2010年頭特別企画|環境ビジネスウィメン×オルタナ 子育てから考える日本のサステナビリティ

環境に関わる分野で活躍する女性たちのネットワーク「環境ビジネスウィメン」。このたび、3人のメンバーが年齢をモノともせずに相次いで出産、仕事を続けながらの育児生活をスタートさせた。すると、今までの育児支援や両立支援の足りないところが色々と見えてきて―。
日本は今後、未曾有の少子高齢化と人口減少に直面する。地球環境の将来を真剣に考える上でも、まずは一番身近な日本社会が持続可能でなければならないはず。そんな問題意識を持つウィメンのメンバーと、子育ての大先輩に大いに語ってもらった。
(構成/一柳麻衣子、オルタナ編集部 写真/大洞博靖)

対談者プロフィール

鈴木敦子さん
環境ビジネスエージェンシー代表取締役  女の子(1歳)の母
児玉千洋さん
エコテスト株式会社代表取締役  男の子(1歳)の母
木村麻紀さん
環境ビジネス情報誌「オルタナ」副編集長  男の子(1歳)の母
河口真理子さん
株式会社大和総研経営戦略研究所経営戦略部長 男の子(9歳)の母
土堤内昭雄さん
ニッセイ基礎研究所主任研究員 二人の男子(23歳と21歳)の父
モデレーター 船木成記さん
前内閣府男女共同参画局及び仕事と生活の調和推進室政策企画調査官 二女(7歳と3歳)の父

出産・育児はハードルだらけ!?

――皆さんは、会社員や経営者としてしっかりキャリアを積まれた後ご出産されました。自己紹介も兼ねて、実際に出産・子育てをしてみての実感をお聞かせ下さい。

環境ビジネスウィメン 鈴木敦子さん
鈴木敦子さん

鈴木 環境ビジネスエージェンシーという会社、環境リレーションズ研究所というNPOをやっています。会社のほうは環境に特化した経営コンサルで、NPOのほうでは市民のエコアクションを促す仕掛けづくりをやっています。
女性経営者の出産が、ビジネスの場では「リスク」と取られがちだと実感しました。妊娠が分かると、あるクライアントは「これからうちとの仕事はどうなるのか」と本気で心配していました。 妊娠しているから仕事がおざなりになるのではないか、子供がいると仕事が続けられないのではないか、という妙な誤解を受けないよう、妊娠していることを隠さなければならない場面があったのは残念でした。妊娠していることは素晴らしいんだ、という意識がもっと社会の中で共有されて欲しいものです。
出産が遅くなっている現代は、女性のビジネスの場での成長期が出産・育児に重なっています。会社経営をしていなくとも、会社の中で比較的重要なポジションに就いて出産するケースは多いはずですから、社会が女性の出産・育児をリスクと捉えなくなるようにしていかなければならないと思うのです。キメ細やかな仕事と育児の両立支援策はますます必要となるのに、なかなか政策がついてこないのが歯がゆいですね。

児玉 土や水の汚染を調べる環境分析の会社、エコテスト株式会社をやっています。女性だけの会社で、みんな同世代で先に子供を産んでいたり、これから結婚する人もいたりという感じです。私の場合、出産・育児という女性のライフイベントと仕事を両立しやすくしようと会社を作ったようなものでした。お陰様で、今は無理なく仕事をさせていただいていると思っています。
とはいえ、10代、20代の時は周りに幸せそうに子育てしている人が少なく、子供を産みたいとは思えませんでした。でも、「妊娠中ってホントに幸せで、できれば毎年妊娠していたい」という友達の言葉で意識を変えることができたんですよ。

木村 環境ビジネス情報誌「オルタナ」の副編集長です。私が休んだ半年間、代わりの人がいなかったために、他の編集部員が私の分まで本当に頑張ってくれました。代替要員がいない、雇えない中小企業にとって、女性のライフイベントは事業を継続する上の死活問題に直結するということを痛感しました。

