「EVはエコじゃない」論の背景にある7つの間違い

記事のポイント


  1. 「EVはエコじゃない」という言説がインターネットを中心によく見かける
  2. オルタナ論説委員の財部明郎氏はこの言説には「間違った7つの知識がある」と指摘する
  3. EV化を「実現しない」と信じていると「時代に取り残されることになる」

「EVはエコじゃない」――インターネットを中心にこんな言説をよく見かける。しかしそれらの言説は、事実ではないことや、すでに時代遅れとなった「常識」を根拠にしたものが多い。オルタナ客員論説委員で技術士の財部明郎(たからべ・あきら)氏はEVにまつわる7つの間違いを指摘するとともに、いつまでも「EVは実現しない」と信じていると、「それは時代に取り残されることになる」と警鐘を鳴らす。

「EVは実現しない」論には7つの間違いがある

欧州連合(EU)は昨年(2022年)10月、2035年までにCO2を排出する新車の販売を禁止すると発表した。これを受けて、日本のマスコミやネット記事あるいはユーチューブなどで様々な形でEV化が取り上げられている。

中には、全部EVにするのは不可能だとか、そもそもEVはエコじゃないとか、EUは狂っているのではないのとか、トヨタつぶしのための陰謀だとか、様々な意見が飛び交っている。

しかし、その多くはちゃんとEVという物を理解していなかったり、事実を間違って理解しているものや、既に時代遅れになった「常識」を振り回していたりするものも多い。この記事では、そういったネット知識の間違いのいくつかを指摘してみたい。

■「EUは2030年にガソリンエンジン車を使用禁止にする」

冒頭述べたように、EUは昨年(2022年)10月にCO2を排出する新車の販売を禁止すると発表している。これを受けてEUは2030年にガソリン車を使用禁止にするという話がネット上に飛び交っているが、これは間違いである。

まず、昨年EUが発表した内容をきちんと確認してみよう。この発表の内容は要約すると以下のとおりだ。

・2035年までにCO2を排出する乗用車および小型商用車の新車販売を禁止する
・2030年までに2021年比で乗用車で55% 、小型商用車で50%のCO2排出量を削減する

まず、誤解されているのは、ガソリン車やエンジン車を全面禁止するとは、EUは一言も言っていないことである。対象は「CO2を排出する車」である。これは驚いたことに大手新聞の記事でも「ガソリン車禁止」のように間違って報道されている。

「CO2を排出する車」が対象なのだから、新車の販売が禁止されるのはガソリン車だけでなく、ディーゼル車も禁止になる。一方、EVだけでなくFCV(燃料電池車)や水素エンジン車もCO2を出さないから販売禁止にはならない。

また、新車の販売を禁止するということであり、ガソリン車に乗ってはいけないという話ではない。例えば中古車販売はかまわない。しかも、販売が制限されるのは乗用車および小型商用車で、大型のトラックやバスは含まない。

販売禁止の期限は2035年であり、2030年ではない。2030年はCO2削減目標である。つまり、7年後ではなく12年後。ちなみに、東京都は2030年に電動車(HV車を含む)以外は新車販売を禁止する目標を発表しているので、これと混同されているのかもしれない。

■「EVの電気は火力発電所で作られるのでエコじゃない」

EVは電気で走るから確かに走行時はCO2を出さない。しかし、その電気を作るのに火力発電所で石炭や天然ガスを燃やしているから、このときCO2が発生する。だからEVを導入してもCO2削減にならないと主張するネット記事もある。

これはもう20年くらい前から言われていることなのだが、確かに昔はそうだった。しかし、いまだにそんなことを言う人はさすがに時代遅れということだ。

火力発電所でCO2が発生するのなら、火力発電を使わずに太陽光や風力や水力などで作った電気を使えばいいのだ。つまり再エネである。

いやいや、再エネなど火力発電に比べればゴミみたいなもの。そんなものに頼っていられないという人もいるが、これも時代遅れ。時代は変わっている。発電量に占める再エネの割合はどんどん上がっているのだ。

現在、日本では全発電量に占める再エネの割合は20%くらい。欧州では30%に達し、2030年には69%まで引き上げるのが目標だ。ガソリン車やディーゼル車の新車販売が禁止される2035年には、その比率はもっと上がっているだろう。

