「企業のエシカル通信簿」、ファストリの高評価が際立つ

記事のポイント


  1. 38の市民団体が共同で第7回「企業のエシカル通信簿」を発表した
  2. 調査対象の業界は毎年変わるが、今年はアパレル業界を評価した
  3. ファストリの高評価が際立ち、オンワードやTSIは低評価だった

市民団体連合である「消費から持続可能な社会をつくる市民ネットワーク」(SSRC)は3月18日、第7回「エシカル通信簿」(2023年)を発表した。今回はアパレル業界が対象で、ファストリの高評価が際立った。TSIホールディングスやオンワード、ワールドは低評価だった。(オルタナ編集長・森 摂)

企業のエシカル通信簿 2023
エシカル通信簿(2023年度)はTSIなど下位3社の低迷が際立った

■調査対象は日本に本社を置くアパレル10社

「企業のエシカル通信簿」は2016年以来、毎年、異なる業界を選び、環境や人権、フェアトレードなど「企業のエシカル度」を調査し、発表してきた。

今回、調査対象となったのは、ファーストリテイリング、しまむら、アダストリア、良品計画、ワコールホールディングス、ワールド、TSIホールディングス、オンワード、青山商事、ユナイテッドアローズの10社だった。アパレル業界が調査対象になったのは、「第1回エシカル通信簿」(2016年)以来、7年ぶり2回目だった。

「企業のエシカル通信簿」の調査項目は下記の通り(数字は小項目数)。

・サステナビリティ体制(19)
・消費者の保護・支援(18)
・人権・労働(32)
・社会・社会貢献(16)
・平和・非暴力(7)
・アニマルウェルフェア(17)
・環境(67)

■10社のうち3社との面談は実現しなかった

SSRCは上記の項目について、ウェブなどの公開情報をもとに調査を作成した。その調査票を対象企業に送った上で、面談を重ね、調査の精度を高めた。10社のうち3社との面談は実現しなかった。

調査の結果は下記の通り(左からサステナビリティ体制、消費者の保護・支援、人権・労働、社会・社会貢献、平和・非暴力、アニマルウェルフェア、環境。合計点はオルタナ編集部による計算)

ファーストリテイリング 9, 7, 8, 6, 4, 4, 7 (合計点45)
良品計画8, 6, 7, 5, 1, 5, 5 (合計点37)
ワコールホールディングス 9, 8, 8, 5, 2, 1, 4 (合計点37)
青山商事 6, 5, 7, 4, 2, 1, 3 (合計点28)
アダストリア7, 5, 6, 2,1, 1, 3 (合計点25)
ユナイテッドアローズ 7, 6, 5, 2, 1, 1, 3 (合計点25)
しまむら 5, 3, 5, 2, 2, 1, 2 (合計点20)
ワールド 5, 2, 4, 2, 2, 1, 2 (合計点18)
オンワードホールディングス 4, 3, 4, 2, 1, 1, 2 (合計点17)
TSIホールディングス 2, 2, 4, 2, 2, 1, 2 (合計点15)

■青山商事やしまむらが評価を伸ばす

今回、初めての評価対象になったのがTSI、ユナイテッドアローズ、アダストリア、良品計画、ワコールの5社だった。ファストリ、青山商事、しまむら、ワールド、オンワードの5社が2回目の評価となった。

ファストリは前回に続いて高い評価を維持した。青山商事は「人権・労働」分野で評価点が1から7に大きく伸びるなど、各分野で評価を伸ばした。しまむらも、前回調査と比べて、特に消費者の保護・支援分野で評価を高めた。

その他、SSRCによる特記事項は下記の通り。

■NGOからの抗議の有無を2社が開示

[サステナビリティ体制]

・「内部通報しやすい環境整備」として、良品計画は、労働組合を通報窓口に指定している

・「マテリアリティ」(重要課題の特定)において、10社のうち6社はステークホルダーの声を聴いている

・サステナビリティの従業員教育は、ファーストリテイリング、青山商事、ユナイテッドアローズが実施していた

・サプライチェーンの基準違反の事例について、ファーストリテイリングとワコールは、社外からの指摘などの情報収集をしている

・ステークホルダーエンゲージメントの結果については、ファーストリテイリング、良品計画、ワコールの3社は経営や製品・サービスに反映している

・NPO・NGOなどからの抗議について、ファーストリテイリングとワコールは、その有無を公表している

[消費者の保護・支援]

