吐き捨てガムには細菌がいっぱい

路上に広がる吐き捨てガム

路上に点々と広がる黒い斑点。これが吐き捨てられたガムだということは意外に知られていない。街の美観を損ねるだけでなく、公衆衛生上問題があることが分かった。吐き捨てられたガムには1グラム当り100万個から1000万個の細菌が存在するという。つくば国際大学医療保健学保保健栄養学科の熊田薫教授が、10月28日に第69回公衆衛生学会で研究結果を発表した。

都市の歩道、駅のホームや広場などには、路上に捨てられたガムが数多く存在する。繁華街の交差点や待ち合わせ場所など、多いところでは1メートル四方に50個以上の吐き捨てガムがある。街を歩くだけではなかなか気付かないが、ふと下を見れば路上に浮かぶ黒い斑点の多さに驚くだろう。

熊田教授は、2009年5月から1年以上にわたり、東京都新宿区歌舞伎町の約400平方メートルで毎月600個以上のガムを採取し、菌数測定を行った。その結果、吐き捨てられたガムには、100万個から1000万個の細菌が存在することが分かった。

唾液自体に比べ、保水効果のあるガムの中では細菌が長時間存在し続けることが推定されるという。人の唾液がガムに付着していることから、体内に常在するブドウ球菌、レンサ球菌が存在する可能性が高い。

健康な人にいる菌は、原則として、本人および健康な人に対しては影響を与えない。しかし、免疫などが低下している人に対しては病原性を発揮することもある。

また、ブドウ球菌属の中の黄色ブドウ球菌のなかには、皮膚や口腔では病原性がなくても、傷口を化膿させたり、食品中で増殖して食中毒を引き起したりするものもあるそうだ。

菌の特定が済んでいないので、吐き捨てガムに人体に大きな悪影響を及ぼす結核菌やウイルスが存在するとは断定できない。しかし、「ガムをかんでいる人が全て健康な人とは限らない。人の唾液が病院で医療廃棄物として廃棄されているように、吐き捨てガムが100%安全だとは言えない」(熊田教授)という。

公衆衛生学会で研究結果を発表したつくば国際大学の熊田薫教授

東京都内の自治体では、タバコの吸い殻や空き缶、ガムなどのポイ捨て防止のため、ポイ捨て禁止条例を制定している。新宿区は、ガムの「ポイ捨て」に対して区条例で2万円以下の罰金を定めているが、現状では取り締まりきれていない。

そこで、立ち上がったのはNPO法人環境まちづくりネット(荻野善昭理事長)。3年ほど前から、毎週水曜日、新宿区の職員と一緒に歌舞伎町のガム取り清掃をしている。

荻野さんがガム取りを始めたのは、30年前にさかのぼる。当時経営していた衣料品店の軒先で、靴底にガムが付いて汚れたという通りすがりの人から苦情を受けたことがきっかけだった。店の前を見てみると、たくさんのガムが吐き捨てられていることに気付いた。

それから地道にガムの清掃活動を始め、06年にはNPOを立ち上げた。さらに、07年には、荻野さんが経営する株式会社オギノ(東京・新宿)で、筑波大学産学リエゾン共同研究センター・藤森憲教授とガム取り溶剤「ガム取り番」(50ミリリットル、税込1260円)を開発し販売を始めた。

環境汚染物質や人体に有害な有機溶剤は含んでおらず、吐き捨てられたガムを除去する作業者の安全性を高めるため、除菌剤も配合している。

路上に貼り付いたガムをはがすには思った以上に力が要る。足腰にも負担がかかる。そこで、立ったままガムを除去できる「ガム取り棒」(税込8610円)も開発した。これらの商品は、東京都が認定する「東京都トライアル発注認定制度」の認定を受け、新たな事業分野の開拓を期待されている。

荻野さんは、「まずは路上からガムがなくなるように、街をきれいにしていきたい。将来は、ガム取り清掃で、シニア、ニート、フリーター、知的障がい者らの新規雇用を作ることができれば」と抱負を語る。(オルタナ編集部 吉田広子)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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