「ソーシャル」と 「ブランド」を考える
(森 摂、 オルタナ11号掲載)=2009年1月発行
| 1. 献身的 | 見返りを求めない |
|---|---|
| 2. 持続的 | すぐに止めない |
| 3. 独創的 | 横並びではない |
| 4. 本質的 | 表層をなぞらない |
| 5. 全社的 | 個人に頼らな |
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アフリカ・マリの小学校を訪れ、 日本の歌を教える、ダノンウォー ターズオブジャパンの越智寛子 |
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08年6月、エチオピアの難民キャ ンプで古着を配布するユニクロ の小柴英子(撮影・上岡伸輔) |
企業の社会貢献活動は拡大の一途をたどっている。「コーズ・マーケティング」や「ソーシャル・マーケティング」などの手法も認知されてきた。だが、本当に「ソーシャル」で「ブランド」はできるのか。評価が高まってきた企業の実例をいくつか検証すると、一つの答えが浮かび上がった。
ユニクロCSR部員の小柴英子は年に2回、CSR担当執行役員とともにアジア・アフリカ諸国の難民キャンプに足を運ぶ。ユニクロが全店舗で回収している数十万着の古着の一部を届けるためだ。
同社は01年からフリースの回収リサイクルをしていたが、柳井正社長の指示で全商品に対象を広げることになり、06年9月からプロジェクトが始まった。
協力先探しで断られ続けても
回収した古着は「リユース」、クルマの断熱材などへの「原料リサイクル」、ボイラーで燃やす「サーマルリサイクル」などに使われるが、問題は「リユース」だった。
海外の恵まれない人々に古着を送りたい。小柴は10ものNGOやNPOに問い合わせをしたが、「途中で荷物がなくなるリスクがあるほか、手間も掛かる」とことごとく断られた。最後に、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の東京事務所に問い合わせをしたところ、「ニーズはあるし、協力したい」と受け入れてくれた。
これまでにタイ、ネパール、ウガンダ、タンザニア、エチオピアの5カ国を訪れた。来夏には、再びアフリカを訪れる予定だ。「ボルヴィック」による「1L for 10L(ワン リッター フォー テンリッター)」も同じアフリカを舞台にした社会貢献活動として有名な存在だ。ミネラルウオーターの出荷1リットルごとに10リットルの清潔な水を井戸から取れるよう、アフリカの各地で井戸掘りや給水事業に資金援助する。
元々はボルヴィックを展開するダノングループのドイツ法人で05年に始まった運動で、それが各国の現地法人に広がった。
日本法人(ダノンウォーターズオブジャパン、東京・目黒)でも07年からスタート。いまや参加国は8カ国に達した。ドイツ法人はエチオピア、フランスはニジェール、日本はマリと、法人ごとに支援する国が決まっている。08年、日本法人は約6700万円を日本ユニセフ協会を通じて寄付した。
自ら現地に行けば、自ら語れる。
ユニクロもボルヴィックも、単に物資や資金を供与するだけではなく、CSRの担当者が現地に飛んで、自ら活動に参加しているのが特徴だ。
ユニクロの小柴も難民キャンプを訪れるのはもちろん初めてだったが、「難民キャンプという閉ざされた空間だからこそ、カラフルな衣料を喜んでもらえる様子が実感できた」と話す。
ダノンウォーターズオブジャパンからも08年3月、8人の社員が現地マリを訪れたが、そのうちの越智寛子は、CSR専門部署の所属ではなく、人事部の組織開発アシスタントマネジャーだ。ほかに財務担当や物流担当の社員もマリ訪問に参加した。
越智がマリに行くことができたのは、社内選抜に受かったからだ。応募する社員はエッセイを提出しなければならない。越智はエッセイで「自分の目で、現地でのCSR活動を見てみたい」「自ら現地に行くことで、ダノングループとはこんな会社、と他の人に話せるようになりたい」と書いた。