・なぜ消費者志向経営を行うのか、社内(従業員)及び社外に向けて発信したり社員に浸透させることが重要。ファーストリテイリング、アダストリア、良品計画、ワコール、青山商事、ユナイテッドアローズが研修による浸透に取り組んでいた

・サステナブルコットンへの切り替えなど課題解決型商品は、8社で提供していた

[人権・労働]

・女性活躍、子育て支援、障害者雇用に関しては、全企業が何らかの取組みを実施していた。

・子育てサポート企業「くるみん」認定は4社(ワコール、オンワード、青山商事、ユナイテッドアローズ)

・女性管理職比率も各社向上していた。

・障害者雇用率はほぼ全社が法定以上の2.4%を達成。障害者雇用策も実施している。

・LGBTQ+への何らかの取組みは7社が実施(FR、アダストリア、良品計画、ワコール、TSI、青山商事、UA)

・うち4社は、「同性パートナーを異性配偶者と同等に扱う」などの配慮している

■「SBT認証は取得したが、ネット・ゼロ方針なし」

[社会・社会貢献]

・NGO/NPOとの対話の場は4社があり、6社が社会全体で課題解決の啓発を実施している。

・オンワードは衣料品循環システムの構築を目指す活動「オンワード・グリーン・キャンペーン」を実施、ユナイテッドアローズは国連貿易開発会議(UNCTAD)らとともに「Ethical Fashion Initiative」を立ち上げ困難な経済・社会状況下にある女性にトレーニングを行い、オリジナル企画商品の販売を行っている。

[平和・非暴力]

・平和・非暴力に関する方針や計画を持つ企業はなかった

・紛争地域に関わる調達方針は1社だけだった

・全体として平和・非暴力への意識が低い

[アニマルウェルフェア]

・2016年調査と比べ、 認証を利用する企業が増えた

• リサイクルダウンやヴィーガンレザーを利用する取り組みが目立った

• 取り組みの進む企業は、動物の福祉の問題をはらむ素材から離れる傾向が見られた

・全体としてアニマルフリーを目指すものの、「ポリシー化」する企業は少ない

[環境]

・環境コミュニケーションについては、CSR担当部署と合同の部署があるのは8社だが、専任役員がいる企業は2社にとどまった。報告書については、CSR報告書と環境報告書を合わせたものの作成が4社、データブックなどにとどまるのが3社であった。各環境の課題に対し、現状把握・目標・取組みがわかる内容が求められる。

・EMSによるPDCAサイクルを回しているのは3社にとどまった。サプライチェーンへの推奨も3社にとどまった。監査については内部監査が3社、外部監査が4社が実施していた。全社員を対象とした環境研修は、どの企業も行われていなかった

・社内で取り組みをしていても、方針が公表されていないため、評価(加点)できない企業があった。(例)SBT認証を取得しているが、「ネット・ゼロに関する方針を公表していない」

・特にネット・ゼロについて、消費者に向けた情報開示が乏しい一方で、投資家に向けたTCFDへは9社が賛同していた。環境への配慮ができていても、企業側が認識不足により、自社を正しく評価していない場合があった

SSRCはSDGs(持続可能な開発目標)の成立直後である2016年1月に発足した。環境・人権・消費者・アニマルウェルフェアなどの分野を専門にする全国38の市民団体が参画し、「企業のエシカル通信簿」などの企業調査や情報発信、セミナーを開くなどしている。

特にSDGsのゴール12「「持続可能な消費と生産(つくる責任 つかう責任)」や、ゴール17「持続可能な生産消費/パートナーシップ」をベースとして持続可能な消費を「エシカル消費」と位置づけた。その実現のために1)意識改革と教育を通じて消費者を巻き込む 2)基準とラベルを示して、消費者に適切な情報を提供するよう努めている。

SSRCはエシカル消費について、具体的には「フェアトレード製品」「省エネ性能の優れた製品」「再エネ電力会社」「有機、MSC、FSC製品」「CSR活動に熱心な企業」「人権や労働者を大切にする企業」などを消費者が意識的に選ぶこととした。

森 摂(オルタナ編集長)

森 摂(オルタナ編集長)

株式会社オルタナ代表取締役社長・「オルタナ」編集長 武蔵野大学大学院環境学研究科客員教授。大阪星光学院高校、東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。編集局流通経済部などを経て 1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。環境省「グッドライフアワード」実行委員、環境省「地域循環共生圏づくりプラットフォーム有識者会議」委員、一般社団法人CSR経営者フォーラム代表理事、日本自動車会議「クルマ・社会・パートナーシップ大賞」選考委員ほか。

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キーワード: #ビジネスと人権

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