サステナ経営塾19期下期第5回レポート

株式会社オルタナは2024年2月14日に「サステナ経営塾」19期下期第5回をオンラインとリアルでハイブリッド開催しました。当日の模様は下記の通りです。

① 国際NGOの活動を知る

時間: 10:20~11:40
講師: サム・アネスリー氏(国際環境NGO グリーンピース・ジャパン 事務局長)

第1講には、国際環境NGO グリーンピース・ジャパン 事務局長のサム・アネスリー氏が登壇し、国際環境NGOグリーンピースの活動ついて講義した。主な講義内容は次の通り。

企業を対象とした様々なキャンペーンについて紹介するサム氏

・国際環境NGOグリーンピースは、ミッションに「地球規模での環境保護と平和」を掲げ、世界55以上の国・地域で活動するグローバルな環境団体だ。活動の独立性と中立性を保つため、企業や政府からの資金援助を受け付けず、世界300万人の個人の寄付で成り立っている。

・同NGOは「総合協議資格」を保有し、環境問題の専門家として、気候変動枠組条約締約国会議(COP)やプラスチック汚染対策に関する条約策定に向けた会合など、国際会議にオブザーバー資格で出席し、各国政府へのアドバイスや提言も行う。

・同NGOの特徴の一つに、IDEAL(理想)原則がある。IDEALとは、英語で「理想の」という意味で、Investigate (科学的調査をする)、Document(報告書、写真などの証拠をまとめる)、 Expose(公表する)、 Act(行動する)、Lobby(交渉する)の頭文字を取った言葉だ。

・グリーンピースは企業批判のイメージが強いが、実際の反対運動は全体の5%に過ぎない。グリーンピース・ジャパンのサム・アネスリー事務局長は「私たちがボイコットを呼びかけることはない。より良くするための企業との対話を求めている」と話す。

・同団体はさまざまなグローバルキャンペーンを行う。2013年に開始した「デトックス・ウォーター」は、世界的に影響力のある衣料品メーカーが「2020年までに有害化学物質の排出ゼロ」にコミットすることを目指した。日本では、ファーストリテイリングに働きかけ、有害化学物質全廃で合意した。同社は代替物質の開発や採用のきっかけになったと語る。

・「クール・アイティ キャンペーン」は、データセンターの電力使用量が急増していた2007年当時、大手IT企業に再生可能エネルギーへの切り替えを求めたキャンペーンだ。その結果、米アップル社は2012年5月、同年末までに一部のデータセンターの電力を再エネに切り替えることを発表した。以降、同社はすべてのデータセンターの電力を再エネに切り替えた。

・現在、展開しているのが「モビリティ転換のキャンペーン」だ。すべての人の多様なニーズに合わせて、平等にアクセスできる、低価格、安全、環境に優しい、コネクテド、公正なモビリティの実現を目指す。自動車メーカーへの働きかけや持続的なモビリティの提唱、関連する公的機関との連携を進める。

・グリーンピースは、科学者や弁護士、マーケティング、デザイナー、動画制作者などさまざまな専門家を抱え、より効果的なキャンペーンを行っているという。SNSでは、オーディエンスに合わせてメッセージを変える。

・アネスリー事務局長は、「企業に対して、突然、デモを始めるわけではない。IDEAL原則に基づいて、データをもとに交渉していく。実を結ぶまでに長い時間がかかることもあるが、粘り強く、こつこつと続けていく。すべては『地球規模での環境保護と平和』のため」と語った。

②サステナ経営検定2級試験の過去問演習と解説

時間: 13:00~14:20
講師: 木村 則昭氏(Nick’s Chain代表/株式会社オルタナ オルタナ総研フェロー)

第2講には、Nick’s Chain代表でオルタナ総研フェローの木村則昭氏が登壇し、サステナ経営検定2級試験の過去問演習と解説を行った。サステナ経営塾下期受講者には、サステナ経営検定2級の公式テキスト(PDF)と受験無料の特典がある。

サステナ経営検定2級の過去問を解説する木村氏

受験に向けては、テキストを少なくとも2度通読することを推奨した。

解説後の質疑応答では、受講生から、企業のトップがサステナビリティに理解を示さない場合の対応について質問があった。木村氏は、カシオ計算機でサステナビリティを推進してきた自身の経験を踏まえ、2つの方法を話した。