越智は現地の小学校を訪れ、「こぶたぬきつねこ」を歌った。日本の歌で、日本の文化を伝えたいと考えたからだ。「皆、覚えがよくて驚きました。少し教えただけで、大きな声で日本語の歌を歌ってくれた」と振り返る。こういう話は、現地に行ってこそできるし、人に伝わる。
1L for 10Lプロジェクトリーダーの吉沢直大によると、「グローバルのダノングループでは、他社がよく使う『CSR』(企業の社会的責任)という言葉は使わない」という。代わりに「ソーシャル・イノベーション」という言葉を使う。 ここに、独創性を重んじる気風を見て取れる。CSRは「責任」、やらなければならないこと。むしろ、社会と事業の間に革新的な活動を生み出すという意味を「ソーシャル・イノベーション」という言葉に込めている。
08年4月、王子ネピア・マーケティング部長の今敏之は東ティモールの首都ディリに降り立った。その目的は「nepia千のトイレプロジェクト」だ。東ティモールでは、トイレがない家庭が多く衛生面での問題から、多くの子どもが脱水症状で命を落としている。
王子ネピアはその状況を打開しようと、現地の家庭1千世帯と学校にトイレを建設するプロジェクトを始めた。ティッシュやトイレットペーパーなど9種類のキャンペーン商品を購入すると、その売上高の一部がユニセフに寄付され、現地でトイレが設置される。
日本企業の社会貢献の取り組み
- コクヨ エコバツ
- 同社の総合カタログの中で、環境配慮が十分でない商 品につけられる印。3年間でゼロにすることを目指す。でき ていない部分を敢えてさらけ出すことで、逆に真摯に取り 組む姿勢を訴求することができるユニークな事例。
- 日本通運 えころじこんぽ
- 反復資材の利用により、「ゴミゼロ」を目指す引越しサー ビス。低価格競争が激化する中、テレビや新聞等を通 じて、敢えてコーズをフックとした差別化商品によるブラ ンディングを図る同社の、今後の動向に注目したい。
- P&G パンパース・ユニセフタイアップキャンペーン
- 製品1パックの購入ごとに、ワクチン1本相当額をユニセ フに寄付するキャンペーン。“自分の子どものための商 品購入が、世界の恵まれない子どもの幸せにつながる” というストーリーが、消費者(母親)に支持された。
- 森永製菓 エンゼル・スマイル・プロジェクト
- チョコレートの発売90周年を記念し、世界の子どもたちの明るい未来を応援するために立ち上げられた活動。 「1チョコ for 1 スマイル」というコピーで、チョコレート1箱につき1円が国際NGOプランジャパンに寄付される。
- ワコール ピンクリボン・フィッティングキャンペーン
- 乳がん月間中、全国の下着売場でブラジャーの試着が行われるごとに10円を、日本対がん協会に寄付すると共に普及啓発を行う活動。ブラジャー購入時という、乳がんについて考えるまたとない機会を活用した優れた展開。
- 千趣会 ピンクリボン運動啓発活動
- CSRポリシーの一つとして「女性支援」を掲げる同社としての、全面的なピンクリボン支援展開。オンラインショップ トップページの、ピンクリボン仕様への変更、ピンクリボン 協賛商品の販売・寄付等、様々な活動を行う。
- ロレアル HAIRDRESSERS AGAINST AIDS
- ヘアサロンから始まるエイズ撲滅活動として、ユネスコと協働で行う事業。美容師に対する教育を行い、彼らが顧客に語ることで普及啓発を図る。「顧客との対話」を必然とする、美容院という空間を活用した優れた展開。
- アフラック ゴールドリボン運動
- 小児がんの子どもとその家族を支援する同運動に賛同し、寄付、社員のバッジ着用等、様々な活動を行う。「がんを治して学校へ行くんだ。」のコピーで広告展開し、「がん保険=アフラック」というブランド展開を図る。
- ワールド ワーキング・マザー支援
- 30代以上の女性に向けたファッションブランド「リフレクト」における、売上の一部を託児所支援を行うNPOに寄付 する活動。篠原涼子氏をキャラクターに、仕事もプライベートも頑張る女性を応援するイメージを打ち出す。
- ローソン ハッピーローソン