環境ビジネスウィメン 河口真理子さん
河口真理子さん

河口 皆さんとは違って自分で事業を立ち上げているわけではないのですが、組織の中で働いています。専門はCSR全般、社会的責任投資ということで、社会的責任フォーラムというNPOの代表理事もやっています。
私の場合、社内の同僚も含めて、育休明けはボーナスや人事考課が低くなりました。長期に休暇を取り仕事をしていない、周囲とのバランスもある、というのが理由のようです。働いていない期間ボーナスをもらえないのは当然ですが、休みを取る前は周りに迷惑かけると皆人の倍がんばったりしているので、子育てで休んだことで、今までの自分の業績を反映する人事考課を下げられるのは納得しがたかったですね。皆さんのように代わりがいないといったリスクは組織にいると小さいといえば小さいのですが、組織にいるだけに自由が利かないということはありますね。
結婚したら、妊娠したら会社を辞めるしかなかった頃は、言ってみれば川があって向こうに行きたいけれども橋がないから諦めていたという状況でした。産休や育休ができて産んで下さいということになり、川に橋ができた訳です。ところが、渡れるんだと思って橋を渡ってみたら荒れ野原だった、というのが現状なのではないでしょうか。

土堤内 私は民間のシンクタンクの研究員で、シングルファーザーとして 20年間子育てをしてきました。だからスーパーの買い物も20年の キャリアがあり、見かけはおじさんですが、中身は半分おばさんです (笑)。そういう意味では、自分のことをよく両生類(両性類)だと思いますね。
子育ては大変ですが、決して苦しいとか辛いと思ったことはありません。「男性に子育ては無理」という世間の意識を逆手に取って、多くの人に助けてもらいながら子育てをしてきたからです。保育園などの公的な支援だけでなく、家族に助けてもらったり、ママ友ネットワークに勇気を持って飛び込んだり(笑)。こうした私的な支援と公的支援をうまく組み合わせながら乗り切りました。

両立支援は「レンタル社長」に「育児教育」

環境ビジネスウィメン 座談会

――これまでは、女性が男性化しながら仕事と子育てを両立させてきた側面があるかと思います。仕事をやりながら子どもも育てられます、というスーパーママですね。元気でコミュニケーション能力も高くて、親が近くに住んでいるなどなど、色々な好条件が揃わないといけません。
これからは、そうではなくても仕事と子育てを両立できるよう、違ったルールで行かなければならないのではないかと思います。こうした観点から、それぞれのお立場で困難に直面して、どんな施策や支援があったら良いと思いましたか。

鈴木 私は陣痛当日まで働き続け、資金繰りが安泰となるようにしっかり仕事を準備したつもりでしたが、それでもかなり危なかった。中小企業経営者の産休育休中には、いくばくかの運転資金を無担保無保証で簡便に融資して欲しいですね。
妊娠します、これから出産します、しばらく仕事に思い切って時間が取れません、だからお金貸して下さい―というロジックはビジネスでは全然通用しないので、誰も貸してくれません。でも、子育てに入る時期はやはり仕事を抑えます。抑えざるを得ませんし、抑えたいとも思いましたし。
子どもを生むと、男性の多いビジネス界では「漠たる不安」を抱かれることが多いです。私が産前・産後いなくてこのプロジェクトは大丈夫だろうか、経営など続けられないだろう、などなど。その結果、プロジェクトの受注件数は減りました。こうした経験から、クライアントに対しての与信維持のために、産休育休中だけ会社経営をお願いできる、それなりの年齢の「レンタル社長」がいてくれたら助かると思いました。ビジネス界で実績も経験もあるベテラン男性たちの人材ネットワーク。「顧問ズ(コモンズ)」みたいな名前で、自分で作りたいぐらいです(笑)。

木村 中小企業では、1年間ゆったり育休を取れる人はむしろ少数派でしょう。復職しても、子どもが小さいうちは子どもに何かと時間をかけなければなりません。給料は下がっても正社員として勤務できる短時間勤務正社員制度を充実させ、彼ら同士でワークシェアリングできるような環境整備も求められるのではないでしょうか。