1つは、「外圧」で、外部の影響力の強いステークホルダー(主力銀行、大手取引先など)から「サステナビリティへの取り組みは必須」という指摘を引き出す方法。もう一つは、同業他社や競合相手の先行事例をなるべく多く集めて、自社の対応の遅れについて自覚を促す方法だ。

サステナ経営検定(当時CSR検定)を活用し、社員のCSRリテラシーを向上させることで、社内サステナビリティにおける対話のレベルが上がった経験も紹介した。

サステナ経営検定2級はこれまでに11回実施され、受験者は6100人を超えた。企業・団体別2級合格者数では、みずほフィナンシャルグループが1592人で1位となっており、次いでオリエントコーポレーション(合格者79人)、商工組合中央金庫(合格者78人)と続く。このことは昨今の金融業界のESG投資への対応姿勢を反映していると指摘した。

③サステナ経営時代のESG情報開示とアンケート対策

時間: 14:35~15:55
講師: 室井 孝之氏(株式会社オルタナ オルタナ総研フェロー)

第3講には、オルタナ総研フェローの室井孝之氏が登壇し、「サステナ経営時代のESG情報開示とアンケート対策」について講義した。

ESG情報開示の傾向と対策を話す室井氏

主な講義内容は次の通り。

・ESG情報開示に関して2024年に予想される動きは下記の通り。
1:コーポレートガバナンスコードで英文開示の要請が高まる。「英文開示に関する海外投資家向けのアンケート(2023年8月東証)では、「不満」が多かった。回答を読むと、「情報がかなり少なく、開示が日本語の開示に比べて2~3週間遅い」などがあった。

2:TISFD(不平等・社会課題に関連する財務情報開示に関する
グローバル・フレームワーク)のタスクフォースが2024年上期に発足予定。不平等関連財務情報開示タスクフォース(TIFD)、社会関連財務情報開示タスクフォース(TSFD)の統合。持続可能な開発のための世界経済人会議(WBSCD)が支援する。TCFD、TNFD等既存のサステナビリティ開示基準との相互運用性を模索している。

3:サステナビリティ情報報告の内部統制の充実
2023年3月、COSOフレームワークガイダンス(ICSR)が公表。サステナビリティ情報報告の信頼性向上の為の内部統制の構築が加速する。例えば、ITシステムを導入し、サプライヤーから調達する原材料のトレースを強化する。

4:ISSA5000(サステナビリティ報告に対する保証基準)
国際監査・保証基準審議会(IAASB)は2023年8月、「国際サステナビリティ保証基準5000」の公開草案を公表した。2024年9月、最終基準の承認審議予定。ISO14064では、温室効果ガス排出量の算定及び検証の要求事項を定めた。

欧州では、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)が2023年1月に発効した。
サステナビリティ情報に対する保証を義務付けた。米国では、証券取引委員会(SEC)が2022年3月、気候変動関連開示規則案を公表した。GHG排出量についてはスコープ1及びスコープ2の第三者保証を要求した。

「CDP」からの質問書では、スコープ1・2・3の第三者検証・保証を求める。サステナビリティ報告における監査法人等による第三者保証が、ESG格付機関による企業評価やESG指標への採用に影響する。

サステナ経営者目指す6つの取り組みは下記の通り。

1.地球環境に配慮し、パーパス、価値創造ストーリーを明確化し、本業を通じ環境・社会課題の解決を通じた企業価値創造をコミット
2.コーポレートガバナンスが最大限機能し、長期経営計画を完遂する為に不可欠な取締役、社外取締役スキルマトリックスを明確化
3.従業員エンゲージメントを通じた経営と従業員のベクトル合わせ
4.前提として、心理的安全性やアンコンシャスバイアスに関する研修、リスキリングを行い、従業員のウェルビーイングを醸成しイノベーションに繋げる
5.ステークホルダーエンゲージメントを通じ、企業価値創造の理解促進
6.投資家に対し、企業の現状(機会とリスクを含む)、未来予想を信頼を得るレベルで情報開示し、コミュニケーションを図る