- ローソンが展開する子育て応援店舗。遊具の設置、ベビーカーに配慮した通路幅の拡大等、様々な工夫がな される。ナチュラルローソン然り、ソーシャル・テーマをコンセプトに取り入れることで、他社との差別化を図る。
- ヤマト運輸 環境教室
- 未来の環境問題を担う子どもたちに「環境教室の実 施」という形で対応する同社の姿勢を訴求する広告 展開。陸運業界における環境広告はもはや珍しいも のではなくなったが、「環境×教育」という同社の展開 は興味深い。
- 作成:ソシオ エンジン・アソシエイツ「Social Market Press」編集部 http://www.social-market-press.jp/
ブランドはあくまで「結果」
いまや、社会貢献活動をしないという企業は上場企業ではほぼない。ユニクロ、ボルヴィック、王子ネピアのように社会貢献活動の場を海外、しかも貧困や疾病など深刻な社会問題を抱える発展途上国に移す企業が増えてきた。10年前なら考えられなかったことだ。
彼らは何のために社会貢献活動をするのか。一般的に、企業が新たな経済的な支出をするためには、効果測定が求められる。社会貢献活動でも、売上高の増加や、アンケートやブランドイメージ調査の結果が期待できないと、経営陣は決断しにくい。
だが、「ソサイアタル・コミュニケーション」を提唱する慶応大学大学院経営管理研究科の井上哲浩教授は、「オモテもウラもなく、見返りを求めない企業姿勢が社会貢献活動には必要だ」と話す。
王子ネピアと支援活動で連携した日本ユニセフ協会の林田佳子も「企業活動に絡めての支援の申し出には、まず企業の社会貢献への理念や具体的な計画を聞きます。単にユニセフのロゴを使いたいという話は辞退しています」。
現実にボルヴィックのキャンペーン実施期間中の売上高は、初年度の07年は31%、08年はそれに上乗せして12%伸びた(9月末時点)。王子ネピアでも08年夏のシェアが前年比5ポイント上がった。
しかし、これはあくまで後から付いて来た結果であって、結果を求めての社会貢献活動ではなかったはずだ。では、どうすれば、正しい社会貢献活動ができ、その結果のブランド価値向上が期待できるか。オルタナでこれまで取材した企業も含めて共通項を探り出すと、下記のポイントが浮かび上がった。
(1)献身的 売上高の増加やブランドイメージの向上など、短期的な見返りを求め過ぎると社会貢献活動そのものの目的が不明確になるし、その意図を消費者に見透かされる。
(2)持続的 せっかくの社会貢献活動でも、短期間で止めてしまえば、被援助国から反発さえ予想される。経営者や担当者が変わっても、継続的に活動を続けることが重要だ。
(3)独創的 現在の「CSR」ブームに単に便乗するのではなく、自社の本業や成り立ち、歴史を踏まえた、独自性の活動が求め られる。独自性があれば、他者の心に響く。
(4)本質的 援助される側が何を求めているか、その本質を探る。本質的でなければ社内も動かせないし、社外にも伝わらない。ましてや支援される側の状況も改善されない。
(5)全社的 日本企業では、往々にしてCSRの専門部署は頑張っていても、会社全体になかなか伝わりにくい。全社的な活動にできるかどうかは、経営陣の意思にかかっている。
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最も重要なことは、ブランドづくりのための社会貢献活動であってはならないことだ。売上高やブランド価値の向上は、後から付いて来るという覚悟が経営陣や担当者には必要だ。
丸の内ブランドフォーラムの片平秀貴代表は、ブランドづくりという経営モデルは「[1]顧客および社員ほか関係者の『ハピネス』(感動、うれしさ)をつくる[2]『一瞬のハピネス』を『永遠のハピネス』に変えることに集約される」と指摘する。
これまで、一般的にそのハピネスはモノやサービスによるものが多かったが、ここに来て、「企業の社会貢献活動を通じた、ココロによるもの」を感じ取る顧客や社員、株主が増えてきた。「うちの会社は良いことをやっているという認識が広がった。やりがいを感じる社員が増えた」というダノンウォーターズオブジャパンの吉沢直大の言葉はそれを証明している。(本文敬称略)