環境ビジネスウィメン 児玉千洋さん
児玉千洋さん

児玉 私だけではないと思いますが、妊娠の仕組みを含めた自分の体についてあまり知らないまま20代を働いて過ごし、妊娠能力が落ちてくる30代で慌てて不妊治療に走る人が多い。
(注;内閣府ゼロから考える少子化対策プロジェクトチームの会議では、35歳を超えると20代前半と比べて妊娠可能性がほぼ半減することを示すデータも出されている。)
高校でも大学でも企業の新人研修でも良いので、妊娠・出産教育や自治体体の両親学級で行われているような育児教育の機会を設ける必要性を感じます。こうしたことの積み重ねによって初めて、「子どもは社会の宝」ということを皆が実感を持って認識できるのではないかと思います。

鈴木 保育園に入れられなかったのでベビーシッターを頼んでいますが、金銭的な負担が大きすぎる。例えば、シッター代金を税金の控除対象にするといった、育児に伴う金銭的な負担を軽くしてくれる支援策をもっと打てないものでしょうか。 保育園を増やすのはもちろん大切ですが、大掛かりで時間もかかる支援策とは別に、少しの工夫を施した身軽な支援をしてくれるだけで幸せになれる女性は大勢いると思います。
それから、仕事と子育ての両立について不安をあおるようなメディアの風潮も良くないと思います。子育てってこんなに大変で、子育て支援策でこれだけ国を挙げて力を入れなくちゃいけないのに、何もやっていなくてダメな国ですね、といった具合に一斉にメディアが焚きつけるから、だんだん受身側の国民も暗くなってしまうのではないでしょうか。

河口 子育てはお金がかかって大変だし辛い、というネガティブな情報は沢山あります。実際にそういう面はあるのですが、一方で楽しい部分も山ほどある。これはバランスシートの考え方に似ていて、大変な部分は数字で換算できるけれども、楽しい部分は個々人が感じる精神的なものなので目に見えづらい。だから、お金がかかるとか、保育園に入れないといったネガティブな情報だけが目立ってしまって若い人たちが出産しなくなっているという側面は否めません。目に見えない育児の楽しさを、単なる「親ばか」で済ませるのではなく、もっと社会で共有できる仕掛けが必要だと思います。

子どもがくれる新しい出会いと発見

――そうですね。育児は大変とは言っても、やっぱり楽しいもの。皆さんが感じる育児の楽しさってどんなことでしょうか。

河口 自分の仕事だけでは知り合えない世代の人や別の仕事の人たちと、全く違う次元で付き合えることですね。私は子どもを保育園に預けていた頃、自分でイベントなどを企画してお母さん方に手紙を書いて誘ったりしました。日ごろからママ友達のネットワークを作っておき、何かのときに肉親以外に子どもを預けられる関係を築けると、自分の子も人の子もみんなカワイイと思えるようになりました。

児玉 私は子供を産んでから、地域の人に対してオープンな気持ちで接することができるようになりましたね。近所に沢山の知り合いを作りたくて、町会や婦人会にも入るようになったり(笑)。それに、赤ちゃんってお年寄りを引きつける力があって、「かわいいわね」なんて言ってもらえると「この人はどんな暮らしをしているのかしら」と考えて、自然と世代間交流や介護といったことも意識できるようになってきました。

土堤内昭雄さん
土堤内昭雄さん

土堤内 育児って、出来ないことを出来るようにすると思うと負担感が大きいものです。私は「子育て」とは「子育ち」をサポートすることだと思うのです。「子育て」は、子どもに元々ある育つ能力を適切な時期に引き出すためのサポートすることだ、と考えるととても楽に感じますよ。
また、子育てでは仕事の場面で求められる能力も養えます。それは「タイムマネジメント力」「リスクマネジメント力」「発想の柔軟さ」の3つです。
最近、男性の育休がよく話題になります。男性が育休中にいくら妻に「オムツ換えて」と言われてやってみても、それは単にオムツ換えが上手になるだけです。自分で一度でもプライマリー・ケア・テイカー(主たる養育者)として主体的に子育てをしてみると、子育ては実はすごくクリエイティブなことだと分かります。自分の能力を伸ばせる要素がたくさん入っている。そこに自分自身の成長の喜びもあることを実感します。

