「ひとり一票」の直接民主制で貧困を解決する

グッドガバナンス認証団体をめぐる① 自立生活サポートセンター・もやい

非営利組織による社会課題の解決への期待が高まるなか、組織の信頼性を保証する「グッドガバナンス認証」が広がっている。認証団体の一つが、生活困窮者の相談や入居支援などを行う特定非営利活動法人「自立生活サポートセンター・もやい」だ。同法人ではボランティアを含めスタッフが平等な1票を持ち、「直接民主制」で意思決定がなされる。背景を大西連理事長に聞いた。(聞き手:オルタナ編集長・森 摂、非営利組織評価センター・村上佳央、武内里実)

1 「ひとり一票」の直接民主制

「もともと全員ボランティアで活動がスタートした。メンバーや当事者が『やりたい』といった事業は積極的に応援し、議論を大事にして活動を進めている」と話す大西理事長

――活動への支援を広げていくために、どんなことを大事にしていますか。

大西:私たちの団体は、もともと全員ボランティアで活動をスタートしました。ホームレスの方がアパートを借りるための連帯保証人の提供として2001年もやいの事業が始まり、これまでに2400世帯の連帯保証人と緊急連絡先の引き受け600世帯の計3000世帯ほどの支援をしてきました。

活動を進めるなかで、全員が平等に一票を持って合議で物事を決めるボトムアップの体制で、メンバーや当事者が「やりたい」といった事業は積極的に応援するようにしています。議論を大事にすることで、そこから発展することが多いです。

――ひとり一票にする意味は、スタッフのモチベーションのためですか。

大西:それもありますし、実際ボランティアが提案する内容の価値が高いということがあります。学びになる生産的な意見やアドバイスをもらうことも多い。現在有給スタッフが12人、ボランティアが90人程で活動していて、月1回の会議に参加できないスタッフには、議事録を見られるようにしています。

――面白いガバナンス(組織統治)の在り方ですね。

大西:貧困や生活困窮支援の分野は、支援のあり方も「これが正しい」という正解がありません。例えば家賃を滞納した人の訪問は週1回がいいのか、月1回、それとも毎日がいいのか。答えはどこにもなく常に手探りのトライアンドエラーです。

最も大事にしているのは「現場」です。現場から見えてきたことを政策提言などの形で発信し、貧困を社会的に解決することを目指しています。そのためには色々な人の声や知恵を集めることが必要であり、それがリスクヘッジになるし、逆にうまくいったときのブーストにもなります。

――意見をまとめるのが大変そうですね。

大西:その通りです。会議とは別に議論する場をつくったり勉強会をやったり、プロセスにとてもコストがかかります。しかしボランティアスタッフは、賃金ではない対価のためにコミットしてくれています。活動が当事者のためになることや、自分のアイデアを実現すること、うまくいかないときは支え合えい、逆にうまくいったときはみんなで成果を分かち合える、そうしたプロセスをとても重視しています。もしかしたら結果以上に、かもしれません。

2 NPOが「宅建」を取得

NPO自らが賃貸住宅を仲介するもやいの「住まい結び事業」は、2018年5月の事業開始から2020年2月4日までに計149人からの相談があった(写真提供:自立生活サポートセンター・もやい)

大西: 2018年に、認定NPO法人として日本で初めて宅地建物取引業の免許を取り、「住まい結び」事業をスタートしました。

――なぜ自ら不動産仲介を始めたのですか。

大西:生活保護受給者がひどい物件をつかまされる事例が増えています。例えば東京都の生活保護住宅扶助額の上限は単身で5万3700円です。ユニットバス・6畳1Kくらいの物件は住めるというエリアでも、不動産屋に「ここしかない」と言われて、同額で風呂なし・トイレ共同・3畳に住んでいるといった例です。

「生活保護」や「精神障害」を理由に物件が候補から外されてしまい、内見もさせてもらえない。本人にも知識がなく、どう考えても不利な条件でも分からず契約してしまうという実態が多くあり、それを変えられないかと事業を始めました。

――採算はどうでしょうか。

大西:全然もうかりません…。仲介手数料の上限は法定で家賃1か月分です。5万円の物件を貸しても5万円しか収入がなく、低所得の人は事業コストが悪い仕組みになっています。また生活保護を受給していて75歳以上、精神障害などが重なると家主に次々と断られ、多い時は70件もの物件にあたることもあります。

人件費を考えると大赤字ですが、多様な背景を持つ方々と「住まい」を結ぶために、今は楽しみながら進めています。既存の大手不動産業者が、営利とは別に社会的な価値を考えて、住まい困窮者向けのサービスを始める、そうした「出口」を模索しながら事業を行っています。

今年2月までに計42人の相談者の住まいが実際に仲介に至った。事業開始後1年間のデータでは、初回相談から契約成立までの所要期間は平均48.4日だった(写真提供:自立生活サポートセンター・もやい)

3 理事長も、職員も、時給2000円

もやいは2019年3月、組織の信頼性を見える化する「グッドがバンス認証」を取得した

――NPOとして、対外的な面も含め組織の透明性にどう取り組んでいますか。

大西:まだまだ日本では「寄付で事業を回す」というあり方に、十分理解が進んでいるとはいえません。そうした文化をつくっていくためにも、もらったお金を何にどう使ってるのかなど、しっかり示して透明にしていくことは重要です。

私たちの事業費の半分以上は人件費です。少し考えればそれは当たり前のことですが、マイナスのイメージでとる人も多い。しかし僕は、皆さんの寄付であと何人の人が雇えて、それによってこれだけのことがやれる、と堂々と言っていきたい。スタッフはみな優秀なので、しっかりお金を払いたい。ちなみに僕も含めて、スタッフ全員時給2000円です。

――理事長の給与もオープンにしているわけですね。

大西:給与水準はNPOでは頑張っているほうかもしれませんが、民間企業の水準から比べたらすごく低い。NPOの運営の実際についても、もっと多くの人に知ってもらう必要があると思います。

また組織の透明性を示すという意味では、ボランティアへの意識もあります。ボランティアは、ある意味で最高のコミットメントをしてくれている存在です。そうした最も近くにいる人たちに対しても、財政や事業の内容が透明でないと信頼してもらえない。信頼してもらえることで、多くの人が参加し関わってもらえると思います。

グッドガバナンス認証:
一般財団法人非営利組織評価センター(JCNE)が、第三者機関の立場からNPOなど非営利組織の信頼性を形に表した組織評価を実施し、認証を行っている。2020年2月現在、全国9都道府県で計15団体が認証を受けている。信頼性を示す指標として、「自立」と「自律」の力が備わっているNPO であること、すなわち「グッドなガバナンス」を維持している組織を認証し、組織の信頼性を担保する。信頼性を見える化することにより、NPO が幅広い支援を継続的に獲得できるよう手助けをする仕組みだ。詳しくはこちらへ。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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