不妊に悩む人々に寄り添い、理解の輪を社会に広げる

記事のポイント


  1. NPO法人「Fine」は、不妊体験者自身が不妊に悩む当事者をサポートしている
  2. カウンセリング、ロビイング、企業への働きかけなど、活動は多岐にわたる
  3. 不妊に対する理解を社会に広げ、あらゆる選択が尊重される社会を目指す

NPO法人「Fine」(東京・江東区)は、「不妊体験者による、不妊体験者のための、セルフサポートグループ」を掲げる。当事者へのカウンセリング、国政へのロビイング、企業への働きかけ、医療機関の審査など、さまざまな活動を通して不妊に対する理解を社会に広げようとしている。野曽原誉枝(のそはら・やすえ)理事長は「誰もが正しい知識に基づいて不妊に関する選択を行い、あらゆる選択が尊重される社会にしたい」と話す。(聞き手・村上佳央=日本非営利組織評価センター、長濱慎=オルタナ副編集長)

不妊を体験した当事者が不妊に悩む当事者をサポート。後列左端が野曽原理事長
不妊を体験した当事者が不妊に悩む当事者をサポート。後列左端が野曽原理事長

不妊治療の当事者を悩ませる「4つの負担」

――「Fine」設立の経緯と、不妊に悩む当事者が置かれた状況について教えてください。

「 Fine」は2004年に、不妊治療を体験した4人のメンバーが立ち上げました。まだSNSがなかった当時、インターネットの掲示板で互いの悩みを吐露したところ皆気持ちが楽になり、当事者の声を社会に広く届けようと設立に至りました。

日本社会において、不妊に悩む当事者は多かれ少なかれ4つの負担を抱えています。一つめが「時間的負担」、二つめが「経済的負担」、三つめが「精神的負担」、四つめが「身体的負担」です。

「時間的」には、仕事と不妊治療を両立させる難しさがあります。近年は働きながら治療に通う皆さんも増えましたが、スケジュール調整に苦労しています。「Fine」が行ったアンケート(※)でも退職や転職、休職を余儀なくされたという回答が多くを占めました。

「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート2023」(2024年1月公表)

「経済的」については、2022年4月から不妊治療に健康保険が適用され3割負担となりました。しかし、治療には1回約30万円〜50万円かかるため3割でも高額なことには変わりませんし、1回で終わるとは限らないので回数を重ねるごとに経済的な負担が大きくなります。

「精神的な負担」も、多くの皆さんが抱えています。親族が集まるお盆や正月に何気なく言われる「子ども、まだなの」という一言が、当事者には大変な重圧です。なかなか子どもを授かれずに焦るカップルも多く、女性だけでなく無精子症に悩む男性がプライドを傷つけられるケースも少なくありません。

「身体的」というのは文字通り、治療を受ける女性が身体に受ける負担です。不妊治療というと先進的なイメージを持たれがちですが、決してそうではありません。ホルモン注射によって、目まいや吐き気などの副作用に悩まされることも多いのです。

日本で不妊治療や検査を受けたカップルは4.4組に1組、悩んだことのあるカップルは3 組に1組(※)という調査結果も出ています。不妊は決して特別なことではなく、「 Fine」は不妊について普通に話すことのできる社会を目指しています。

※国立社会保障・人口問題研究所「第16 回出生動向基本調査」(2021年6月)による

2023年6月の世界不妊啓発月間には「みらいAction2023」と題したイベントを企業と共催
2023年6月の世界不妊啓発月間には「みらいAction2023」と題したイベントを企業と共催

不妊体験者を「ピア・カウンセラー」に育成

――では「Fine」は、どのような活動に取り組んでいるのでしょうか。

活動の柱の一つが「不妊ピア・カウンセラー」によるカウンセリングです。「ピア」は「同じ立場の仲間」という意味で、不妊体験者自らがカウンセラーになり、不妊に悩む当事者に寄り添い、心の支えとなって伴走します。

いくつかの自治体では委託事業として、不妊ピア・カウンセラーが相談員となって無料相談を行なっています。カウンセラーは「Fine」が養成し、認定を受けた資格取得者が全国に170人以上います。養成で大切にしているのは、カウンセラー自身が「自分の足で立つこと」と「違いを理解すること」の二つです。

前者の「自分の足」というのは、共倒れを防ぐことを意味します。カウンセラーの養成カリキュラムでは自分の体験を振り返り、泣いたり悲しんだりした過去に心理学的視点での意味づけを行います。これは人によっては辛いプロセスにもなりますが、相談者の話を聞いてカウンセラーの方が耐えられなくなるのを防ぐために必要な作業です。

後者の「違い」は、不妊に対する考え方は人それぞれということです。相談者に自分の価値観を押し付けることなく、内容や違いを理解した上でカウンセリングを行います。不妊ピア・カウンセラーには「寄り添いたい」という想いだけでなく、心理学的な知識と技術が求められます。

