これについては、より原始的なイヌである、タヌキのほうが、進化による「特殊化」が少ない分、人間によって改変された二次的・三次的な自然界では適応力が高いから、と説明された覚えがある。キツネのほうが毛皮獣としての価値が高く、狩猟圧が高かったから、という説も聞いた。
毛皮といえば、帝政ロシアのシベリア開発に、毛皮資源を求めてとの側面があったことは広く知られている。極東に達したロシア人は、アライグマに外見の似た動物を目にし、この毛皮をヨーロッパで販売するにあたり、ウスリーのアライグマ、「ウスリアンラクーン」「ウスリーラクーン」と名づけた。
1920年代頃、ヨーロッパロシアで毛皮獣としての飼育が始まり、飼育施設から逃げ出したタヌキは、ここでも原始的イヌならではの適応力を発揮し、短期間のうちに、東ヨーロッパから西ヨーロッパにまで分布を広げていく。飼育は廃れてしまうが、理由は、狂犬病対策などのほか、餌を与えて育てなくとも周りにたくさんいるから、ということだったとも聞く。
東ヨーロッパでは今でも毛皮獣として狩られながら生態系や経済的資源の一角を占めるという。北欧フィンランドに広がったタヌキは、フィンラクーンとも呼ばれている。他方、西欧のタヌキについては、最近はあまり消息を聞かない。
あるいは、日本でラクーン、すなわちアライグマが侵略的外来種として捕獲され続けているように、ウスリアンラクーン、タヌキも西欧では地味に駆除され続けているのだろうか。
昨年(2014年)末、NHKのテレビ番組で、シンガポールの動物園に日本から贈られたタヌキの一群が、来園者の人気を集めていることが紹介されていた。照明を落とし、夜間の動きが活発な状態を観察できるようにするなど、展示の工夫もあるようだ。
このタヌキの替わりに日本に贈られた動物は、コビトカバだったという。コビトカバと言えば、ジャイアントパンダ、オカピ、ボンゴなどと、世界3大珍獣、4大珍獣とも称される動物である。コビトカバとの交換でシンガポールに行ったのか、と思いながら画面のタヌキを見ると、何故か心なごむものを感じた。