・ESG情報開示に求められていることは4つある。
1:情報開示の目的は、企業価値を投資家等のステークホルダ-に正しく理解、評価して頂くことにある。
2:そのために求められることは、
1)脱炭素社会や循環型社会に向けての課題をどう乗り越え、10年後、どの事業で儲けているかという企業価値創造スト-リーを明確にすること。
2)企業価値を高める戦略を開示すること。具体的には下記の4つ。
①長期のビジネスモデル、企業の成長プロセスを明確にすること。
②マテリアリティ特定プロセスを、ステークホルダーとのコミュニケー
ションを通し透明化し、KPIを明確化すること。
③事業に対するリスクと機会を開示すること。
④課題にどう取り組み、改善したかをPDCA化すること。

3:経営トップがコミットし、TOPメッセージを発信すること
4:会社情報の網羅性、時系列変化、情報の捜しすさ、ビジュアル性を含め見やすさを工夫すること

④企業事例:日立製作所のサステナ経営戦略

時間: 16:10~17:30
講師: 増田 典生氏(株式会社日立製作所 サステナビリティ推進本部 主管/一般社団法人ESG情報開示研究会 共同代表理事)

第4講には、日立製作所 サステナビリティ推進本部 主管の増田典生氏が登壇し、日立製作所のサステナ経営戦略ついて講義した。主な講義内容は次の通り。

日立製作所のサステナビリティの考え方について講義する増田氏

・日立製作所は「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」を企業理念に掲げる。2008年のリーマンショックによる経営危機に直面し、「環境」と「デジタル」をベースにした「社会イノベーション事業」にフォーカスし、事業ポートフォリオを大きく入れ替えた。

・増田氏は「当時、8000億円という巨額の赤字を出したことで、入れ替えに本気になった。売却した会社は利益率も良く、健全な経営だったが、『環境』と『デジタル』を重視する戦略には合わなかった。売却したことで、CO2排出量を大幅に削減でき、環境投資を強化できた」と振り返る。

・同社は2022年4月、「2024中期経営計画」を発表し、「GX for CORE」「GX for GROWTH」の2本の柱からなるグリーン戦略を策定した。

・「GX for CORE」は、社内の取り組みで、社内生産活動のCO2排出の実質ゼロにコミットした。2030年度までにスコープ1&2、2050年度までにスコープ3の実質ゼロを達成することを目指す。「GX for GROWTH」は、ビジネス面の取り組みで、環境負荷が低い改良製品を提供することで、ユーザーのCO2排出削減に貢献したい考えだ。

・こうした環境への取り組みや、グローバルでのDEI(多様性・公正性・包摂性)戦略をどう外部に発信するか。日立は、情報開示ワーキンググループを組成し、統合報告書は機関投資家向け、サステナビリティレポートはESG投資家向け、有価証券報告書は株主・投資家向けなど、媒体の位置付けをそれぞれ明確にしたという。

・投資家はトップメッセージや戦略を重要視しているため、統合報告書はコンパクトに50ページ程度にまとめた。他方、サステナビリティレポートはデータブック的な位置付けとし、ウェブサイトで電子版を160ページ程度で展開している。

・増田氏は、「目に見えない非財務価値(社会・環境価値)をどう可視化していくかが重要だ。社会や環境の価値はいずれ財務にも跳ね返ってくる。財務インパクトと非財務インパクトの相関・因果関係を明らかにするのは非常に難しいが、これを考えることがサステナブル経営だ」と語る。

・そこで、研究開発部門、サステナビリティ推進本部、京都大学経営管理大学院が連携し、「ESG経営分析」と「未来シナリオシミュレーション」に取り組む。次期2027中期経営計画の設計時に活用できないか検討しているという。

・増田氏は「サステナビリティは日立の経営戦略の最重要キーワードの一つ。事業を通じて社会のサステナビリティを実現することで、日立のサステナビリティを実現するために、コーポレート部門・事業部門の各戦略が存在する」と語った。

susbuin

サステナ経営塾

株式会社オルタナは2011年にサステナビリティ・CSRを学ぶ「CSR部員塾」を発足しました。その後、「サステナビリティ部員塾」に改称し、2023年度から「サステナ経営塾」として新たにスタートします。2011年以来、これまで延べ約600社800人の方に受講していただきました。上期はサステナビリティ/ESG初任者向けに基本的な知識を伝授します。下期はサステナビリティ/ESG実務担当者として必要な実践的知識やノウハウを伝授します。サステナ経営塾公式HPはこちら

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キーワード: #サステナビリティ

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