ネスレ、コーヒー生産が半減する2050年問題と再生農業(前編)

記事のポイント


  1. 気候変動の影響でコーヒー生産地が2050年までに半減すると予測されている
  2. ネスレは、コーヒー農家の再生農業への移行を後押しする
  3. 生物多様性保全や脱炭素、小規模農家の生計向上にも貢献したい考えだ

ベトナムルポ: コーヒー生産が半減する2050年問題と再生農業

世界的にコーヒー需要が高まる一方、気候変動の影響でコーヒー栽培に適した土地が2050年までに半減すると予測されている。そうした危機に対応するため、コーヒーブランド「ネスカフェ」などを展開するネスレは、コーヒー農家のリジェネラティブ(再生)農業への移行を後押しする。生物多様性保全や脱炭素、小規模農家の生計向上にも貢献したい考えだ。再生農業を実践するベトナムのコーヒー農園を取材した。(オルタナ副編集長=吉田広子)

コーヒー農家の女性「初めて銀行口座を開いた」

1ヘクタールほどの農園でコーヒー豆(ロブスタ種)を栽培する
トラン・ティ・リエンさん。ベトナム中南部の高原地帯バンメトートで

「コーヒー豆の収穫量が増え、生産が安定したことで、初めて銀行口座を開くことができた。娘を大学にも行かせることができて嬉しかった」

ベトナム中南部の高原地帯バンメトートでコーヒー豆(ロブスタ種)栽培を行うトラン・ティ・リエンさんは、笑顔を見せる。

リエンさんは、30年ほど前からコーヒー栽培に携わり、2016年からネスレの農家支援プログラムに参加。ネスレ・ベトナムの専門家から農業技術の指導を受けながら、現在は、1ヘクタールほどの農園で、コーヒー豆を中心に、コショウなどの農作物を間作(かんさく、インタークロップ)型で栽培している。

間作とは、生物多様性を生かし、2つ以上の作物を近接して育てる栽培方法だ。リエンさんは、年間平均3.5 トンのコーヒー豆と、2.3 トンのコショウを生産するほか、ドリアンやベテルナッツ(ビンロウ樹の実)なども育てる。

農家はコーヒーの木の間に、コショウの木の支柱となるアカシアの木を植える。
センチュウは、アカシアの木を好むため、害虫防除に役立つ

コショウ栽培は農家にとって新たな収入源になるだけでなく、農作物の収量低下を招く病害虫センチュウの被害防止にも役立つ。センチュウは、コショウの支柱となるアカシアの木を好み、コーヒーの木には寄り付かないからだ。

こうした取り組みの結果、リエンさんをはじめとした農家グループの収入は、8年間で3倍になったという。

一方で、「雨が降らない年もあったり、逆に降り過ぎる年もあったり、厳しい栽培環境が続いている。地下水も減り、気候変動の影響を感じる」と、リエンさんらは危機感を募らせる。

2050年までにコーヒーの生産地が半減

ベトナムでは、苦みの強いロブスタ種のコーヒーにコンデンスミルク(練乳)を
加えるのが、伝統的な飲み方だ

世界人口の増加や経済成長に伴い、世界のコーヒー消費量は年々増加している。米農務省(USDA)は、2023-24年の世界のコーヒー生産量は、2022-23年から430万袋(1袋60kg)増の1億7430万袋との見通しを示す。

ベトナムは、ブラジルに次ぐ世界2位のコーヒー豆生産国で、輸出国だ。生産される豆の95%はロブスタ種である。強い苦みが特徴で、主に缶コーヒーやインスタントコーヒーに使われる。一般的にカフェや家庭などで親しまれるアラビカ種は、主にブラジルで生産される。

ネスレはベトナム最大のコーヒー豆の購入者だ。ベトナムのコーヒー総生産量の約25%を占め、年間購入額は7億ドル(約1015億円)に上る。

だが、コーヒー需要が高まる一方で、コーヒー栽培は気候変動の脅威にさらされている。米州開発銀行は、気候変動による気温上昇や干ばつなどで、2050年までにコーヒー豆栽培に適した土地が約50%減少すると予測した。

ベトナムのコーヒー産業とビジネスを持続可能に

ネスレ・グリーンコーヒー開発グローバル責任者であるマルセロ・ビュリティ氏

「コーヒーに依存する農家は世界で 1250 万世帯あると推定されている。その8割は貧困ライン(1日2.15ドル=約300円)以下で暮らす。私たちネスレには、コーヒーのサステナビリティ(持続可能性)を確保するための行動が求められている」

こう語るのは、ネスレ・グリーンコーヒー開発グローバル責任者であるマルセロ・ビュリティ氏だ。

ネスレは2010年に「ネスカフェ プラン」を立ち上げ、コーヒー農家に対し、品質の良い苗木の配布や農業技術の支援を行ってきた。

2022年10月に発表した2030年までの計画「ネスカフェ プラン2030」では、再生農業への移行を加速するために、2030年までに12億スイスフラン(約2400億円)を投じる。2025年までにコーヒーの20%を再生農業から調達し、2030年までに50%達成を目指す。

同社は農家に対し、環境配慮型の農業技術や研修を提供するほか、再生農業で栽培された作物に割増金を支払う。

「再生農業への移行は、旅の第二章だ。最初の10年間は『責任ある調達』に重点を置いていたが、さらに前進させる必要があると気付いた。後戻りするつもりはない。この目標を達成する上でも、農家の理解と協力を得ていきたい」(マルセロ氏)

ネスレは、再生農業を「天然資源を保護・回復し、土壌の健全性、生物多様性の保護、水循環を促進する手法」と定義する。

農薬や化学肥料の削減に取り組むが、同社が掲げる「再生農業」は、必ずしもオーガニック(有機栽培)を意味するものではない。

マルセロ氏は「私たちが目指すのは、土壌を改善し、温室効果ガス(GHG)排出量を減らし、農家の収入を増やすこと。これらを可能にするために、『最適化』と『効率性』を重要視している」と話す。

後編はこちらから

※この記事は、ネスレ(本社スイス)主催のプレスツアーに参加し、取材した内容をまとめたものです。同社から渡航費および現地の宿泊費の提供を受けたものの、取材や記事制作の過程において同社から依頼や制約を受けていないため、PR記事ではなく、通常記事として配信しました。

yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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キーワード: #生物多様性

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