サラヤ、天然の界面活性剤を「第3の選択肢」に

記事のポイント


  1. サラヤは世界で初めて天然界面活性成分「ソホロ」の量産化に成功
  2. 高い洗浄力と安全性、生分解性にも優れた理想的な成分だ
  3. 開発の背景には、「第3の選択肢をつくりたい」という思いがあった

サラヤが開発した「第3の洗浄剤」と呼ばれる天然界面活性成分「ソホロ(SOFORO)」。高い洗浄力と安全性、生分解性にも優れた理想的な成分だ。洗剤の「ハッピーエレファント」シリーズに配合されるほか、最近では、再生医療分野への応用の道筋も見えてきた。平田善彦・サラヤ取締役バイオケミカル研究所所長に話を聞いた。

「ソホロ」を開発した平田善彦・サラヤ取締役バイオケミカル研究所所長(撮影・洞タツヤ)
「ソホロ」を開発した平田善彦・サラヤ取締役バイオケミカル研究所所長(撮影・洞タツヤ)

平田 善彦(ひらた・よしひこ)
大阪大学工学部醗酵工学専攻卒。大阪大学大学院工学研究科応用生物工学専攻細胞生理学講座修士課程修了。1997年サラヤに入社し、バイオケミカル研究所に配属されて以来、研究一筋。2013年から現職。天然洗浄成分「ソホロ」の生みの親で、大阪大学医学部とともに「ソホロ」を使用した細胞保存液などの最先端再生医療の共同研究も行う。

■予防原則に則り3つ目の選択肢

─天然界面活性成分「ソホロ」は、合成洗剤とも石けんとも違う「第3の洗浄剤」と呼ばれる画期的な成分ですね。まずは開発経緯について教えてください。

朝起きてから寝るまで、私たちの暮らしは界面活性剤であふれています。界面活性剤とは、簡単に言えば、水と油をつなぐ物質です。洗剤やシャンプー、化粧品、マヨネーズのような食品にまで、幅広く使われています。

歴史を振り返ると、1900年代までは水洗いや石けんが主流でしたが、1910年代から石油由来の合成界面活性剤の開発が始まり、1930年ころから世界で急速に普及しました。

日本でも、1970年代から界面活性剤が生活必需品になりました。一方で、研究者として、このような急激な変化が地球にどういった影響を及ぼすのか、懸念を感じていました。「『石けん』か『合成洗剤』か」という二者択一で良いのか、疑問を持っていたのです。

例えば、近年、プラスチックの問題が広く知られるようになりましたが、何十年も前から問題は存在していました。問題が顕在化してから、手を打つのでは遅い。サラヤは、世界の「衛生・環境・健康」に貢献することを使命としていますから、第3の選択肢を作れないかと考えました。

そこで、天然の界面活性成分「バイオサーファクタント」に着目しました。天然酵母の発酵によって生産されるバイオサーファクタント自体は、昔から存在していると分かっていたのですが、それを安定的に大量生産する技術は皆無の状態でした。

─壮大なチャレンジだったのですね。結果的に世界で初めて量産化に成功したわけですが、どのように課題を乗り越えたのですか。

「第3の選択肢をつくりたい」という思いでソホロを開発した(撮影・洞タツヤ)

石油由来の合成洗剤を作り続けることが正しいのかどうかは、「歴史のみぞ知る」です。しかし、その結果をただ待っているのではなく、「何かアクションを起こさなければ」という気持ちが強くありました。これはサラヤの伝統的な文化でもあります。

将来的に化石燃料が使えなくなる可能性もあります。便利さを失わない形で、第3の選択肢をつくりたい。とにかく、その一心でした。1998年ころから構想を練り始め、2001年に製品化しました。

私たちが開発した「ソホロ」は、植物油であるパーム油と糖を栄養にして、天然酵母が発酵することによって生み出した天然の界面活性成分です。相手が「生き物」ですから、社会実装するうえで、安定供給は大きな課題でした。

酵母のご機嫌を取りながら、実証実験を重ねました。初めて工場にある40トンのタンクで量産に成功したときは、本当にほっとしました。最初の商品化は、食器洗い機用の洗浄剤としてでした。

泡立ち控えめでありながら洗浄力があり、安全性も高いという「ソホロ」の特長が食器洗い機用洗剤に求められる性能と合致したからです。しかも既存品は難生分解性の環境に悪いものが殆どです。処方開発を進めていく中で、求められる洗浄力試験をクリアできるかが課題でしたが、試験をクリアし、きれいなお皿が出てきたときは、本当に嬉しかったですね。

■高い洗浄力と生分解性を両立

─ソホロの特長について教えてください。

「ソホロ」はパーム油と糖を栄養にして、天然酵母が発酵する過程で産生される

大きく4つあります。まずは合成洗剤に匹敵する洗浄力の高さです。次に高い生分解性です。排水は微生物によって二酸化炭素と水に完全分解されて地球に還ります。

3つ目は、高い安全性です。ソホロは、細胞毒性の結果、低刺激をうたう化粧品に使われている原料よりも毒性が低い成分であることが分かりました。食品成分としての安全性も満たしています。

最後に低起泡性と優れたすすぎ性です。高い洗浄力を持ちながら、ほとんど泡立たないことが特長です。合成の界面活性剤のようにヌルヌルせずに、すばやく泡切れ、すすぎが簡単です。当社の製品としては、洗剤の「ハッピーエレファント」シリーズやスキンケアブランド「ラクトフェリン・ラボ」で使われています。

ソホロを配合した「ハッピーエレファント」シリーズ

─再生医療分野での応用展開も進んでいるそうですね。

大阪大学医学部とともに「ソホロ」を使用した細胞保存液や脱細胞化液の共同研究を行い、実用化に向けた取り組みを進めています。同大の教授が、ソホロの細胞毒性の低さと洗浄力の高さに着目してくれました。

細胞は生きていますから、そのままにしておくと痛んでしまいます。現在は細胞を保存する際に合成界面活性剤を使用しているそうなのですが、ソホロが代替できる可能性があります。細胞を質の良いベッドに眠らせてあげるようなイメージです。

試験では良い結果が出ていますので、臨床の場で応用できるように、研究を続けていきます。

─今後の展望について教えてください。

ライフサイクルアセスメントの考え方を踏まえて、原材料の調達から捨てた後のことまで考えて商品を選択してもらえるように、お客さまとの接点を深めていきたい。地球は1つしかありませんので、資源を循環させてサーキュラー(円形)にできるように、社会全体で考えなければいけません。コストの分担も必要です。

ソホロの原材料となるパーム油は、環境や人権に配慮されて生産されたRSPO認証の植物原料を使用しています。プロダクト単体で見ると、一般的な合成洗剤よりも価格は高いと思われるのですが、持続可能な調達や製造、排水後の影響を考えてコストをかけることは当然のことだと思います。

売り上げの1%はボルネオの環境保全活動にも寄付されます。洗剤は、多くの人に使ってもらえる商品ですから、世の中を変えていくこともできると思っています。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #生物多様性

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