何が内緒よ。奈緒子はすぐ徹に連絡した。追いかけるように新しいメールがきた。熱が39度に上がり、意識もうろうで布団に寝ているという。今回は画像付きで、確かに顔が真っ青だ。それからが大変だった。救急車に搬送を断られ、帰宅した徹がアクリルのパーティションで座席を仕切りながら自分の車で病院に連れて行ったのだ。美代バアは三日三晩、昏睡状態が続いたが命だけはなんとか助かった。
面会もガラス越しだ。力持ちの大型介護ロボットが美代バアを車いすに乗せて来てくれた。
「お世話できなくて御免なさい」と謝る奈緒子に、「そんなことしたらコロナがうつるよ」と美代バア―は相変わらず冷ややかだ。膝の上にはキバタンがちょこんと座っている。俊太が「あれっ」と驚いたように美代バアの後方を指さした。白髪の品のいい紳士が新しいキバタンを片手に笑っている。
「おばあちゃんの恋人だよ」とキバタン。
「何言うの、キバタン。みんな、紹介するわ。隣室の方。いい人なのよ。家族がいなくて孤独なの。夜になると寂しくて泣くもんだから、一晩、キバタンをお貸ししたの。そしたら、とっても気に入ってしまって。ついにご自分用に購入されたというわけ。ねっ」
そう言ってウインクする母の笑顔が徹にはまぶしかった。病気をしたのに十歳も若返ったように見えた。キバタンはよくやってくれていて大助かりだが、母はお隣さんの方が楽しそうだ。当たり前だ。人間なんだから、その方がいいに決まっている。放っておいてすまなかったな、お袋。退院したら奈緒子と一緒になるべく、顔を出すからね。徹は今更ながらそう心に誓った。 (完)
おばあちゃんの恋人(希代準郎)
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