記事のポイント
- 米国では保守強硬派を中心に、ESG投資に対する反発が目立ってきた
- 米ブラックロックなど資産運用会社は「ESGファンド」を相次いで閉鎖した
- 今後、「反ESG」は広がるのか、その論点を識者に聞いた
2024年に大統領選を控える米国で、ESG(環境・社会・ガバナンス)を投資手法に組み入れる動きへの反発が強まってきた。米ブラックロックなどの資産運用会社は複数の「ESGファンド」を相次いで閉鎖し、格付け大手はESGによる定量評価を取りやめた。「反ESG」をどう受け止めるべきか、識者に聞いた。(オルタナ編集部)
ブラックロックのラリー・フィンクCEOは2023年6月、米西部コロラド州で開かれたイベントに登壇し、「ESGという言葉はもう使わない」と表明した。
フィンクCEOは毎年、投資先の企業のCEOや株主などに手紙(フィンクレター)を送付し、気候危機やジェンダーギャップへの対応について訴えてきた。ESG投資の象徴的な担い手だったが、ESGそのものに対する政治的な反発が目立ってきた。
同社は9月15日、2本のESGファンドを閉鎖する意向を示した。両ファンドの資産は約5500万ドル(約81億円)に及ぶ。ESGファンドを閉じたのは、同社だけではない。
米調査会社モーニングスターによれば、2023年に閉じた米国のESGファンドの数は、過去3年の合計本数よりも多いことが分かった。
格付け大手S&Pグローバル・レーティングも8月、発行体に対するESGに関する定量評価の公表を取りやめることを発表した。
■デサンティス知事やラマスワミ氏、大統領選に向け「反ESG」
「反ESG」の動きは、テキサス州やフロリダ州など共和党が優勢な州を中心に広がった。これらの州では、原油生産や石油化学産業が盛んだ。脱炭素を含む「ESGの概念が広がると、化石燃料が否定される」との危機感がある。
「S」(社会)の要素には、人権やダイバーシティもある。フロリダ州は、2022年1月、小学校で8歳以下の児童にLGBTQなど性的少数者について教えることを禁じる州法(いわゆる「ゲイと言うな」州法)を成立させた。
フロリダ州のロン・デサンティス知事(共和党)は2023年5月、「反ESG法」を成立させた。同知事は「ESGは金融詐欺だ」とまで言い切った。
反ESG法は、フロリダ州や州内の自治体による投資の選定時に、財務的要因だけを基準にし、ESG要素を考慮することを禁止した。ESG格付けを発行する格付け機関との契約を禁止したほか、州や地方政府による債券発行時のESG要素の利用を禁止した。
米大統領選で共和党の候補指名レースで3位(9月末時点)に付けるビベック・ラマスワミ氏も「反ESG」を掲げる。同氏は右派の投資家で、バイオ技術分野の起業家として推計5億ドル以上の純資産を保有する。
■約7割のアセットオーナーが投資方針にESGを組み込むことを重視
反ESGの動きは盛り上がるが、一方でESGをあえて掲げなくても、投資判断に考慮する投資家は増えてきた。米モーニングスターは10月5日、合計資産総額10兆7000億ドル超のアセットオーナー500人を対象に調査したレポートを公表した。
同レポートでは、「アセットオーナーの3分の2以上(67%)が、ESGを考慮した投資方針の重要性が増した」と回答した。
モーニングスター・インデックスのトーマス・クー・ESG戦略責任者は、「今回の調査は、機関投資家がESG要素をグローバル投資に組み込むことに依然として強いコミットメントを持っていることを裏付けた」と話した。
PRI(国連責任投資原則)の署名数を見ても、ESG投資が世界の機関投資家の主流の投資手法になったことが分かる。2023年10月1日時点での署名機関数は5337、日本の署名機関数は125機関に及ぶ。世界の機関投資家の半数が署名した。
PRI署名機関の運用資産総額は2021年3月末で121.3兆ドル(3826署名機関の全運用資産総額、ESGを適用していない運用資産も含む)、現在も拡大し続ける。
2024年に控える米大統領選に向けて、「反ESG」の流れは加速するのか。ESG投資に詳しい日米の識者3人に聞いた。
■反ESGを読み解く①ESGを考慮しない運用機関は「ほぼない」
(本田桂子・コロンビア大学国際公共政策大学院客員教授)
https://www.alterna.co.jp/101655/
■反ESGを読み解く②「化石燃料産業の最後のあがき」
(マーク・クレイマー・Foundation Strategy Group共同創業者)
https://www.alterna.co.jp/101409/
■反ESGを読み解く③「脱炭素は金融だけでなく税制整備も」
(木内登英・野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト)
https://www.alterna.co.jp/101646/