音楽療法で、障がい者や子どもの「心の表現」をサポート

記事のポイント


  1. 「心のおしゃべり音楽工房」は、音楽療法で障がい者や子どもをサポート
  2. 音楽療法は医療、福祉、子育ての広い分野と関わりがある
  3. コミュニケーション不全を持つ人々に対して、支援の機会を提供する

認定NPO法人「心のおしゃべり音楽工房」(東京・世田谷)は、言葉によるコミュニケーションが困難な障がい者、高齢者、子どもらに寄り添い、音楽を用いて心身の障がい回復や生活の質向上をサポートする。中井深雪代表は「音楽療法は医療、福祉、子育ての広い分野と連携し、コミュニケーション不全を持つ全ての人と気持ちを通わせ、より良い支援につなげる役割がある」と話す。(聞き手・村上佳央=日本非営利組織評価センター、萩原哲郎=オルタナ編集部)

音楽を通して、障がいや生きづらさを抱える人々をサポート

音楽で思いを伝える仲介者

――なぜ、音楽療法を始めたのでしょうか。

音楽大学を卒業後、幼稚園教諭や保育士の資格を取得し、幼児教材の制作やイベント、ミュージカル、テレビやラジオ、広告の仕事に携わっていました。そして自分が出産を経験した1995年、音楽療法という分野があることを知りました。

ちょうどこの年、日本音楽療法学会の前身となる、全日本音楽療法連盟が発足しました。あらゆるジャンルの音楽を自在に扱うスキルが求められる仕事ということに惹かれ、99年に連盟が発行する認定音楽療法士の資格を取得し、地元の東京・世田谷で活動を始めました。

2011年3月の東日本大震災の後には「天と大地の子守唄」という被災地支援ソングを作り、もっと直接的に人々の心に寄り添いたいという思いが強くなりました。その頃、ヨーロッパで「コミュニティ音楽療法」という概念が生まれました。これは療法を行う場を病院や施設の中だけでなく、地域レベルに広げる取り組みです。

自分もそんな活動をしてみたいと、2015年に12月にNPO法人「心のおしゃべり音楽工房」を立ち上げ(21年11月に東京都の認定NPO法人化)、現在に至ります。

言葉以外の領域で思いを表現。中央が中井深雪代表

――基本的なことですが「音楽療法」とは、何でしょうか。

言語困難により支援の谷間に陥りやすい人々に、音楽を用いて情動に働きかけ、治療の専門家との連携において支援をし、音楽を通して気持ちを通わせ、より良い支援につなげていくための療法です。

認知症で言いたいことが上手く言えないお年寄り、発達障がいで言語機能に不全がある人、緘黙(かんもく)といって特定の場面になると話せなくなる人など、世の中には言葉によるコミュニケーションに困難を抱える人がたくさんいます。

こうしたさまざまなタイプの障がいを持つ対象者一人ひとりに音楽を用いてアプローチし、障がいからの回復や生活の質の向上をサポートします。

音楽療法は、単に音楽を聴いて癒されるというレベルの話ではありません。対象者には、家族であったり介護者であったり医師であったり、それぞれ自分の思いを伝えたい相手がいます。それがどんな思いで、どう表現すれば伝わるのか。その仲介を支援するのも音楽療法士の役割です。

そのためには医師や精神科医とも話さなければなりませんし、作業療法士や理学療法士との連携も必要です。医学、心理学、リハビリなど専門性の高い知識も幅広く要求されます。

――どのようにして音楽療法を行うのでしょうか。

2人1組で療法を行うことが多いです。一人が歌を歌ってピアノを弾いている間に、もう一人が対象者に「一緒にやってみましょう」とタンバリンなどの楽器を渡したり、「次はここを歌います」と歌詞を書いた幕を指し示したり、2人が息を合わせながら行います。

大切な技術が「即興」です。これはよく、音楽を自由気ままにつくりあげることと言われますが、音楽療法の場合は「音楽を料理する」といった方がしっくり来ます。オリジナルの曲とテンポを変えたり、違うメロディを加えて膨らませたりしてアレンジを加えることも多々あります。

同じ曲でも対象者によってアレンジの好みが違いますし、その場で「この曲をやりたい」とリクエストされることも少なくないので、幅広い楽曲知識とその演奏力、アドリブ力も必要です。たとえば、易しいところでは、童謡で「夕焼け小焼け」の1番から「七つの子」にメドレーで繋げるといったことも、よく行います。

即興にはスタッフどうしのチームワークが大切

誰も否定せずDEIとの親和性も

――事業の柱として、3つの取り組みに力を入れているそうですね。

1つめが、障がい者の音楽芸術活動を支援する「ミュージカルスタジオ・ナイトケア」。2つめが、乳幼児のコミュニケーション支援を行う「子育て音楽サークルAiAi」。3つめが、生きにくさや不安を抱える人の音楽活動をサポートする「マイ・ソング・クラブ/Sing & movement」です。

障がいを持つ人は就労支援で働いているケースもありますが、それが必ずしも本当にやりたい仕事ではありません。そこで、音楽に触れることで生きていることを実感できて、自己肯定感を持てるような時間を提供したいという思いから、支援に力を入れています。

乳幼児は、言葉を発さなくても実はたくさんのことを理解できます。頭の柔らかい3歳までに、音楽の持つさまざまな要素による多元的な意味の理解、自在な情操を身につけ、正しく深く自分を肯定するポジティブな感覚・思考体験をしてもらうことが、極めて大切です。

一人、膝歩きをやめられないお子さんがいて、そのままでは身体に障がいが出る恐れがありました。そこで「そんな歩き方はダメ」と否定するのでなく「お散歩の歌」を歌って負担がかからないよう歩き方を支えたところ、1ヵ月で症状が改善しました。音楽療法は子育て支援でもあるのです。

生きにくさや不安を抱える人には、競争が苦手で社会に馴染めない方も少なくありません。こうした皆さんにとって、音楽は単なる余暇ではなく健康でいるために欠かせない活動です。そこで、練習の場所取りや発表会の運営など、本人たちには難しい部分のサポートを行います。

障がいを持つ人々が楽器を手に演奏

――2023年9月には、グッドガバナンス認証を取得されました。

これを機に、他の取り組みや企業とのコラボレーションにも取り組んでいきたいと考えています。「思いを届ける」という性質上、なかなか形が見えにくい活動ですが、一人でも多くの皆さんに音楽療法を広げていきたいですね。

音楽療法というのは、ダイバーシティを大切にする活動です。対象者一人ひとりの違いを尊重して、それぞれに合った音楽を提供し、誰かを否定したり邪魔したりすることもありません。DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)そのものといえると思います。

〈PR〉公益財団法人日本非営利組織評価センター(JCNE)

「グッドガバナンス認証」とは

公益財団法人日本非営利組織評価センター(JCNE)が、第三者機関の立場からNPOなど非営利組織の信頼性を形に表した組織を評価し、認証している。「自立」と「自律」の力を備え「グッドなガバナンス」を維持しているNPO を認証し、信頼性を担保することで、NPO が幅広い支援を継続的に獲得できるよう手助けをする仕組みだ。詳しくはこちらへ

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公益財団法人 日本非営利組織評価センター

日本非営利組織評価センターは、NPOの組織評価を行う日本で初めての第三者審査機関です。  グッドガバナンス認証マークはNPOの「信頼の証」。財務が健全である、労務管理は法律に準拠している、不正を防止する仕組みがあるなどの視点に基づく審査を行っています。SDGs達成に向けた協働先、社員のボランティア参加先にもおすすめです。

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