■診療報酬以外は寄付で運営
NPOは06年に発足。8年かけて13年春、神戸に小児がん専門治療施設「チャイルド・ケモ・ハウス」を開所させた。
施設の最大の特徴は、親子で安心して治療に臨める環境を作ることを目的に作られている点だ。病室は広々としていて、親が食事を作ることができるキッチンも備える。検査の恐怖を和らげるよう配慮した処置室、家族同士で交流できる応接室など、様々な配慮が盛り込まれている。
もう一つの特筆すべき点は、充実した医療環境を揃えながら、診療報酬以外は寄付によって運営していることだ。これは「寄付による運営が『子どもは社会で支える』という理念の重要性を訴えることにつながる」(146頁)との考えによる。医療制度の不足を民間の篤志が補う形だが、小児がんや難病の当事者を社会がどう支えるのかについて、この施設は一石を投じているだろう。
本書は13年10月に刊行され、現在までに5刷を重ねる。チャイルド・ケモ・ハウスの取り組みはマスメディアにも取り上げられ、小児がん治療への社会的関心を喚起し続けているのは間違いない。あえて言えば、紆余曲折もあったであろう8年間の軌跡が、ややあっさりと描かれた印象を受けるのが惜しまれる。
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