「ブルーカーボン」、海藻や水草のあなどれないCO2吸収力

記事のポイント


  1. COP28が産油国・アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれた
  2. 日本政府は「ブルーカーボン」を増やす取り組みを紹介した
  3. ブルーカーボンとは、海藻など海洋生態系に蓄積される炭素だ

■小林光のエコめがね(36)■

私などが担当官だった気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3、京都会議)から四半世紀も経った。かつては先進国にだけとどまっていた気候変動対策は、今や、世界中に広がっている。

28回目となる2023年のCOP28は、産油国・アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれた。炭素を輸出商品とする産油国が議長で化石燃料の廃止が進むのか、懐疑的な声もあったが、幸い、「2050年脱炭素実現のために死活的に重要なこの10年間に力を投入しつつ、化石燃料からの脱却を進める」(論者意訳)ことが締約国会議決定として採択された。(オルタナ客員論説委員・小林 光)

パリ協定実行後5年間の節目に、「グローバル・ストックテイク(GST)」と称して各国の取り組みを総覧した上での新方針であり、歓迎したい。このCOP28では、それ以外にもいろいろなことが決められ、あるいは新しい取り組みが発表された。本稿では「ブルーカーボン」について紹介する。

ブルーカーボンとは、陸上の植物ではなく海中の海藻などが光合成に際して体内に取り入れた炭素で、その中でも最終的には、海底深くに沈み込み、長い間に地層の一部になっていくことによって地球の温室効果からは隔離されてしまうものである。

陸上の森林による吸収量と同じように、このブルーカーボンを吸収量として自国の排出量から控除することができる。

この数量に関し、日本政府は、COP28で、2024年度の排出量報告から数値を明らかにして排出量からの控除を開始することや、その数量を増やす努力をすることを発表した。

ちなみに数量的には、わが国のブルーカーボン量は多く見積もれば100万トン程度と、排出量に比べては、最大0.1%程度のオーダーになる可能性があるのではないかと考えられる。

こんぶ類の全国の収穫量の推移
こんぶ類の全国の収穫量の推移

私が現役行政官であった時の肌感覚でいえば、100万トンを減らせることは、拝みたいほどのありがたいことである。

陸上の森林の場合は、植林をし、あるいは間伐をして陽当たりをよくして吸収量を増やす。あるいは伐採した木材を建築材などとして使って空気中のCO2を増やさないようにするといったやり方で、温暖化対策として森林を活用することが定着しているが、海藻などの場合は温暖化対策としての積極的な活用策がまだまだ定かではない。

むしろ、最近は磯焼けなどで海藻が減ったり、陸上からの洪水などによる泥負荷が海藻の生育環境を損ねたり、マイナス要因も強まっているようだ。そうしたことから、養殖に力が入ってきている。

しかし、比較的冷水性のコンブについてみると、最盛期の半分程度の3万トン、暖かい海でも繁茂するワカメでも漸減傾向の4万5000トンにとどまっている。

ただ増やして海底に沈めるのではなく、海藻や水草に親しみ、増えたものを刈り取り、食用などに利用して、陸上起源の有機物、さらには、フードマイレッジの大きな外国農産物への依存を減らす、といった海藻・水草の活用策が盛んになることが望まれる。

そのような文脈で、私個人も水草に関心を高めていた。そうしたところ、2地域居住の一方の場所、八ヶ岳西麓地域にある諏訪湖でも、水草の活用策が課題になっていることを知った。

2023年9月8日付の本欄で紹介したように、ここでは毎年、水草が刈り取られ、肥料に加工され、化学肥料の代替に使うという循環的な活用が行われている。

しかし、水質汚濁対策が進んで、透明度が高まり、日光が湖底に届くようになればなるほど、水草や淡水藻の成長はよくなる。近年は、水面が藻に覆われて日差しが遮られ、湖底で水草が枯れて貧酸素化が起こり、ワカサギなどの資源にダメージが生じたりしている。そこで、さらなる刈り取り、そして、それを無駄にしない活用策が望まれている。

そうした中、水草刈り取りの実働部隊の一つであり、私も参加する「ブルーウォーター・ヨットクラブ」では、特にヨット航路に多く繁茂するクロモと格闘をしているが、多量に取れ続けるのなら、肥料以上の付加価値のある処遇ができないか、と考えるに至った。

そして手始めに、有害な含有物がないか、他方で、有益な含有物がないかを分析してみることとした。分析の依頼先は、山梨県食品衛生協会(山梨県甲府市)だ。先日、重金属を中心とした計量証明が届いた。

試験検査結果
試験検査結果

結果は、写真の通り、水銀やヒ素などの危ないものはほとんどなく、鉄などは、陸上の野菜などよりは多く含まれていることが分かった。ヨットクラブ有志は、この成果にまずは安心し、化成肥料代替より以上に世の中のためになり、地域おこしになる使い方を探り始めた。

水草、海藻を繁茂させ、活用し、陸上資源の消費を代替することは有効な取り組みである。読者諸賢から、ビジネス化のアドバイスがあれば聞かせてほしい。

hikaru

小林 光(東大先端科学技術研究センター研究顧問)

1949年、東京生まれ。73年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、環境庁入庁。環境管理局長、地球環境局長、事務次官を歴任し、2011年退官。以降、慶應SFCや東大駒場、米国ノースセントラル・カレッジなどで教鞭を執る。社会人として、東大都市工学科修了、工学博士。上場企業の社外取締役やエコ賃貸施主として経営にも携わる

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キーワード: #脱炭素

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