困難を跳ね返す難民たちの「逆境パッション」、企業に好影響

記事のポイント


  1. カメルーンから日本に逃れた難民が、富山の廃棄物リサイクル企業に就職した
  2. 業務の吸収に熱心な難民の姿が、同社内に好影響をもたらしている
  3. これにより同社の海外進出の構想が、より現実味を帯びてきた

富山県高岡市の廃棄物リサイクル企業である荒木商会が2023年6月、カメルーンから日本に逃れた難民を社員に採用した。同社の業務をいち早く吸収しようとする難民の熱意が、他の社員にもプラスの影響をもたらしている。難民の採用と活躍によって、同社の海外進出構想がより現実味を帯びてきた。(オルタナ副編集長・北村佳代子)

荒木商会の荒木社長(左)と広報・塚田真由さん(右)

「皆を家族のように思っている。大事にしていきたい。そして、皆が知っている知識や技術は全部、どんなことでもいいから自分に教えてほしい」

荒木商会が開いた入社歓迎会の場で、カメルーン人のVさんは、「英語で話すから訳して」とお願いをして、社員の前であいさつをした。

同社広報の塚田真由さんは、このあいさつの言葉から、「真剣さと熱意が伝わってきて感動した」と振り返る。

アフリカ大陸西部に位置するカメルーンは、多面的な人道問題に直面する。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2023年10月末現在、同国の200万人以上が安全と安心を求めて避難し、そのうち約50万人が難民となっている。

■「祖国のごみ問題の解決」が夢

Vさんには、母国・カメルーンのごみ問題を解決したいという夢がある。その夢が、富山でリサイクル事業を手掛ける荒木商会に就職する道を拓いた。

同社の荒木信幸社長は、「企業の社会的責任の一環として難民人材を採用したのではない。面談し、相互に価値を見出す関係性を築けると確信したからだ」と、採用の理由を語る。

荒木商会は、「誰もが安心して働ける未来への貢献」を企業理念に掲げ、ダイバーシティ経営を推し進める。同社は2023年11月、障がい者雇用の取り組みが優良な中小事業主として、厚生労働大臣から「もにす認定」も受けた。

「組織の中ではチームワークが求められる。好き嫌いや損得ではなく、善悪で判断できる多様な社員が集う企業にしたい。人間的な成長を大切にしている」と荒木社長は力をこめる。

■難民人材の「逆境パッション」は就労先に好影響をもたらす

難民就労で伴走する特定非営利活動法人WELgee(ウェルジー)は先月、『Challenger×Challenger「地場企業x難民人材」』と題するセミナーを主催し、荒木商会の取り組みを紹介した。

WELgeeは、過酷な環境を経験した難民の多くが、Vさんのように、自らの力でつかみ取ろうとする「逆境パッション」を備えており、その情熱は就労先に好影響を及ぼすと考え、活動してきた。

これまでも、物流企業の海外事業で中核となって活躍する中央アフリカ出身者、エンジニアとしてIT企業で開発業務を牽引するシリア人、元ジャーナリスト兼教師の経験を活かしてNGO団体でウクライナ避難民の現実を発信するウクライナ避難民など、多才な難民人材の就労と活躍に伴走してきた。

Vさんについても、荒木社長は、「入社後3か月で、業務全体を見渡して現場を仕切る力をつけた」とその仕事ぶりを高く評価する。「いつの日か母国の情勢が安定し、帰国がかなうその日に向けて、今、日本で、現場から学べることをできる限り吸収しようという姿勢がみられる」という。

■言語の壁を乗り越えるために、会社も支援する

ほとんどの難民がぶつかる壁が「言語」だ。言葉を話すことはできても、ひらがな・カタカナ、そして特に漢字はほとんど読めないのが現状だ。

そこで荒木商会は、毎月1回、外部講師を招いて読み書きの学習を支援する。目指すのは、日本語能力試験のN3レベル(5段階のうちの真ん中)だ。Vさん自身もプライベートで毎日1時間、オンラインでの日本語学習を欠かさない。

「『言葉だけではなく、日本の文化も知りたい』とも言われた。うれしかった」と塚田氏は言う。

■在留資格の安定につながるキャリアプランも

Vさんは日本に来る前、大学在学時には経済・英語を専攻していた。現在、Vさんは難民認定申請者であり、6か月に一度の更新が必要で活動の制限も多い「特定活動」という在留資格を所持する。

専攻を活かす職種に就けば、「技術・人文知識・国際業務」在留資格への変更申請ができ、法的にも安定する。

「今は現場経験を重ねているが、将来的に営業や貿易業務に従事できれば、在留資格も安定し、安心して長く働き続けてもらえる」と、荒木社長は考える。

「現場をイメージできなければ、営業に出ても見積もりすら作れない。現場で多くのモノに触れることで、モノの価値も判断できるようになる。1年ほど現場経験を積む間に、日本語もしっかり勉強し、その先は営業マンとしての活躍を期待する」と、Vさんの先を見据えたキャリアプランを語る。

「当社には、人材育成のためのマニュアルもない。まずは飛び込んだ現場で仕事を覚えてもらわざるを得ない。でもVさんはそうした環境にも順応し、自分で必要な知識やスキルを自ら積極的に同僚に聞いて、自分のものにしていこうという意気込みがある。何よりも仕事が楽しいと言ってくれているのがうれしい」(荒木社長)

■海外進出構想がより現実味を帯びる

WELgeeでは、難民人材の就労を通じて、企業に「イノベーション創出」「社員の意識変革」「企業価値の向上」といった波及効果をもたらすことをねらう。

「Vさんが入社し、彼の業務に対する真剣な姿勢によって、社内の空気がグッと前向きに変わった。当社が2030年のビジョンとして掲げた海外進出についても、より一層現実味を帯びてきた」と荒木社長は意気込む。

塚田氏は、「Vさんは、ハングリー精神だけでなく、コミュニケーション力も高く、現場をまとめる力もあり、すでに他の社員から頼られる存在だ。会社に良い影響を与えてくれているし、将来、アフリカでも事業を展開できるかもしれないと想像すると、会社が飛躍していくワクワク感を抱く」と話す。

「苦労してきたバックグラウンドがある中で、今、日本で、一生懸命Vさんが自身の夢に向けて頑張っている姿を見ると、困っていることがあったら一緒に解決したいと思うし、私も少しでも一緒にVさんの夢を追いかけたい」(塚田氏)

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

オルタナ副編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部。

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