「びっくりドンキー」が進める「生ごみリサイクル95%」とは

記事のポイント


  1. 「びっくりドンキー」を手がけるアレフは生ごみリサイクル率95%を達成した
  2. この水準は、食品リサイクル法での外食産業の目標値50%をはるかに上回る
  3. 生ごみが堆肥となって育てたダイコンの一部は、店舗のサラダに入ることもある

ハンバーグレストラン「びっくりドンキー」をチェーン展開するアレフ(札幌市)は2022年度、直営店で食品再生利用等実施率(以下、生ごみのリサイクル率)95.4%を達成した。食品リサイクル法で外食産業の目標値として掲げる50%(2024年度)をはるかに上回る水準だ。生ごみの大半が堆肥となるが、その堆肥で育てたダイコンの一部を、季節や店舗限定ながらサラダとして提供する。(オルタナ副編集長・北村佳代子)

びっくりドンキーは生ごみリサイクルを徹底する

木のお皿でハンバーグディッシュを提供する「びっくりドンキー」は、北海道から沖縄まで全国344店舗を展開する。

■1店舗当たり1日30キログラムの生ごみが発生

外食産業全体で発生する食品ロスは、2021年度で80万トンにのぼる(可食部のみの数値、農林水産省・環境省推計)。家庭からの排出が多いとはいえ、持続可能な社会を実現する上では、外食企業の取り組みは避けて通れない。

「毎日、一店舗当たり30キロの生ごみが発生している」――。アレフのSDGs推進部で廃棄物管理者を務める伊藤公一氏は2023年11月、東京・板橋区立リサイクルプラザが開催した講演で説明した。

2022年度の同社の食品廃棄量(フライヤー油やグリドル油などの不可食部を含む)は1906トンだった。

アレフのSDGs推進部で廃棄物管理者を務める伊藤公一氏

■資源は循環し、「ダイコン」や「ハンドソープ」になって店に還る

このため、生ごみのリサイクルと同時に、食品廃棄物そのものの削減に取り組んでいる。全国87店舗に設置した生ごみ粉砕乾燥処理機で生ごみの容量を約4割まで減らし、全国の協力農場に運んで堆肥化などを行う。堆肥の一部は、「びっくりドンキー」がディッシュサラダで提供するダイコンの栽培にも使われる。

処理機を置けない店舗の生ごみや、工場から排出される動植物性残渣は、再生利用事業者との連携を通じて、肥料化、メタンガス化、飼料化する。結果として、食品廃棄物の約半分は肥料に生まれ変わる。

また、1店舗につき毎月約110キログラム発生する廃食用油は、バイオディーゼル燃料に活用するほか、一部はハンドソープへとアップサイクルする。純石けん成分で作った、環境への負荷が少なく肌にもやさしいハンドソープは、全国約70店舗のトイレに設置している。

■最も廃棄の多い「ライス」のロス削減に取り組む

「最も多く食品廃棄物が出るのが店舗」(伊藤氏)といい、同社で発生する食品廃棄量の3分の2を占める。そのうち最も多い廃棄物が「ライス(ご飯)」だ。

このため、顧客が食べきれる量を選べるよう「小盛メニュー」を提供するほか、店舗に少量炊飯器を導入し、時間帯によっては一度に炊くお米を半量に減らした。

同社の提供するお米は、長い時間をかけて契約生産者と相談・交渉しながら、「殺虫剤や殺菌剤を一切使わない」「除草剤は1回まで」など、徹底した食の安全を貫いてきた。「食べ物を廃棄するために、生産者が作っているのではない」(伊藤氏)との強い思いが、同社の食品廃棄物削減への取り組みにはある。

■契約産地と田んぼの生き物調査

お米の契約産地の生産者には、自らの田んぼに棲む生き物も見てもらう。従来のやり方で殺虫剤や殺菌剤を撒いた後には、生き物の姿は見られない。お米の収量を確保するだけでなく、田んぼに棲む生き物について、まずは知ってもらうことから生物多様性への関心を促す取り組みだ。

2023年度にお米を生産する田んぼについては、フランチャイズ店舗向けも含め、すべての契約生産者が田んぼの生き物調査を実施予定だ。

■「お客様とともに活動を広めたい」

顧客の協力も食品ロス削減には欠かせない。食事を残さずお皿をピカピカにした子どもを表彰する完食応援イベント「もぐチャレ!!」を実施している。お客様にも同じ方向を向いてもらえるよう、社員の発案で2006年に仙台の1店舗から始まった。

食べきることで生ごみが減り、顧客からも、「子どもの好き嫌いがなくなるきっかけになった」と喜びの声が多く寄せられるという。「もぐチャレ!!」は今、フードコート型店舗を除く「びっくりドンキー」全店に広がる。

2023年度には、飲食事業者やホテル事業者、自治体らが参画する「mottECO(モッテコ)普及コンソーシアム」に参画した。「食べ残しをしない」「やむを得ず食べ残したものは、自分の責任で持ち帰り、ごみにしない」という消費行動が当たり前になる社会を目指す活動だ。

アレフでは持続可能な社会に向け、企業の枠を超えた協業に取り組む方針だ。SDGs推進部の髙田あかね部長は、「人手不足問題は、外食産業だけでなく、廃棄物の回収・運搬事業者も直面する問題だ。人口が減少する国内では、将来的に廃棄物の回収ルートも制約される可能性がある。適正なリサイクル方法やその資源を確保するためにも、企業や事業所、自治体の枠を超えた協働が必要だ」と話す。

髙田あかねSDGs推進部長

■多様な人材の活躍を目指して

食品廃棄物のリサイクルや、サステナブルな調達などに力を入れてきたアレフが今、最も力を入れているのが多様な人材が活躍できる環境整備だ。

目指す姿は、性別や年齢、抱えている障がいなど、「多様な背景や事情を持っている人が、自分の強みを活かして活躍できる」会社だ。一人ひとりの多様な視点が、知見となって経営戦略に活かされ、そして活躍できる基盤づくりを進める。

当面の課題はジェンダー平等の実現だ。男女の賃金格差や昇進、昇格の格差のない公平性を追求する。

SDGs推進のための重要なゴールの一つに、多様な人材の活躍を掲げたが、「今後、管理職を担うべき世代である30代の人数が少ない。また40代になると女性の割合が低いなど、社員の性別・年齢構成のアンバランスさが課題」だという。

髙田部長自身は3度の出産と職場復帰を経験してきた。性別関係なくキャリアを継続できるように、業務やシステムの変革にも取り組んでおり、「自分の実体験から提言もするし、多様な背景を持つ方々からの意見や提案を、職場環境や制度改定に取り入れることで、多様な人材が活躍し続けられる職場にしていきたい」と意気込む。

■人々の暮らしに寄り添う企業文化

アレフの店名に掲げるドンキー(ロバ)は、人々の暮らしに寄り添いながら一歩ずつ着実に進めていくシンボルだ。

「1997年から始めた生ごみのリサイクル活動も、それぞれの地域での打開策を一つひとつ洗い出しながら協働して進めてきた。持続可能な将来像に向けて、ちょっと行動を変えることで、ともにサステナブルな社会へと進んでいけたら全体が良くなるはず」(高田部長)という。

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

オルタナ副編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部。

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