エコ賃貸を始めてみたが、エコビジネスは難しい。(1)[小林 光]

住宅としての通常のスペックは以上だが、エコ賃貸としてのスペックは以下のとおりである。

まず熱の漏れを示すQ値では、東京地域に適用される次世代基準の2.7に対して、実測が1.8以下と、熱の漏れを3分の1カットした高断熱住宅である。この住宅は、基本は、へーベルハウスであるが、断熱材を増やし、鉄骨のヒートブリッジを丹念につぶし、さらに、窓はすべてアルゴン入りの複層ガラス枠断熱サッシュを用いた。これによって、東北地方北部にあっても十分な暖かさを保てる断熱性能を得た。

さらに、省エネ面では、給湯器が賃貸としてはまだ珍しいエコジョーズ(潜熱回収型の給湯器)、照明は、すべて電球色のLED。さらに、16系統の電力消費に加え、ガスや水道の消費量もリアルタイムで測って表示するHEMSを備えている。

ついでながら、85平米の庭は、コンクリートでたたかず、天空率の大きな緑被になっている。植栽は、多摩丘陵や武蔵野をイメージした郷土種によるビオトープになっているが、このことにより、ヒートアイランド化を防ぎ、冷房需要を削減している。

創エネ面では、陽当たりのよい陸屋根に1軒当たり2.8kWの太陽光パネルを貼っている。賃貸では、往々、家主が太陽光パネルからの発電を独占し、余剰とは言いつつFIT制度を利用して発電のほとんどを高値で系統電力へ売却し、益金を賃貸建設費の償還に充てている。我がエコ賃貸は、そうではなく、借主・住まい手が、太陽光発電電力を使い、余れば、系統へ売却し、収益するようにした。

それは、使用権が誰に帰属しようが、パネルの発電量は変わらないものの、発電電力を売ることができれば、住み手は、節電のモチベーションを持ち、それゆえ、世の中のCO2排出量は減ることになることに着目したからである。この太陽光発電電力は、仮に、日中に系統電力が災害などで途絶した場合、自立運転をして、住み手の室内の特別のコンセントに給電される。

このように、エコは、災害へのレジリエンスの機会を増やす。この羽根木テラスBIOでは、各軒2.8kWの太陽光パネルに加え、共用の1.6kWのパネルも置かれている。

これが生む電力は、まずは、7kWhのリチウムイオン電池に溜め、平時は、夜間の屋外常夜灯などに使っているが、災害などによる系統途絶の非常時は、住み手にも使えるようになっている。ここには井戸があるが、そのポンプは常時リチウムイオン電池から給電することになっていて安心感を高めている。

家主が自ら言うのも恥ずかしいが、高度な環境スペックである。この高度な環境スペックの賃貸2軒には、しかし、(本稿執筆時点では)入居してくださった方が1軒しかいないのである。(ちなみに入居された方は、自然エネルギーに詳しい方と聞く。)

環境に良い商品だからといって、物を売ることとはいかに難しいか、実感させられた。

このコラムの次回では、エコ賃貸をなぜしようと考えたのか、その辺りから振り返って、直ちにはお客様がいなくとも、この商売を続け、可能であれば改良していきたい理由を説明しよう。

小林 光(こばやし・ひかる):
慶應義塾大学教授
1949年生まれ。慶應義塾大学卒業後、環境庁(当時)入庁。環境と経済、地球環境を主に担当する。2011年に退官してからは、慶応義塾大学大学院と環境情報学部の教授を務める。

hikaru

小林 光(東大先端科学技術研究センター研究顧問)

1949年、東京生まれ。73年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、環境庁入庁。環境管理局長、地球環境局長、事務次官を歴任し、2011年退官。以降、慶應SFCや東大駒場、米国ノースセントラル・カレッジなどで教鞭を執る。社会人として、東大都市工学科修了、工学博士。上場企業の社外取締役やエコ賃貸施主として経営にも携わる

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