難病の子の教育空白埋める「未来のための今を」

グッドガバナンス認証団体をめぐる③ ポケットサポート

小児がんや心臓病などの難病を抱え長期入院する子どものうち、院内学級などで継続的な教育支援を受けられる割合は少ない。その教育や体験の空白(ポケット)を補おうと、ポケットサポート(岡山市)はNPO独自の視点で学習・自立支援を行う。医療や教育機関、支援者との信頼関係のなかで子どもの未来に寄り添う活動について、三好祐也代表に聞いた。(聞き手・村上佳央=非営利組織評価センター、堀理雄)

季節ごとのイベントなどを通じた子どもたちの交流支援にも力を入れる。写真は岡山の夏祭りで踊られる「うらじゃ踊り」(写真提供:ポケットサポート。以下同)

■「俺の未来明るいかも」

――支援のなかで大切にしていることは。

慢性疾患や難病は、完治までに長い時間がかかります。病気を抱え入院しながらも、その間の社会生活をいかにより良く営んでいけるのか、子どもにとっては「今」がとても大事だと感じます。

病気で長期入院するある中学生と、勉強の合間にeスポーツの話題で盛り上がったことがありました。彼は頑張っていたスポーツができなくなって、この先どうしようとふさぎこんでいました。

病室のベッドで「このゲーム、俺得意なんだけどな」という彼に「チャレンジしてみたら」とすすめると、「やってみようかな」と話が弾み、「お前ら何楽しそうなことしよるんじゃ」とやってきた主治医に彼は「いや先生、俺の未来明るいかも」と、入院中に見せたことのないような一面を見せたことがありました。

自分の未来を信じて将来を感じられるからこそ、しんどい治療も頑張ることができる。そんな彼ら彼女らの今を、そばで一緒に支えることが大事だと思っています。

学習支援のようす。三好さんは「誰しも一人で頑張ることはしんどいですが、同じように頑張っている人や支えてくれる人がそばにいるだけで、継続できるということはある」と話す

――医療など外部との連携や信頼関係が重要ですね

一つのNPOだけで課題解決は難しく、医療・教育機関や自立支援の専門家などと連携を取りながら、その子に合わせた形のサポートを大切にしています。活動を適切に伝えていくためにも大事なのは、支援者を含め関係するステークホルダーの方々と「細かくちゃんと話をする」ことです。

利用者である子どもたち自身の声や、彼らの置かれている環境をどのように改善していくのか一人ひとりに丁寧に伝えていくことが、子どもたちにしっかり支援を届けるために重要です。組織としての信頼をつくるためにも、適切な発信を大事にしています。

■「自分だけじゃない」

三好さんは香川県直島の出身。大学は子ども時代を過ごした院内学級のある岡山の大学に進んだ

――活動を始めたきっかけは。

私は「慢性ネフローゼ」という病気で、5歳の頃から8―9年間ほど入退院を繰り返す生活を送っていました。その入院中に通っていた院内学級が、とても楽しい時間でした。毎朝身支度して院内学級へ行くと同世代の友達がいて、国語や算数の勉強や休み時間にはトランプをしたり。そこでの生活を通して「闘病しているのは自分だけじゃない」と感じました。

その後岡山の大学に進学し、母校である院内学級でボランティアをすることにしました。そこで出会う子どもたちは自分と変わらず病気と闘い、付き合いながら学んでいました。闘病経験があり当事者の自分が「できるときに少しでも勉強しておくと良いよ」などと語りかけると、子どもたちもそれを受け止めてくれ、行動が変わっていくといった経験がありました。

子どもたちの親から「退院後もかかわってほしい」と言われたことをきっかけに、大学院で学ぶ傍ら病気を抱えた子どもたち専門の家庭教師を始めました。それが口コミなどで広がり、また岡山NPOセンターが行う社会起業家ゼミへ参加するといった活動のなかで、2015年にポケットサポートを設立しました。

病院内での学習支援や相談、退院後の訪問や交流の場づくり、啓発活動など、当時続けてきたことが現在も活動の柱になっています。2019年度は個別学習支援をのべ70人、交流支援を含めてのべ400人以上の子どもに支援を届けました。

