伊藤のいわばプライベートフィルムは、町を支える現場を心のままにしかし丹念に追いかける。2つの伝統家屋はリノベーションされ、古色は保ちつつ現代の装いで再生する。
土を巧みに活かして防水性を持たせる瓦葺き。乾燥して扱いやすい古材による柱の根継ぎ。シックな味わいのべんがら柿渋塗り。これら伝統工法の手順は、次の世代のため記録が取られる。この住まいを支える取り組みに尽力するのが「八女町並みデザイン研究会」の中島孝行理事長だ。
もうひとりのキーマンは「八女町家再生応援団」の北島力代表で、住まうことを助ける役割。
移住希望者の家探し、空いた建物の有効活用に草刈りの保全と仕事は煩雑で多様だ。町並み保存はおしゃれなリノベーション・カフェなど、とかく「光」が強調されるが、映像は日々の地道な取り組みの大切さを伝える。利便性と行政の説明不足から保全に反対する住民の声も紹介されている。意見の違いで線引きしない、同じ町に住むゆえの監督の温かいまなざしだ。
町家の活用事例として、伝統工芸品のショップ、高齢者のデイサービス施設などが紹介される。後者を経営する梅木隆さんは茨城県から親子3人での移住で、「歩ける範囲内に八百屋やカフェがある。福岡の他は車社会だが、ここだけは歩く文化が残っている」と語る。もとの住まい近くの学校には除染による除去土壌の袋が山積しているが、その情景はゆっくり無理のない生き方を求める八女の福島との対比になっている。