カーボン・クレジットの是非で国際団体SBTiが内部対立か

記事のポイント


  1. SBTiは、企業のネットゼロ目標の科学的根拠を認定する国際イニシアティブだ
  2. SBTiは今月、カーボン・クレジットの使用を認めるルール緩和を発表した
  3. しかしスタッフらの猛反発で、「これまでの方針に変更なし」と発表した

SBTi(科学に基づく脱炭素目標イニシアティブ)は、企業などが科学的根拠に基づいてネットゼロ目標を設定するのを支援する国際イニシアティブだ。日本でも1000社を超える企業がSBTの認定を取得(または取得をコミット)している。そのSBTiが、スコープ3の温室効果ガス(GHG)排出量の削減について、カーボン・クレジットの使い方に対するスタンスを二転させた。(オルタナ副編集長・北村佳代子)

カーボン・クレジットを巡りSBTiは内部対立か

■SBTiからの認定取得は「ゴールドスタンダード」に

SBTiは、2050年までに世界の気温上昇を1.5度未満に抑えるというパリ協定の目標に沿った、科学的根拠に基づく排出削減目標を策定・検証する国際イニシアティブだ。

2015年パリ協定調印直後に、WWF(世界自然保護基金)、CDP、世界資源研究所(WRI)、国連グローバル・コンパクトによる共同イニシアティブとして発足した。科学的知見に基づき、パリ協定と整合した排出削減目標「SBT(科学的根拠に基づく目標)」の認定を行う。

パリ協定で定めた「地球温暖化を1.5度未満に抑える」目標に向けて、企業が科学的根拠に基づく気候変動目標を設定する上で、SBTiからの認定取得は「ゴールドスタンダード」になっている。

2024年4月8日現在、認定取得・コミットという形でSBTiに参加した企業は、世界全体で7921社(日本企業は1091社)に上る。世界の4671社(日本企業は923社)は、その排出削減計画がパリ協定の1.5度基準に合致しているとの認定をSBTiから取得している。

■SBTiスタッフにとっても「寝耳に水」だった

スコープ3とは、企業が自ら直接排出している温室効果ガス(スコープ1、スコープ2)以外で、企業の事業活動に関連するバリューチェーン全体でのGHG排出量を指す。

SBTiは4月9日、「SBTi理事会の声明」という形で、企業がスコープ3のGHG排出量を削減するために、科学的根拠に基づく方針、基準、手順による適切な裏付けがあれば、カーボン・クレジットを含む「環境属性証明書」を使用できるとした。

スコープ3とは、企業が自ら直接排出している温室効果ガス(スコープ1、スコープ2)以外で、企業の事業活動に関連するバリューチェーン全体でのGHG排出量を指す。

SBT(科学的根拠に基づく目標)ではこれまで、企業のスコープ3のGHG排出量は、事業やサプライチェーン・パートナーに直接関連して削減しなければならないと規定し、カーボン・クレジットを使ったオフセット(相殺)は認めていなかった。

そのため、この突然の発表は、大きな方針転換として受け止められた。SBTiスタッフらにとっても、この発表は寝耳に水だった。

■公表から3日後には声明を撤回
■クレジット頼りの安易な削減は脱炭素を遅らせる
■オフセットの認定巡り、米政府から要請も

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北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

オルタナ副編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部。

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キーワード: #脱炭素

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