PMアワードに「祭りで地域コミュニティ再生」プロジェクト

記事のポイント


  1. PMI日本支部が「PM アワード2023」を発表した
  2. その中から「祭り」で地域コミュニティ再生を図るプロジェクトを紹介する
  3. 地域の人々が主役で、地方創生のモデルになり得る点などが評価された

PMI(プロジェクトマネジメント協会)日本支部はこのほど、「PM Award(アワード)2023」を発表した。同賞は、社会課題の解決やイノベーションの創出を目指す企業や団体を表彰するもので、今年で3回目を迎えた。受賞プロジェクトの一つ「文京思い出横丁in傳通院」は、有志による祭りの開催を通して地域コミュニティの再生を図る。地域の人々が主役になる点、地方創生のモデルになり得る点などが評価された。(オルタナ副編集長・長濱慎 人物撮影=高橋慎一)

プロジェクトを率いた北永久代表(右)と、ソヒュン・カン PMI アジア太平洋地域リージョナルマネージングディレクター

■町会・自治会に代わる地域コミュニティをつくる

「文京思い出横丁in傳通院」の開催場所である傳通院(でんづういん)は、東京・文京区にある浄土宗の寺だ。2022年開催の1回目は約1万人が集まり、今年8月27日に開いた2回目は5000人が来場した。

地域住民や学生らのボランティア有志が祭りの企画から手配や準備、当日の運営までを行う。そこで協働した経験や人と人とのつながりを活かし、新たな地域コミュニティの創出を目指す。

文京区の総合戦略は、防災・防犯・福祉といった地域課題の解決には地域コミュニティの存在が必要不可欠としている。しかし、区の人口が増えているにもかかわらず、町会・自治会の加入率は低下傾向にある。

「そこで、新しい地域コミュニティが必要なわけですが、その担い手をどう集めるか。『この指止まれ』で誰もが楽しく参加でき、活動を通してチームが形成され、そのチームが地域コミュニティになる流れをどうつくれば良いか。考えた結果が『お祭り』でした」

実行委員会の北永久(きた・ながひさ)代表は、こう話す。北さんは文京区に住んで14年。弁護士の傍ら、NPO法人「文京BASE」の代表を務める。同法人ではコロナ禍を機に、生活困窮者やひとり親家庭に食料を配布するフードパントリーに取り組んでいる。

そこで食料を受け取りに来た学生が翌週から配布する側のボランティアに加わる様子を目にして、祭りの運営メンバーを集めることは十分可能だという手応えをつかんだ。結果的に1回目が約80人、2回目は約150人が実行委員会に参加した。

600年以上の歴史を持つ由緒ある寺で、ボランティアが一から企画した祭りを行う

「全員が主催者」という意識付けが成功のカギ

実行委員会のメンバーは大学生のボランティアサークル、地域防災や地域猫の保護活動を行うグループなど、10代から70代までさまざまな顔ぶれが集まった。探究学習に取り組む中学教師が生徒を連れてやって来るなど、区外からの参加もあった。

「文京区を良くする」という目標が一致した傳通院は共催者になり、今年は文京区長が開会挨拶を行った。さらに、区民らが2018年から行ってきた地域交流イベント「文京まちたいわフェス」を祭りの中で開催するなど、区内のステークホルダーとの連携も進んだ。

「思い出横丁」という名称は、コロナ禍による休校で思い出を作れなかった中学生が考案

プロジェクトマネジメントで大切な要素の一つが「スコープ」(プロジェクトの成果と、それを達成するためのタスク)の設定だ。北さんは実行委員会を開く度に「祭りはあくまでも手段であり、ゴールは地域課題解決のコミュニティをつくることだ」と、繰り返し伝えた。

「元々が何かしたいという意欲のあるメンバーなので、あとは『全員が主催者』のつもりでやってくれと、任せました。祭りを開催する中では、当然予想外のトラブルも発生します。それを互いが持つ知識や人脈などの資源を出し合って乗り越え、これまでなかった人と人のつながりが生まれることが重要なのです」

実行委員会のメンバーは現在もLINEで交流を続けており、すでに地域防災や地域活性化に向けたイベントなど複数の企画が立ち上がっているという。

「来年は協賛などを通して、企業も参加できる仕組みをつくりたい。文京区ともより密接な関係を築き、ともに地域課題を解決するパートナーのような存在になれれば」と、北さんは今後に意欲を見せる。

飲食のブースや祭りの中で行う各種の催しも、全てボランティアが企画運営

不確かな時代は「パワースキル」が重要に

「文京思い出横丁in傳通院」は、「PM アワード2023」の優秀プロジェクト賞とSDGsイノベーション賞を受賞した。表彰を行った岡山大学は「アート思考で地域の人を巻き込み、水平展開ができる仕組みになっていて、地域創生のモデルになり得る」と評価した。

PMI APACを代表して来日し たソヒュン・カン PMI アジア太平洋地域リージョナルマネージングディレクターは、「主体を担ったボランティアの自発性と熱意に感銘を受けた」と話し、こう続けた。

「PMIが世界各国のプロジェクトマネージャーに行った調査で、近年もっとも重要なのは『パワースキル』であることが明らかになりました。これは不確実性に対応するためのスキルで、コミュニケーション、問題解決、協働的なリーダーシップ、戦略的な思考などが含まれます。このプロジェクトは、まさにそれらを駆使した好事例といえます」

他の受賞プロジェクトを含む「PMアワード2023」の詳細は、PMI日本支部の特設ページで見ることができる。

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PMI (Project Management Institute)のグローバルの活動についてはこちらから

S.Nagahama

長濱 慎(オルタナ副編集長)

都市ガス業界のPR誌で約10年、メイン記者として活動。2022年オルタナ編集部に。環境、エネルギー、人権、SDGsなど、取材ジャンルを広げてサステナブルな社会の実現に向けた情報発信を行う。プライベートでは日本の刑事司法に関心を持ち、冤罪事件の支援活動に取り組む。

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キーワード: #SDGs

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