不妊症は「亜鉛不足が招く」か

【連載】KIYOの哲学 文・南 清貴、Liko イラスト南 景太

不妊に悩む夫婦が多いと聞く。日本産科婦人科学会の発表によれば、2016年に行われた体外受精の数が45万件で、その結果生まれた子どもの数が5万4千人を超えるという。その年生まれた新生児の数はおよそ98万人だから、18人に1 人は、人工授精によって生まれた子ども、ということになる。

これを単に時代の変化などと言って良いのだろうか。不妊の原因は晩婚化や貧困化をはじめ、さまざまあるが、食事によって本来摂取すべきミネラル分が不足していることも、その一因として挙げておかなければならない。

ミネラルの中でも「亜鉛」の不足は、生殖能力に大きく影響する。亜鉛は微量ミネラルと呼ばれ、なくてはならない必須栄養素の一つだ。なぜ亜鉛不足になるかというと、第一に挙げられるのは、米や小麦などの穀物を精白してしまうことである。

もう一つの理由は、化学肥料を使って栽培された野菜には、亜鉛をはじめとするミネラル分があまり多く含まれていないことだ。

三つ目の理由は塩の問題だ。本来の塩には、微量ながら亜鉛も含まれているが、化学精製塩は99%が塩化ナトリウムであり、当然亜鉛などのミネラル分は含まれていない。また、豆類や根菜や海藻類などの重要なミネラル源となる食品をあまり食べなくなったことも、原因の一つといえるだろう。

亜鉛不足が続くと味覚障害も起こると考えられている。そうなると濃い味を好むようになり、ジャンクフードを食べる頻度が高くなっていく。それがまた、亜鉛不足、ミネラル不足を招き、取り返しのつかない事態が生じる。

亜鉛不足解消のための初手は、未精製の穀類と豆類を食事のベースにすることだ。次いで重要なのは貝類や海藻などの海産物を適量摂取すること。さらに大事なのは亜鉛をはじめとするミネラル分をたっぷり含んだ野菜類を食べることである。それはつまり、オーガニック野菜ということになる。

理想的な食生活を継続していくために不可欠なのが、家庭料理の「システム化」である。食事というのは一度や二度、理想を実現したからそれでいい、というわけにはいかない。それを可能ならしめるのは外食や中食ではなく、家庭料理でしかない。その家庭料理に必要なのはテクニックではなく、システムである。家庭料理のシステム化は「日本オーガニックレストラン協会」(JORA)が教えている。

Likoのワンポイントアドバイス

亜鉛不足は、男性の生殖機能障害や味覚障害を引き起こすだけでなく、口内炎、皮膚炎、キズが治りにくい、食欲不振、脱毛、下痢、免疫低下、倦怠感、小児の発育不全など、さまざまな症状を引き起こす。亜鉛は体内で生成できず食物から摂取でまかなう必要があり、亜鉛含有量が多い食材は牡蠣やうなぎなどの魚介類、牛肉、豚肉、鶏レバー、卵黄、カシューナッツ、アーモンド、納豆などである。

一部の食品添加物が亜鉛の吸収を妨げること、アルコールの分解に亜鉛が使われることなどが知られており、加工食品の摂取量、飲酒量などにも気を付けたい。

KIYO(南 清貴)
フードプロデューサー・一般社団法人日本オーガニックレストラン協会代表理事。「オプティマル・フード・ピラミッド」を料理の中心に据え、自然食やマクロビオティックとは一線を画した創作料理を考案・提供している。「オプティマルクッキングアカデミー」受講生募集中! 最新刊は『大切な人に食べさせたくないもの、食べてほしくないもの』(ワニ・プラス) www.kiyo-san.jp/

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ココロとカラダと地球に優しいスロースタイルを発信するNPO法人Liko-net/照井敬子

雑誌オルタナ58号(2019年9月30日発売)から転載

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KIYO (南清貴)

KIYO(南清貴) 一般社団法人日本オーガニックレストラン協会代表理事 食事の大切さを提唱し家庭料理のシステム化の普及に取り組んでいる。著書『行ってはいけない外食【10万部突破】』(三笠書房)、『究極の食』(講談社)等多数。最新刊『大切な人に食べさせたくないもの食べてほしくないもの』(ワニプラス)。

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