全国で長期入院する子ども6300人のうち、継続的な教育支援を受けられるのは1割ほどという調査もあり、支援の重要性を感じています。

■支援する側の多様性も

――6年目を迎え活動が広がっていく中、専門性の高いスタッフをどう育成していますか。

代表の私をはじめ、当事者であるスタッフによる支援(ピアサポート)を進める一方、年間40人ほど登録してくれている大学生のボランティアたちは、様々な学部からの参加、中には疾患を抱えている人もいます。そうした支援する側のグラデーションもうまくいかしたマッチングが大事だと感じています。

例えば慢性疾患を抱えた思春期の女の子にかかわるとき、30代のおじさんよりは女子大生のほうがかかわりやすい。小難しい話より恋バナで盛り上がりたいわけです。絵を描くのが好きな子には技術面をサポートしてあげられる支援者など、一人ひとりの適性にあわせた支援も必要になります。

ボランティアへの説明会は、毎年2~3回行っている

とはいえ、子どもが入院する小児病棟内での支援はハードルが高いのも事実です。感染症への対策や個人情報の扱い、心のケアの問題などの知識や経験、専門性が求められます。ボランティアには活動の思いを知ってもらう説明会のほか、経験の積み重ねや講習会、適性検査などを通じてスキルアップする仕組みも取り入れています。

最近では岡山の教員採用試験でポケットサポートでのボランティア経験が評価されたり、支援学校にボランティアリーダーが採用されたりと、活動で培われたものが現場に生かされていく裾野の広がりもできています。

■寄付型NPOに向け「適切な発信を」

――組織運営では、どんな点に苦労していますか。

資金面が一番難しいと感じています。病気を抱える子どもやご家族は、医療費や通院費ほか経済的な負担が大きく、できる限り当事者負担はほぼなしを理想にしています。そのため寄付型NPOに向けて、認定NPO法人格のほか、組織の信頼性を担保する「グッドガバナンス認証」を取得しました。クラウドファンディングにも挑戦しています。

大事にしているのは、エンドユーザーである子どもたちに支援をしっかり届けるために、適切に発信すること。僕らの支援の先には、それを受けられない子どもがまだたくさんいます。活動を通じて関わった人が、そうした子どもに支援を届ける1人になってくれるかもしれません。

■コロナで失われる「息づかい」の感覚

――新型コロナウイルスにより、子どもたちへの対面支援が難しい状況です。

こうした感染症で一番あおりを受けるのが、難病や慢性疾患の子どもたちです。免疫が弱いため感染症で病気が重篤化したり、他の合併症を引き起こしたりリスクも高まる。支援者自身が難病当事者であることもあり、2月末からは病院内での交流支援や、事務所での子どもたちとの交流は全面的に休止しました。それは僕らの存在意義を根底から覆すような出来事でした。

しかしポケットサポートでは4年ほど前から、オンライン学習支援の試みも継続してきました。文部科学省などでも遠隔教育を導入する議論が進みつつあります。ただ僕らが大切にしてきた子どもたちとの関係性やその思いにリーチすることは難しくなっていることに変わりはありません。

例えば息遣いや細かな目線の動き、また算数の問題を解くときの手の動かし方で「ここでつまずいたな」と感じ取ったりしながら、学習支援を進めてきた、そうした感覚のようなつながりはオンラインでは難しくなります。

一方で「何もできない」と思うのではなく、できる手段で関係性をつくり、一人でも多くの子どもたちが病気のことを忘れたり、治療に前向きになったり笑顔になれる時間を提供するため、この状況下で何ができるのか、いまスタートラインに立ったばかりです。私たちの活動を信頼して力を貸してくれる人が一人でも増えることで、子どもたちの笑顔が増えていく未来をつくっていきたいです。

グッドガバナンス認証:

一般財団法人非営利組織評価センター(JCNE)が、第三者機関の立場からNPOなど非営利組織の信頼性を形に表した組織評価を実施し、認証を行っている。2020年8月現在、全国13都道府県で計25団体が認証を受けている。信頼性を示す指標として、「自立」と「自律」の力が備わっているNPO であること、すなわち「グッドなガバナンス」を維持している組織を認証し、組織の信頼性を担保する。信頼性を見える化することにより、NPO が幅広い支援を継続的に獲得できるよう手助けをする仕組みだ。詳しくはこちらへ。

インタビュー動画「難病持つ子の未来 学び通じて支える」(11分)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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