて仕方ないようです。

◆ 修了生が木工職人や乳業家として自立

――「豊森なりわい塾」で学んだ人たちは、どのようなライフスタイルを実践しているのでしょうか。

毎年、豊森では受講生を30人弱しか受け入れていません。30人の受講生に対して、30人のスタッフが要るからです。一人ひとりの価値観に合わせたライフスタイルを一緒になって考え、地域と接点を作り、地域の中で自然と共存しながら生きていく人たちを育成するのが目的です。

「豊森なりわい塾」一期の修了生には木工職人になった人たちがいます。この2人は修了生同士で結婚しました。豊田市内で工房を開いて、地域材を使った家具を作り、何とか生計を立てています。

それから、出身地である福岡の糸島市に帰って、そこの牧草100%で育てた牛の乳を、低温殺菌して、消費者に提供するビジネスを始めた人もいます。トヨタグループに勤務する修了生で中山間地域に定住を希望している人もいますね。

――中山間地域の定住化は進みましたか。

豊田市もはじめは、中山間地域に住みたい若者がいるのか半信半疑でしたが、豊森のプロジェクトを見てきて、確実にいるということがはっきり分かったようです。

ただ、NPOとしても、中山間地域の可能性を伝え、不安や疑問の解決策をもっと外に向けてPRしなければいけないのだろうと思います。環境意識の高い人の中で広がっても、関心のない普通の人たちに向けて、どう広げていくかが課題です。

◆ 植林にとどまらず、ライフスタイルの創造へ

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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