日本の野生トキの復活に多大な貢献をした「洋洋」

私たちに身近な生物多様性(39)

記事のポイント


  1. 国内初の人工繁殖に成功したトキ「洋洋」は、日本でのトキの絶滅を救った
  2. 日本のトキの生息数は野生下・繫殖センターを合わせて700羽程度に回復した
  3. 遺伝的多様性がなく、種の安定的存続に懸念が残る

国内初の人工繁殖に成功したトキの雌「洋洋」は、日本におけるトキの絶滅を救った。日本のトキの生息数は野生下・繫殖センターを合わせて700羽程度に回復した。遺伝的多様性がなく、種の安定的存続に懸念が残る。(生き物コラムニスト・坂本 優)

日本に生息するトキは、野生下・繫殖センターを合わせて700羽程度にまで回復した

11月23日、国内初の人工繁殖に成功したトキの雌「洋洋(ヤンヤン)」が老衰により死亡した。人間でいえば90歳に相当する27歳だった。

洋洋は1999年、雄の「友友」とともに中国から寄贈された。国内では高齢の雌「キン」が1羽残るだけだった。

同年5月に人口孵化により「優優」を誕生させ、友友との間で29羽のトキを誕生させた。

日本の野生のトキは500羽以上

日本の野生のトキは、2003年に佐渡のトキ保護センターで死亡した「キン」を最後に失われていたが、1999年から順次中国から譲り受けたトキの子孫たちが2008年以降佐渡で放鳥され、定着・繁殖してきた。

環境省の推定によると、2022年12月末現在で、野生下の生存個体数は545羽になったという。繁殖センターなどで飼育放鳥されたトキが163羽、野生で生まれたトキが382羽だ。

野生で生まれた同士のペアや、そのペアからの巣立ちも、最近は年に数十例単位で確認され、トキの野生復活は数的には順調に推移してきた。現在、日本のトキの生息数は繁殖センターなどで飼育されているトキを合わせ、全部で700羽程度に上る。

生息地は主に佐渡で、佐渡から本州に飛来する例も散発的にあるものの、佐渡以外で雌雄がつがいとなり繁殖した事例は報告されていない。

環境省は、災害や鳥インフルエンザなどの感染症による激減や絶滅の危機を回避するため、佐渡以外での放鳥候補地を公募し、2022年8月、石川県の能登地域と島根県の出雲市を選んだ。

いずれも過去にトキの生息実績があり、地域で連携して生息環境を整備できる合意があった。2026年以降の放鳥実施をめざし、地域関係者と話し合いを進めているという。

「遺伝的多様性」の課題が残る

順調に数を増やしているトキだが、遺伝的に非常に近い集団であることが懸念されている。遺伝的多様性の確保は、種の安定的存続を図る上で欠かせない。

一方で、現在日本に生息するトキのほとんどは、中国から提供された友友や洋洋などの子孫たちだ。中国のトキも再発見された7羽程度から増殖した子孫であり、遺伝的多様性の確保は共通の課題だ。

このほか、稲踏みや騒音における対処や採餌環境維持など、地道な取り組みにおける地域住民の理解も必要だ。

24年前の思い出と洋洋への感謝

1999年5月21日、銀座通りを歩いていた私は、ニュースを表示する電光掲示板を見上げて思わず立ち止まった。日本では約40年ぶりとなるトキ「優優」の誕生が告げられていた。当日はもちろん翌日も全国ニュースで報じられた。

日本での野生トキの復活が順調に進み、自然環境で数を増やしていったとき、日本のトキの多くは何らかの形で「洋洋」の血を引く個体となるのだろう。

そういう意味で「洋洋」は将来の日本のトキのまさに「イブ」たる存在でもあった。

sakamoto_masaru

坂本 優(生きものコラムニスト/環境NGO代表)

1953年生。東京大学卒業後、味の素株式会社入社。法務・総務業務を中心に担当。カルピス株式会社(現アサヒ飲料株式会社)出向、転籍を経て、同社のアサヒグループ入り以降、同グループ各社で、法務・コンプライアンス業務等を担当。2018年12月65歳をもって退職。大学時代「動物の科学研究会」に参加。味の素在籍時、現「味の素バードサンクチュアリ」を開設する等、生きものを通した環境問題にも通じる。(2011年以降、バルディーズ研究会議長。趣味ラグビー シニアラグビーチーム「不惑倶楽部」の黄色パンツ (数え歳70代チーム)にて現役続行中)

執筆記事一覧
キーワード: #生物多様性

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..