オルタナ副編集長 木村麻紀さん
木村麻紀さん

木村 まさに「育児」は「育自」ということなのでしょうね。一人の人間が仕事だけ、子育てだけという生き方ではなくて、親として、仕事人として多面的な役割を持ちながら生きていくことが自分を成長させるのかなと感じ始めています。仕事をしながら、育児をしながら、色々な役割を帯びることによって、それぞれにとってプラスになったり、息抜きになったりする。以前に比べればこうしたことがしやすい社会にはなってきたはずなので、育自の醍醐味を体験したい人は一緒に子育てしましょうよ、と言いたいですね。

土堤内 女性は家事育児で男性は仕事、というような性別役割分業の時代では ありません。また、子どもも一人の生活者であるべきです。子どもは勉強だけしていればいいとか、女性は家事育児だけ、男性は仕事だけでは 幸せってないような気がします。ワーク・ライフ・バランスとは、生活者として暮らし全体のバランスが取れることであり、それが一人ひとり が幸せに生きることにつながるということではないかと。ですから、人生は「好い加減」が大事で、私はそれをグッド・ライフ・バランスと言っています。
子育てには、母性も父性も両方必要だと思います。私はシングルだったので一人で両方のバランスを取るのが難しかった。しかし、パートナー がいても、父親だけが父性で母親だけが母性である必要は全くありません。カエルは両生類ですが、なぜ両生類と言うかご存知ですか。カエルは陸と水の両方の環境が揃って初めて生きることが可能な生物だからです。父親であろうが母親であろうが、人間も父性も母性も両方を兼ね備 えた両性類であることが必要だと思うのです。

モデレーター 船木成記さん
モデレーター 船木成記さん

「子育ち」のための新たなコミュニティーを

――僕は、同じマンションや保育園や幼稚園の子育て家族6世帯ぐらいと、3ヶ月から半年に1回ほどみんなで旅行に行くんですね。一番上は小6から下は2歳くらいで、毎回子供だけで10人を超えます。もう、上の子達が下の子の面倒を見てくれるので、とても楽になりました。無理して自分の血縁を遠くから呼び寄せなくても、地域でそのようなつながりができていることに、本当に感謝しています。

河口 私の子どもが行っている学童保育は、老人向けの施設と一体化していて、お祭りなどを一緒にやります。児童館とお年寄りの施設が隣同士になっているんですね。
子どもがいれば入れる地域のネットワークには、子どもがいないと入れません。例えば、子育て世帯の多いマンションでは、子どものいない人たちにも「うちのマンションはこんなに良い雰囲気なのよ」って思ってもらえればいいけれども、子どもがいる人たちだけが我が物顔で走り回っていたりしてね。そうならないよう、うちは子どもがいっぱいいて良いマンションなんだって大半の人たちが思ってくれるような雰囲気を、子どものいる人たちといない人たちがお互いに歩み寄って作れれば良いと思います。
昔はもっと子どもがいたので、誰でもネットワークに入れるきっかけとなるマグネット(子ども)を持っていました。でも、今はマグネットを持った人が少ないので、そこをどうにかして上手くコミュニティーを作らないといけませんね。

土堤内 私が今の住まいに引っ越したのは、とてもユニークな教育を実践している小学校があったからです。そこではチャイムが鳴らず、授業は基本的には50分ですが、先生が効果的だと思えば60分に延長するなど、先生の裁量に任されていました。校長先生は最初の保護者会で「この学校にはあらかじめ決まったルールはありません。皆さんが決めてくれればいいことです」と話されていました。
地域住民との関係も工夫していて、当時は1学期に1回、地域の人たちが教える日というのがありました。地域住民は自分の得意技を学校に登録し、学校から頼まれると授業をする。そうすると、就学する子どもがいない人も学校に関われるようになります。おじいさん、おばあさんが昔の遊びを教えるとかね。この学校のような新しいコミュニティーづくりによって、地域社会全体が子どもを育てていくことが今、求められているのではないでしょうか。

――女性起業家を助けるビジネス界の先達たちのネットワーク「顧問ズ」に、地域住民による地縁・血縁を超えた新しいコミュニティーが持つ「コモンズ」。2つのコモンズが、日本社会をサステナブルにするための1つの答えとなる可能性があると感じました。今日はありがとうございました。

この座談会企画へのご意見・ご感想は にお寄せ下さい。誌面に掲載したり、今後の企画の参考にさせていただきます。

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