緊急連載「石灰石ペーパー類」は本当にエコか(上)

海洋プラスチックごみなどの環境問題を契機に、プラスチックや紙の代替品として「石灰石ペーパー類」が注目されている。いまや多くの企業や自治体が導入し始めた。だが実は、石灰石ペーパー類による環境負荷やリサイクル阻害要因を疑問視する声も少なくない。(オルタナ編集長・森 摂、編集委員・栗岡理子)

■プラスチック汚染をイノベーションで解決できるか

BioJapan 2019において、神奈川県のブース「SDGs×Kanagawa」に展示された各種LIMEX製品(2019年10月11日、パシフィコ横浜にて撮影)

いまや海洋プラスチックごみ問題は、気候変動と並ぶ世界最大の環境問題になった。世界の海に存在しているといわれるプラスチックごみは、合計1億5,000万トン。そこに、少なくとも年間800万トンが、新たに流入していると推計されている。

安倍晋三首相は2019年10月、京都市で開いた国際会議「STSフォーラム2019」で基調演説を行い、「プラスチックは敵視すべきでなく、適切な管理が必要だ」と述べるとともに、プラごみによる海洋汚染について「イノベーションで解決への道を開く」と強調した。

しかし、海洋プラスチック汚染問題の解決は容易ではない。近年は、海だけでなく陸域にも大量のマイクロプラスチックがたまり、私たちの食事や、私たちが吸う空気にもプラスチックの微粒子が入っていることが分かってきた。

そんな中、石灰石ペーパー類が注目を浴びている。もともとは台湾メーカーが2006年に開発した「ストーンペーパー」が始まりだが、最近では「LIMEX」(ライメックス)という製品が大きく販売量を伸ばしている(写真)。

■石灰石とプラスチックの複合品

LIMEXは、TBM(東京・中央、山﨑敦義社長)が販売する製品で、石灰石とプラスチックの複合品だ。同社ウェブサイトは「LIMEXは、石灰石に由来する炭酸カルシウムなど無機物50%以上と、ポリプロピレンなどの樹脂の複合材料であり、紙やプラスチックの代替となる日本発の新素材」と説明する。

経済産業省の「産業技術メールマガジン」によると、LIMEXは粉砕した石灰石と樹脂を均一に混ぜ合わせることで、紙の様にもプラスチックの様にも作ることができ、どちらの代わりとしても使えるという。

紙の代替品としてのLIMEXは、ポリプロピレンなど石油由来の樹脂約0.2〜0.4トンに石灰石約0.6〜0.8トンを載せて、合計1トンの「紙」を作る。

同社は以前、台湾で生産されたストーンペーパー(石灰石にポリエチレン樹脂を配合)を輸入販売していた。しかし、厚さなど品質が安定せず、コストも割高だったことから自ら改良した結果、「従来のストーンペーパーより大幅に軽く、品質も高く、しかも安くつくることができた」という(同社ウェブサイト)。

■「地球上の石灰岩がすべて熱分解すると気温300度上昇」

デザイン情報サイト「JDN」のインタビュー記事で同社社員がこう話している。

(ここから引用)「一般的な紙の製造過程には、大量の木と水が使われます。たとえば紙を1tつくるには、約20本の木と、約100tの水が消費されるんです。森林伐採や水危機リスクは地球規模で問題となっていることからもわかるように、このままではいつか、木と水資源が枯渇してしまうことは明らかです」

「そんな状況だからこそ、『石』を使うのがいい。どこの国でも普遍的にある資源ですし、将来的にみてもなくなることはまずないでしょう。日本でも約240億tの埋蔵量があり、つねに安価で入手できる、とても安定した素材なんです」(引用終わり)

確かに、石灰石(石灰岩)は地球上に豊富にあり、日本でも自給できる。だが、石灰石(CaCO3)に由来する製品を焼却した場合、必ず二酸化炭素(CO2)が発生する。さらには石灰石ペーパー類には石油由来の樹脂が含まれているので、そこから出るCO2も勘案しなければならない。

もちろん紙を燃やしてもCO2は発生するが、その由来は植物なので、もともと大気中に存在したCO2が大気に戻るだけだ(「カーボンニュートラル」の考え方)。だが、石灰石は化石燃料と同様、地中に埋まっていたものなので、燃やせば燃やす分だけ大気中のCO2が増えることになる。

石灰石ペーパーは寿命が長いため、廃棄や燃やす必要性が少ないとの意見もある。だが、図書館蔵書など長期保存される紙類は別として、日常生活で使われる紙類はいずれゴミ箱に行くのは必然だ。

「地球上の石灰岩がすべて熱分解したと仮定すると、気温が300度上昇するといわれる」(地球大紀行2;日本放送出版協会, 1987)。もちろん石灰石ペーパー類だけでそのような状況になることは考えられないが、その「温室効果」を甘く見てはいけない。

緊急連載「石灰石ペーパー類」は本当にエコか(中)
「石灰石ペーパー類」の環境負荷は本当にエコか(下)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

執筆記事一覧
  1. 西川ゆーき
    2022/04/01 7:45

    そもそも原料とかる石灰石を取るために爆薬や重機を使ってガンガンCO2を出し、水質も汚染しながら山を切り崩し大きな環境負荷を掛けることは良いのか?
    石油製品で無ければ何でも良しとされる風潮は良くないと思う。もっと本質(持続可能な社会)を考えてほしい。
    それを報じるメディアがもっと本質を考えて情報発信していくべきだと思う。

  2. NNNNN
    2022/03/01 3:40

    これは燃えるゴミで処分できるのでしょうか?

  3. イカサマ男爵
    2022/02/27 7:18

    新技術とは言えない代物ですね
    プラスチックに安い炭カルなどの鉱物混ぜたものは昔からあります。
    それを単に薄くしただけ

  4. とく
    2021/08/07 5:55

    全てが、とは言いませんが、新しい技術にありがちな、既得権益を損なう層からの横槍ですね。
    ですが、メーカーもそう言った声を予想して、大々的な展開をせず限定的な製品作りをしています。
    現状でも回収した紙類の中にクリアファイルなどは混入してるでしょうし、新規の森林伐採を置き換えたり、双方の協議で全て解決できる問題です。
    もちろん課題としては検討すべきですが、恐れず、有効に活用してこその新技術だと思います。

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