長野県の旅籠や茶屋の脇にある「ひとみ戸」で覆われた側溝は、水を求める旅人の憩いの場だったという。古い日本のパブリックスペースだ。

その土地ごとの「用」で最適化された建築デザイン。それは多様性であり、二川の写真では変化に富んだ風景となってあらわれる。これをよく汲み取り、活かすのが、建築家、藤本壮介による会場構成だ。写真はあえて吊り下げられ、キャプションは床に置かれる。余分な展示壁面がないぶん、写真それぞれの自己主張が起伏となり、会場は多彩な列島といった観を呈する。

二川は写真撮影を書籍編集の一環と考え、写真家として評価されるのを潔しとしなかった。今年初めて展覧会を開くにあたり、撮影された「1955年」の明記を条件とした。この年は、自由民主党が発足したいわゆる55年体制の誕生、そして家庭電化時代の幕開けだった。いまに至る時代のはじまりに、失われゆく風景を対置した作家の意図をかみしめたい。(文・写真=美術・文化社会批評 アライ=ヒロユキ)

◆二川幸夫・建築写真の原点「日本の民家一九五五年」
2013年1月12日(土)~ 3月24日(日)
休館日:水曜日(祝・祭日は開館)
パナソニック 汐留ミュージアム
10:00~18:00(3月20日は17:30分まで) ※政府からの節電要請などにより変更する場合あり
〒105-8301 東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
ハローダイヤル 03-5777-8600
http://panasonic.co.jp/es/museum/exhibition/13/130112/index.html

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