記事のポイント
- ギリシャのティロス島が、世界初の「廃棄物ゼロの島」となった
- サーキュラー・エコノミーを推進する企業とともに島民全体で偉業を達成した
- 廃棄物の量やリサイクル率など、可視化と教育が島民の意識を高めた
世界初の「廃棄物ゼロの島」がギリシャに誕生した。偉業を成し遂げたのは、エーゲ海南部に位置する人口745人のティロス島だ。サーキュラー・エコノミーを推進するポリグリーン社とともに、廃棄やリサイクルに回った量を世帯ごとに可視化し、分別の仕方をフィードバックするなど「教育」にも注力。こうした取り組みにより島民の意識が向上し、プロジェクトの成功につながった。(オルタナ編集部・北村佳代子)
ティロス島は、ギリシャの国立公園に指定された人口745人の小さな島だ。この島には、アフリカとヨーロッパを行き来する多くの渡り鳥も中継地として訪れる。
ティロス島は、風力と太陽光でエネルギー源の完全な自給自足にも成功した。そして2021年12月、ポリグリーン社とともに廃棄物ゼロを目指す「ジャスト・ゴー・ゼロ・ティロス」プロジェクトが立ち上げた。
2022年、ティロス島は埋立地を完全に閉鎖し、世界初のゼロウェイストの島となった。埋立地の跡地にはアップサイクルセンターが建つ。
■プロジェクト発足のきっかけの一つは「日本にも関係する」
「ゼロウェイスト(廃棄物ゼロ)への旅を決意したきっかけは、一本の電話だった」とティロス島のマリア・カンマ=アリフェリ市長は、オルタナの取材に答えた。
「私たちはこれまでも、サステナブルな未来に強い関心を抱いていたが、ポリグリーン社の創業者アタナシオス・ポリクロノプロス会長と話し、環境保護のためには至急行動を起こす必要があるとの思いを強くした」と振り返る。
ポリグリーン社のポリクロノプロス会長は、プロジェクト立ち上げのきっかけについて、「一つは日本にも関係する」という。
ひとつは、パンデミックのさなかに、モノを購入・消費し廃棄するというモデルが改めて人間的ではないと思ったこと。
そしてもう一つが2020年7月にインド洋の島国モーリシャス沖で日本の貨物船「わかしお」座礁で起きた重油流出事故だという。ポリグリーン・グループ傘下の企業は、事故後のモーリシャスの海岸線の復旧作業の多くに携わった。
「モーリシャスでは海運会社と保険会社の代表として日本のチームが来ていた。事故が起きた前よりもきれいな状態に戻したいと全力を尽くす日本人の強いメンタリティーはとても衝撃的だった」
「こうした日本のチームのおかげで、廃棄物ゼロの環境づくりは実現不可能でないとの思いを強くした。モーリシャスの地元の住民とも直接交流し、母国ギリシャで廃棄物ゼロの環境づくりを推進しなければと強く思った」と会長はオルタナに語った。
■徹底した「見える化」と「フィードバック」が島民の意識向上に
ティロス島ではまずポリグリーン社が、企業や各家庭に、廃棄物を分別する袋や箱を支給し、ゼロウェイスト達成のための分別方法を教育した。
紙、プラスチック、金属、アルミ、ガラスなどは「リサイクル可能なもの」、食品や果物・野菜の皮、骨などは「有機物」、そして汚れた紙やマスク、カミソリなどは「リサイクルできないもの」に分別し、定期的に回収する。
またスマートフォンのアプリを使って、各家庭の廃棄物の量や、リサイクルに回った量もリアルタイムで表示した。さらに各家庭の分別も正しくできているかを丹念にフィードバックした。
回収された廃棄物はすべて地域のサーキュラー・イノベーション・センターに運ばれ、そこの処理設備で、25種類にさらに分類される。有機物からできた堆肥は島民に無料で還元する。使用済みトイレットペーパーや紙おむつなどの「リサイクルできないもの」は、乾燥・破砕処理後、セメント産業用の代替燃料に利用する。
■ゼロウェイスト達成は、地域経済も後押しした
カンマ=アリフェリ市長は、このプロジェクトが環境と地域社会の双方に大きなメリットをもたらしていると満足げに話す。
プロジェクトを始める前、島は廃棄物の約87%を埋め立て処分していた。ポリグリーン社のポリクロノプロス会長によると、「今では廃棄物そのものの発生量が3割以上減り、リサイクル率も88.6%と驚異的」だ。
「プラスチックやその他の非生分解性廃棄物が減り、島の景観が美しくなった。海洋生物などのデリケートな生態系も保護されている。またゼロウェイストの島として、環境意識の高い観光客も増えた。エコツーリズムや持続可能な農業領域での新たな雇用も生まれ、地域ビジネスを後押ししている」(カンマ=アリフェリ市長)。
■行政の視点から見た「ゼロウェイスト」達成の秘訣
■ポリグリーン社は「ゼロウェイスト」をアブダビにも広げる
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