「不妊ピア・カウンセラー養成講座」では、当事者のサポートに必要な心理学の知識や技術を学ぶ
「不妊ピア・カウンセラー養成講座」では、当事者のサポートに必要な心理学の知識や技術を学ぶ

――当事者の支援以外にも、さまざまな活動を展開していますね。

国政への働きかけにも力を入れています。先に述べた不妊治療への保険適用については、累計11万筆を超える署名を集めました。しかし、保険診療のみを受ける人はまだ半数に満たず、自治体によってサポート体制に差があるなど課題は残っています。2023年5月には、これらの改善を求める要請書を提出しました。

治療に保険を適用できる回数(40歳未満は6回まで)と年齢(43歳未満)に制限があり、その撤廃・緩和にも声をあげています。「 Fine」は高齢出産を奨励するわけではありませんが、制限があるために治療をあきらめなければならないのは制度としても歪みがあると思っています。あくまでも選択する権利は、本人にあると考えています。

国政にも積極的に働きかけ。野田聖子、和田政宗議員と(2021年)
国政にも積極的に働きかけ。野田聖子、和田政宗議員と(2021年)

企業で話をする機会も増えました。先に述べた「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート」では、職場に不妊治療をサポートする制度があるという回答は20%にとどまりました。

企業では「不妊は夫婦間の問題」という認識が多く、理解が進んでいないため、仕事と不妊治療を両立できず退職や休職を余儀なくされるケースも少なくありません。一方で、社員の育児や介護をサポートするケースは増えており、その延長線上で不妊治療のサポートも十分に可能であると伝えています。

医療機関との良好な関係づくりも、大切な取り組みです。「 Fine」は設立翌年の2005年から、JISART(日本生殖補助医療標準化機関)に参加しています。JISARTは不妊治療を専門とするクリニックが立ち上げた団体で、治療の質を上げるためのガイドライン作成や審査を行なっています。

その審査員に患者支援団体の代表として「 Fine」が加わり、実際にクリニックを訪ねて、治療を受ける当事者の目線から感じたことや改善してほしい点を伝えています。

「子どもを授かる」以外の選択肢も尊重される社会へ

――若い世代への啓発活動にも、力を入れているそうですね。

大学生から社会人になりたての層を対象に、セミナーなどを行なっています。早いうちから正しい知識と情報を持っていれば、将来不妊に直面したときに納得の行く決断や選択ができると思うからです。

まだ結婚や妊娠に実感を持てない若者も多く、伝え方には工夫が必要だと痛感しています。たとえば、不妊治療をしたものの流産を経験した当事者もいます。そうした経験を伝えながら「生命の大切さ」という切り口から興味を持ってもらえるコンテンツができないかと考えています。

―― Fine」は2024年で設立20年を迎えました。不妊や不妊治療を取り巻く社会の状況に、進展はありましたか。

選択肢の多様化は、着実に進んでいると思います。不妊治療を経て子どもを授かる以外にも、治療を受けずに自然に授かるのを待つ、養子や里子を迎える、夫婦2人の人生を歩むなど、さまざまな選択をするカップルが増えています。

しかしながら「子どもを授かる」ことが人生のゴール、幸せと考える風潮がいまだに強いことは否めません。子どもを持たない決断も含め、あらゆる選択が全て同じように尊重される社会にしていきたいですね。

そこを目指すためにも「グッドガバナンス認証」の取得(2023年6月)はターニングポイントになりました。企業や自治体から業務委託や講演の依頼を受ける機会も増えており、「 Fine」が担う社会的な役割はますます大きくなるでしょう。

今後活動を拡充していくには、ガバナンスがとても重要です。認証の取得に向けた手続きを行う中で、すでに自分たちが達成できている点や、これから力を入れるべきポイントを明確にできたのはとても良かったと思います。

〈PR〉公益財団法人日本非営利組織評価センター(JCNE)

「グッドガバナンス認証」とは

公益財団法人日本非営利組織評価センター(JCNE)が、第三者機関の立場からNPOなど非営利組織の信頼性を形に表した組織を評価し、認証している。「自立」と「自律」の力を備え「グッドなガバナンス」を維持しているNPO を認証し、信頼性を担保することで、NPO が幅広い支援を継続的に獲得できるよう手助けをする仕組みだ。詳しくはこちらへ

hieirisosshikihyoukasenta

公益財団法人 日本非営利組織評価センター

日本非営利組織評価センターは、NPOの組織評価を行う日本で初めての第三者審査機関です。  グッドガバナンス認証マークはNPOの「信頼の証」。財務が健全である、労務管理は法律に準拠している、不正を防止する仕組みがあるなどの視点に基づく審査を行っています。SDGs達成に向けた協働先、社員のボランティア参加先にもおすすめです。

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キーワード: #SDGs#ダイバーシティ

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