■「バスルーム法」への対抗が発端に

これらトイレ事情の変革は、2016年に米ノースカロライナ州で施行された「バスルーム法」に端を発した。米国の多くの州でLGBTQへの配慮や寄り添いの試みが進むなかで、同州では「生まれ持った性別以外の性のトイレ使用を禁じる」とする法案が、2016年3月に可決されたのだ(措置の一部は翌年に廃止)。

一方ニューヨーク市では、ジェンダー・アイデンティティによってトイレの使用を拒否する差別は2002年から違法となっており、「ノースカロライナ州の法律は公民権の侵害」と応戦。同市は2016年6月、ジェンダー・ニュートラルなトイレに向けた新法を制定した。

市内のレストランやバーなど1つしか個室がないタイプの公衆トイレで、「男性用」「女性用」など特定の性を表現するサイン(標識)を削除し、ジェンダー・ニュートラルなサインに変えることが法律で定められた。行政が自らリードして、トイレ改革が始まったのだ。

ニューヨークのビル・デブラシオ市長は、ノースカロライナへの旅行を自粛するように要請した上で、「我が都市はLGBTQの権利をめぐる戦いの発祥の地である。ニューヨークのすべての人々が尊厳をもって生きられるように、我々が戦いをリードし続ける」と宣言した。

ニューヨークでは1969年6月、同市内のゲイバー「ストーンウォール・イン」で、同性愛者が権利を主張するために警察に真っ向から立ち向かい、その後の抵抗運動につながる「ストーンウォールの反乱」が起きた。世界中で行われるレインボープライドのイベントやパレードの多くが6月に開かれるのは、この出来事がもととされている。

このように広がりつつあるジェンダー・ニュートラル・トイレだが、一方で、犯罪が多発する都市でもあるニューヨークでは「男女兼用は女性の安全を守るという点において最適な選択なのか?」と議論がなされていることもまた事実だ。

たとえば隠しカメラが仕掛けられたり、個室でいかがわしい行為が行われたりする可能性は否定できない。個室ドアは上下に空間が空いているものが多いが、まったく中が見えないタイプもあり、そうしたトイレは清掃担当者が定期的に見回るなど、安全で心地よい空間となるよう細心の注意が払われている。

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