なぜ日本企業から「イノベーション」が起きないのか

記事のポイント


  1. なぜ日本企業から「イノベーション」が起きないのか
  2. 経営学者の入山章栄氏は「知の深化」に偏っているからだと説明した
  3. 「知の探索」にも取り組み、様々な知見を取り入れることを強調した

経営学者の入山章栄・早稲田大学大学院教授はこのほど、都内のセミナーに登壇し、「『両利きの経営』がイノベーションの源泉だ」と強調した。イノベーションを生む新しいアイデアは、既存知の組み合わせでできていると捉え、「知の探索」と「知の深化」の両立を指摘した。入山教授は、日本企業でイノベーションが起きづらい要因は、「知の深化」に偏っているからだと話した。(オルタナ総研フェロー=室井 孝之)

カンファレンスに登壇した入山教授

入山教授は2月28日、TOKIUM(東京・中央)が開いた「TOKIUM VISION 2024」に登壇した。「今、日本企業に必要なイノベーションマインド」をテーマに、40分間の対談セッションに出た。入山教授が話した要旨は次の通り。

■なるべく広い世界から「知」を獲得せよ


日本はPER(株価収益率)が問題だ。PERは、企業の株価が利益水準に対して割高なのか、割安なのかを判断するために用いられる指標である。

PERが低い場合は、市場がその企業の将来の成長性に対して懐疑的な見方をしていることを意味する。すなわち、世界の投資家から、イノベーションを起こす可能性は低いと思われているのだ。

なぜ日本企業はイノベーションを起こしづらくなったのか。会社組織は複雑な要素が合理的に絡み合っており、どこか一つの要素だけを変えようとした場合、これまでうまくかみ合っていた他の要素から抵抗にあう。

これは「経路依存性」と呼ばれるものだ。そのため、イノベーションを起こしやすい組織に変革するには会社全体の改革が必要になる。

ダイバーシティ経営を例にすると、多様な人材を採用するには、新卒一括採用と終身雇用を辞めて、評価制度を変え、働き方改革をしなくてはならない。会社全体を変えることが必要なのだ。

イノベーションを起こすための、新しいアイデアは既存知の組み合わせでできていることが多い。約90年前、経済学者のヨーゼフ・シュンペーターは 「新結合」を唱え、このことを示した。

しかし、人間の認知には限界があり、目の前にあるもので組み合わせをするため、イノベーションが生まれにくい。

それ故、なるべく自分から遠く離れた知を幅広く見て持ち帰り、既存知と組み合わせることが必要になる。これがイノベーションの本質だ。

イノベーション理論として、「Ambidexterity(両利きの経営)」がある。なるべく広い世界から「知」を獲得する「知の探索」、既存事業を深める「知の深化」を両立させながら企業経営を行うことである。

知の探索と深化を高いレベルでバランス良く両立できる企業、経営者、組織、ビジネスパーソンはイノベーションを起こす確率が高い。この「両利きの経営」はいまや、世界の経営学でのコンセンサスだ。

一方で企業が短期的な成果を求め、既存事業の深化だけにリソースを傾けた結果、イノベーションが停滞することを避けねばならない。

知の探索は一見すると、無駄に見えやすい。しかし、知の探索をなおざりにすれば、中長期的にはイノベーションは起きづらい。知の深化に偏ってもいる。

イノベーションを起こす為には、「自分自身を移動させ、認知の外に行き、遠くで得た知見を現在あるものと組み合わせる」という両利きの経営が求められる。

muroi

室井 孝之 (オルタナ総研フェロー)

42年勤務したアミノ酸・食品メーカーでは、CSR・人事・労務・総務・監査・物流・広報・法人運営などに従事。CSRでは、組織浸透、DJSIなどのESG投資指標や東北復興応援を担当した。2014年、日本食品業界初のダウ・ジョーンズ・ワールド・インデックス選定時にはプロジェクト・リーダーを務めた。2017年12月から現職。オルタナ総研では、サステナビリティ全般のコンサルティングを担当。オルタナ・オンラインへの提稿にも努めている。執筆記事一覧

執筆記事一覧
キーワード: #サステナビリティ

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..