「学びの格差拡げない」NPOのオンライン支援

グッドガバナンス認証団体をめぐるカタリバ

新型コロナウイルスによる全国一斉休校が始まった直後の3月初旬、子どもたちに学びと居場所を提供するネット上の無料サービス「カタリバオンライン」が始まった。組織の信頼性を保証する「グッドガバナンス認証」取得団体であるカタリバが重視するのは、「NPOだからできるスピードとアイデア」だ。立ち上げから関わる瀬川知孝さんに、支援の現場について聞いた。(聞き手・村上佳央=非営利組織評価センター、堀理雄=オルタナ編集部)

「音楽クラブ」に参加する子どもたち。この日は話し合ってつくった歌詞に香川の中学生が曲をつけ、東京の小学生が伴奏した。プログラムはビデオ会議アプリ「Zoom」を使い同時双方向で行っている(提供:カタリバオンライン)

――カタリバオンライン立ち上げの経緯を教えてください。

カタリバはもともと高校生にキャリア学習の出張授業を届けてきましたが、東日本大震災を機に、被災地での学びや居場所支援が事業の柱の一つになりました。どんな環境にあっても未来は創り出せると信じられる。そういう力を育める社会をつくっていきたいという理念で活動しています。

一斉休校という非常事態のなかで、弱い立場の子どもが悪影響を受けやすい状況があります。情報環境や家庭の経済格差で生まれる経験や学びの格差を、多少なりとも抑制したい。ネット環境がない家庭への支援も進めています。小学生から高校生の子どもを持ち、居住する市区町村から就学援助や支援を受ける家庭で希望する100世帯には、パソコンやWi-Fi端末を無償で貸し出しています。

登録者数は現在(5月11日時点で)1700を超え、毎日100人以上の子どもが入れ替わり参加しています。約7割が小学生で、残りが中高生や未就学児です。

■名刺と一緒に持つクレド

――2月末の政府による突然の全国一斉休校要請を受け、約1週間後の3月4日にサービスを開始。なぜこれほど早く立ち上げられたのですか。

以前から、災害などで突然日常を奪われてしまう子どもを迅速にサポートできるように、「災害時子ども支援アライアンスsonaeru」という体制を組んでいました。今回その「sonaeru」チームの専任スタッフと代表の今村久美が真っ先に事業を計画して、私も含めたスタッフが加わり立ち上げました。

――変化する現場の状況にどう対応していますか。

カタリバではスタッフ一人ひとりの行動指針を3つの「クレド」として定め、「イノベーション」の指針では「NPOだからできるスピードとアイデアを駆使して、創りたい未来からはじめる」としています。

専任のチームがあるだけではなくて、その場や社会の状況に応じて自分たちのやるべきことや持ち場を臨機応変に変えていくスタンスや考え方を共有していることが、現場での柔軟な対応につながっているのかなと思います。職員はクレドを名刺とともに携帯しています。

■「つながれる喜び」を

インタビューした瀬川知孝さんは、カタリバマネージャーであり、カタリバが運営する東京都文京区の中高生専用施設b-lab(ビーラボ)副館長でもある

――プログラムの内容は学習支援だけでなく歌やダンス、フリートークなど多様ですね。

基本的に遊びと学びの中間のようなイメージでプログラムを作っています。休校を受けてオンライン授業や学習用の無料動画などを提供する取り組みも増えているなか、カタリバらしさを生かした支援は「居場所を提供する」ことだと思います。

同じテーマで工作をしてできた作品を撮り集めて一本の動画にしたり、子どもたちで作詞作曲をして一つの歌をつくったり、遊び要素があり対話的なコミュニケーションが取れるプログラムにも力を入れています。

みんなで一つのことに取り組み達成感を得ることが難しい状況のなかで、そうしたプログラムを子どもたちはすごく楽しんでいます。友達と会って話したり一緒に遊んだりする「つながれる喜び」。そこが(カタリバの)一番強いところだと思います。

一方カタリバオンラインでは、保護者への支援も課題の一つとして考えてきました。小さな子どもが家にいれば両親は目を離せません。自宅でリモートワークする人も多い。そうしたなか、画面の向こうでボランティアのお兄さんやお姉さんが子どもの相手をしてくれることは、保護者への支援になります。

■ボランティアの思いが仕組み動かす

――カタリバの活動では、親でも教師でもない「ナナメの関係」を重視されています。今回の取り組みでも大学生の「キャスト」や、音楽やイラストなど専門性を持った「師匠」など多くのボランティアが参加しています。

SNSで社会に広くボランティアを募集したところ、学生だけでなく会社が休業中だったりリモートワーク中の一般の方も手を挙げて関わってくれたことは、今までにない展開でした。常に100人以上の方が登録してくれています。

これまで取り組んできた事業でもそうでしたが、ボランティアやインターンとして思いを持って関わってくれている学生の存在は大きい。現場で熱い思いを持って目の前の子ども一人ひとりに「良い場所」を届けるために、そうした方々が関わってくれていることは本当に幸運です。

画面越しに子どもたちに声をかけ活動を見守る運営スタッフ(提供:カタリバオンライン)

■学校再開後にどう生かすか

――カタリバオンラインへの参加者は都市部が多いですか。

東京や大阪、名古屋などの都市部が多いですが、北海道や東北、四国など全国から参加があります。海外在住の日本の子どもも、数は少ないですが参加しています。

――今まで届かなかった子どもにも届いている。

その通りです。当初想定していなかったこうした展開は、一つの可能性と感じています。

――今後学校が再開されていくなかで、必要なことは何でしょうか。

再開後も、以前と同じような学校生活は感染防止の観点からも難しい。そのなかで、オンラインで見えてきたポジティブな側面を、学校と連携しながら積極的に生かしていくことが重要です。

例えば国内外の場所を問わず、病気や不登校の子であってもつながれるかもしれない。パソコンの支給など設備面も含め、学校や自治体と連携しながら、カタリバオンラインのサービスをカスタマイズして提供していくような展開も考えています。

■ステークホルダーと共に

――寄付も財源にすることで、幅広い社会課題の解決に向けた事業を展開されています。組織の信頼を高めて活動につなげていくために、どのような点を大事にしていますか。

個人サポーターなどカタリバを継続的に支援して頂いている方々をはじめ、応援者や協力者とつながっていきたい。今回の取り組みでいえば、資金だけでなくパソコンなど機材やプログラムの提供など様々な形があり、企業とも協力できるようアプローチしていければと考えています。

カタリバが大事にしてきたのは、ステークホルダーの皆さんと一緒に課題解決する姿勢です。例えばオンライン事業で自治体や学校と連携するのであれば、改めてどういった子どもにどんなサービスを届けていくのか。同じ立場で議論しながら一緒につくっていくということが、信頼を得て事業を進めていくために重要だと考えています。

グッドガバナンス認証:

一般財団法人非営利組織評価センター(JCNE)が、第三者機関の立場からNPOなど非営利組織の信頼性を形に表した組織評価を実施し、認証を行っている。2020年6月現在、全国10都道府県で計19団体が認証を受けている。信頼性を示す指標として、「自立」と「自律」の力が備わっているNPO であること、すなわち「グッドなガバナンス」を維持している組織を認証し、組織の信頼性を担保する。信頼性を見える化することにより、NPO が幅広い支援を継続的に獲得できるよう手助けをする仕組みだ。詳しくはこちらへ。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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