カンコー学生服: 性の多様性にも配慮した制服づくり

記事のポイント


  1. 菅公学生服は、多様な性のあり方を尊重した制服づくりに力を入れる
  2. 性自認にかかわらず誰もが「自分らしく」いられる制服へと転換
  3. 学生生活を謳歌できる環境整備を支援する

■オルタナ76号「ジェンダードイノベーション」特集から

「カンコー学生服」ブランドを展開する菅公学生服(岡山市)は、多様な性のあり方を尊重した制服づくりに力を入れる。「詰襟(学ラン)」やセーラー服といった性差が顕著に出るものから、性自認にかかわらず誰もが「自分らしく」いられる制服へと転換。学生生活を謳歌できる環境整備を支援する。(オルタナ副編集長・吉田 広子)

カンコー学生服はジェンダーフリーの制服を提案する
カンコー学生服はさまざまなジェンダーフリーの制服を提案する

文部科学省は2015年4月、全国の教育委員会や学校に対し、自認する性別の制服や体操着の着用を認めるように通知した。LGBTQなど性的マイノリティーの10代は自殺念慮(自死で人生を終わらせたいと思う気持ち)が強いとされる。

このため同省は教育現場での具体的な配慮事例をまとめ、その一つに学制服を挙げた。

男女差が顕著な学校制服である学ランやセーラー服は、戦後の日本で普及した。男女ともにブレザーが主流になってきたものの、男子はスラックス、女子はスカートが定番だ。

そうしたなか、多様性に配慮した制服づくりに取り組むのが菅公学生服だ。きっかけは文科省の通知。「インクルーシブ(包摂的)・ユニフォーム」を掲げ、「男らしく・女らしく」から「自分らしく」への転換を図った。

(この続きは)
■性差のある制服が中高生の悩みの元に
■カギは「性差が出ないデザイン」と「組み合わせの自由化」

■性差のある制服が中高生の悩みの元に

「自認する性別の制服を着られるとはいえ、戸籍上男子の生徒がセーラー服を着たり、女子生徒が学ランを着たりすることに、周囲の人がどこまで理解を示してくれるかは判らない。当事者の望まない『カミングアウト』につながってしまう恐れもある」

同社の川井正則・カンコー学生工学研究所所長は、多感な時期の若者たちにどう寄り添っていくかに腐心。ヒアリングを重ねた。

「当事者の多くが、中学校入学前に性別に違和を感じている。性差のある制服を着ないといけなくなることが、悩みの元になることもある。性差のある制服を好むかどうかは、トランスジェンダーに限った話ではない。制服の多様性は、どの生徒にとっても必要なのだと実感した」

■「性差が出ないデザインの採用」と「組み合わせの自由化」

見た目で差が出ないように体型に合わせたスラックスの開発を行う
見た目で差が出ないように体型に合わせたスラックスの開発を行う

生物学的な性差があるなかで、どのように多様性を取り入れるのか。手法としては、大きく分けて「性差が出ないデザインの採用」と「組み合わせの自由化」がある。

例えば、上は性差が出にくいブレザー、下はスラックスとスカートの選択式、色柄は統一するといった具合だ。 

女子はウエストとヒップの差があるため、女子体型に合わせたスラックスを開発。見た目の差が出ないようにした。女子スラックスを採用する学校は3千校を超えるまでに菅公学生服なった。男子はウエストとヒップの差が小さいため、ウエストのサイズが合えばスカートをきれいに履けるという。

ただ、川井所長は「制服のデザインだけを変えても、カミングアウトしにくい状況は変わらない。多様性を認め合える環境づくりが必要だ」と語る。そこで同社は、生徒や教職員向けに性の多様性に関する講演会を各地で開く。

インクルーシブな制服づくりは性・ジェンダーだけにとどまらない。障がいがあっても着脱しやすい制服や、宗教に配慮して肌や髪を露出させない制服、肌への刺激が少ない素材の採用など、多様性への配慮は広がりを見せている。

「制服をなくすという考え方もあるが、制服には『平等性』や『経済性』のメリットがある。みんなで同じ制服を着ることの楽しさや安心感もある。『自分らしく』いられる制服はどうあるべきか、研究を続けたい」(川井所長)

yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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キーワード: #ジェンダー/DE&I

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