寛容さを伝える「注文を間違える料理店」

【連載】ソーシャルデザイン最前線

料理は人を大切にします。

以前、カンボジアにある高級カンボジア料理店「ロムデン」に行きました。フランスのNGOが運営し、身寄りがなかったり、虐待を受けたり、少数民族で迫害を受けていたりした青少年たちに、雇用の機会と職業技術を与えるためのレストランです。

今回のご紹介するのは、「カンヌライオンズ2019」デザイン部門でシルバー賞受賞、ACCのマーケティング・エフェクティブネス部門の最高賞である総理大臣賞/ACCグランプリに選ばれた「注文をまちがえる料理店」(一般社団法人「注文をまちがえる料理店」)です。

生き生きと働く認知症の方たち(提供:一般社団法人「注文をまちがえる料理店」)

ここでは認知症の方がホールスタッフとして働いています。お客様の方がそのことを認識しているので、大きなトラブルはありません。「注文をまちがえる料理店」(あさ出版)によると、60%以上のテーブルでなんらかの間違いが発生しましたが、90%のお客様が「また来たい」と回答しています。

これは、一人ひとりを理解しようとする優しさや尊重があれば、認知症の方も普通に社会生活を送れることを証明したプロジェクトです。認知症の方がスタッフとして働くことは、人に見られるので、脳にも良い影響があります。

一方で、どんどん日本の社会が寛容でなくなっていると感じています。

私個人の体験を振り返ると、電車やバス、レストランに幼児といるとうるさいと怒られたり、怪訝な顔をされたり。満員電車のなかで、肩があたったとか、老人にいちゃもんをつける中年サラリーマンがいたり。

故人を偲ぶ会をしていたら、うるさい周辺の家から警察に通報されたり、あおり運転があったり。

「注文をまちがえる料理店」は、人は間違っても受け入れられるべきであることを教えてくれます。

部下や子どもにがみがみ怒っている上司や親は、ぜひこの料理店を体験してみてほしいです。一人ひとりを理解しようとする優しさが広がれば、あったかい社会になるのではないでしょうか。

福井 祟人
カンヌ、NYADC、ADCなど国内外の広告賞の数々受賞。電通を経て、2017年事業構想大学院大学客員教授。京都芸術大学客員教授、一般社団法人2025PROJECT代表理事など他。書籍のプロデュースに『足りないピース』(小学館)、『Love Peace & Green たりないピース2』(小学館)、『エコトバ』(小学館)、『世界を変える仕事44』(ディスカバー21)、『この子を救うのは、わたしかもしれない』(小学館)、『希望をつくる仕事ソーシャルデザイン』(宣伝会議)。『シャプラニール流人生を変える働き方』(エスプレ)など多数。オーナーや社長の伴走者となり、30年間の経験による入口の経営コンサルから出口のクリエーティブまで一気通貫のブランド戦略開発といった独自のソーシャルデザインメソッドとシナジーを考慮したブランディングプロデューサー。

雑誌オルタナ59号(2019年12月17日発売)から転載

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福井 崇人(ソーシャルデザイナー)

カンヌ、NYADC、ADCなど国内外の広告賞の数々受賞。電通を経て、2017年事業構想大学院大学客員教授。京都芸術大学客員教授、一般社団法人2025PROJECT代表理事など他。書籍のプロデュースに『足りないピース』(小学館)、『Love Peace & Green たりないピース2』(小学館)、『エコトバ』(小学館)、『世界を変える仕事44』(ディスカバー21)、『この子を救うのは、わたしかもしれない』(小学館)、『希望をつくる仕事ソーシャルデザイン』(宣伝会議)。『シャプラニール流人生を変える働き方』(エスプレ)など多数。オーナーや社長の伴走者となり、30年間の経験による入口の経営コンサルから出口のクリエーティブまで一気通貫のブランド戦略開発といった独自のソーシャルデザインメソッドとシナジーを考慮したブランディングプロデューサー。

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キーワード: #障がい者

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