下の図は米国のローレンスバークリー研究所などが試算した日本の電源構成予想だが、2035年に火力発電が占める割合はわずか10%にまで下がる。残りは原子力20%。そのほかは全て再エネ。いずれも発電時にCO2を排出しない電源だ。

K.Shiraishi et al. ”2035 Japan Report” lbnl report(2023)

もちろん、これは予測だから必ずそうなるとは言えないものの、「EVで使う電力は火力発電で作っているのだろう。それなら、火力発電で使う燃料でそのまま自動車を走らせた方がエコじゃないか」という主張はもう通じないということだ。

それより、電力の再エネ比率がどんどん上がっているのに、自動車が相変わらずガソリンや軽油で走っていたら、いつまでたってもカーボンニュートラルは達成できないということになる。

■「EUがe-fuel使用を認めたのは、EV化が間違いだと気づいたから」

2035年以降、CO2を排出する自動車の新車販売を禁止するとEUが発表したあと、ポルシェなど主にドイツのカーメーカーがe-fuelを専用に使用する車ならガソリン車の新車販売を認めろと訴え、EUもこれを認める決定をした。

これを受けて、やはりEUもEVでは無理だとようやく気付いたかとか、EUはEV化をあきらめて方向転換したという主張がみられる。

e-fuelとは、空気中のCO2と、水を電気分解して作った水素を原料として作られたガソリンのことだ。

これを使えば、自動車の走行時にはCO2が発生するが、そもそもe-fuelは空気中のCO2を原料として作られたガソリンなので、燃やしても空気中のCO2濃度を増やさない。だからCO2を排出しないのと同じことだというのが、ポルシェ側の主張であり、EU側もそういえばそうだよねと認めた形となった。

しかし、そもそもEUは2035年以降に販売される車はすべてEVにしなさいと言っているわけではなく、CO2を排出しない車にしなさいと言っているのだ。

だからe-fuelもCO2を排出しないといわれれば、そのとおりだと認めざるを得ない。決して、EV化が無理だと悟ったわけでも、方向転換したわけでもない。

ちなみに、EUは水素自動車やFCV(燃料電池車)もCO2を出さない車として2035年以降も販売を認めている。例えば、もし将来量子エンジン自動車のようなCO2を出さない車が登場すれば、これも2035年以降も販売が認められることになるだろう。

とはいえ、今のところCO2を出さない自動車といえば、EV以外は現実的ではないというのがEUの考えである。e-fuelの価格が劇的に低下しない限り、2035年以降の主流はやはりEVになるだろう。EUがEVをあきらめたとか、方向転換したという話ではない。

この続きは⇒ EV(電気自動車)はエコじゃない? ネット知識は間違いだらけ

takarabeakira

財部 明郎(オルタナ客員論説委員/技術士)

オルタナ客員論説委員。ブロガー(「世界は化学であふれている」公開中)。1953年福岡県生れ。78年九州大学大学院工学研究科応用化学専攻修了。同年三菱石油(現ENEOS)入社。以降、本社、製油所、研究所、グループ内技術調査会社等を経て2019年退職。技術士(化学部門)、中小企業診断士。ブログでは、エネルギー、自動車、プラスチック、食品などを対象に、化学や技術の目から見たコラムを執筆中、石油産業誌に『明日のエコより今日のエコ』連載中

執筆記事一覧
キーワード: #EV
  1. Makoto-Honjo
    Makoto Honjo
    2023/10/31 4:47

    「米国のLawrence Berkeley National Laboratoryなどが試算した日本の電源構成予想だが、2035年に火力発電が占める割合はわずか10%にまで下がる。残りは原子力20%。そのほかは全て再エネ。いずれも発電時にCO2を排出しない電源だ。」とサラッと書いておられますが、その原子力発電はCO2を発生させないものの、放射性廃棄物という地層が複雑な地震国の日本で最終処分が困難な物質を発生させるのではないでしょうか?注目の核融合炉にしても数百年放射能を発生させ続く放射性廃棄物発生するようです。

    個人的には日本は原発ではなく、火山国日本では潤沢に存在する地熱の利用と、黒潮・親潮等の海流に囲まれる日本列島ならではの潮流発電技術の開発とを積極的に進めるべきであろうと考えています。

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